冷蔵庫から冷えた水をペットボトルのまま口をつけて昨晩飲みすぎて何も受け付けない胃に水を一気に注ぎ込んだ。

ゴホッゴホッ!!

「何これ」

《疲れました》
《もう無理です》

意味深過ぎる副社長のメール。
そのまま携帯の電源を落としたい。

「こうもどうして近付いて来るのよ…」

前ならすぐ電話をしたと思う。
今の私は声を聞く気持ちになれない。

またブルッと振動がして

《白石さんにしか頼れないのに困ってます》

理由も何も分からない。
わざと?
でもこれが仕事の事だとしたら私の気持ちも何もあったもんじゃない。
模擬式は2週間後で各方面で大々的に宣伝もしてる。

一呼吸と残りの水を飲み干して“今から行きます”とメールの返事をした。


上層部フロアはいつも通り静かでIDを通し足早に副社長室を目指す。

急いでV字に開いたワインカラーのサープリスネックのブラウスと黒のワイドパンツに着替え急いだけれど既に20時前。

「はぁ…」

副社長室前には灯りが点いてるのが分かり躊躇しながらもノックした。

「どうぞ」

今日は中から副社長の声がしてまた熱で倒れてるわけではない事には安心する。

「失礼します」

緊張した面持ちで一歩副社長室に入るといつもの席で書類に目を通してる。

「何かありましたか…?」

模擬ウエディングでのトラブルじゃない事を祈る。

「こちらに来て貰えますか?」

副社長は書類から私を見て隣を指さした。

何度もこの部屋には来た事がある。
でも一度もあちらの席側へは行った事がない。

「そちらにはさすがに」

どうしても隣には行けず立ち竦んだ。

重要物が山積みの副社長の席に誰も簡単に行けるわけもない。

「そうですよね。見られて困る物はここには無いんですが…気を使ってくれてありがとう」