「仕事で悩んでたわけでは無いのね」

「すみません。心配させちゃって」

チーフ達には副社長と飲み友達だと話してたから少し話すだけで分かってくれる。

「恋愛の教育係か…私でも無理」

「ははっ…それ円生にも言われました。やっぱり天然だからですか?」

「天然と言うかまさか気付いて無いの?」

何か見落としてる事ある?
藍沢チーフはまた“ふふっ”と楽しそうに笑って私が持って来た打ち合わせ用の書類に目を落とした。

「何か進んだら連絡してね」

藍沢チーフは楽しそうに私の背中を叩いて他のスタッフに無線で呼ばれたらしく「またね」と言って去って行った。

「進むって…そんな事あるわけない」

内ポケットで震える携帯を見ると南館の橘チーフからメールが届いてた。


「チーフまた副社長が探してました」

橘チーフの紹介で模擬ウエディングで飾られる花々の打ち合わせを終えた私は席に着く間も無い。

「またですか」

「えぇ‥チーフじゃないとダメらしくて」

「また」を強調して話す前島さんは苦笑いでお茶をデスクの上に置きお茶菓子代わりの要らない話を伝言してくれた。

「分かりました。連絡入れてみます」

前島さんに苦笑いで返事をして彼女に溜息を見られないように小さく息を吐き受話器を持った。

1回のコールのが鳴ると同時にガチャリと受話器を取る音がして『副社長室丸山です』と無機質な声が耳に障る。

「お疲れ様です。北館チーフ白石です。副社長が私を探してたと聞いたんですが」

携帯番号知ってるんだから直接連絡をくれればこの無機質な声を聞かなくても良いのに。

右手に持ったボールペンで意味の分からない絵を書いては塗りつぶす。

『ただいま副社長は一ノ瀬常務とお話中ですので連絡があった旨お伝えします』

「宜しくお願い致します」

静かに受話器を置いて少しホッとした。

“今日は何だろう”とほぼ毎日彼の恋愛トークを聞かされてる。

恋愛歴の少ない私には荷が重すぎる。
断れない性格がアダとなって自分の気持ちまで重荷になっていた。