従業員の通用口を出て駅までの道のりをゆっくりと歩き回れ右をする。

駅から逆の道を少し歩いて1本目の路地を曲がる。道なりに歩くと微かに灯るランプを目印に歩くスピードを上げた。

BAR makarios(マカリオス)ギリシャ語で至福・幸いという意味で本来は“神の恵みを受け取る人”という意味を持ってるらしい。

大学時代から行きつけの隠れ家的なBARで水濡れ王子の副社長と出会ったのもこの店だ。

「桜子?おぉ!久しぶり」

髭にアフロのマスターは目を細めて私に「よっ」と手を上げた。
暗めの入口のせいで入って来た人がハッキリと見えないらしい。

「照明こっちにも付けたら良いのに」

カウンター席には誰も居らずど真ん中の席に座り温かいおしぼりを受け取った。

「ほらよ!まずは生行くだろ?」

言い方は居酒屋風だがサーバーから注がれたビールは下でくびれた可愛い形のビアグラスに注がれて美味しそうな泡がちょうど良い比率で私の目の前に置かれた。

「うっまぁ〜!!毎日掃除してるだけあるね」

ビールサーバーは何度も管を水通しをして1日で溜まるビール粕を取り除いてると聞いた

「これも含めて俺の仕事だしな。お前も仕事に手抜かないだろ?」

ーープロ意識と言うのかな。

アフロのマスターの気に入ってる所であり尊敬してる所。

どんな仕事でも誇りを持って一途に頑張る!

私が大学卒業して蘇芳に入社すると知り熱く語られた事を思い出す。

「そうそう。千晶は元気か?最近顔見せないけど」

「うん。元気だよ。また振られて意味分かんない事言ってる」

「あいつも変わんねーな。あれでえっと…そうそう財閥金持ち御曹司だろ?」

「見えないな」と続けてハハハッと豪快に笑いカカオ度高めのチョコとピスタチオを出してくれる。

カカオ度高めだと甘すぎず私には最大のおつまみになってお酒が進む。
生ビールを2杯飲んでハイボールを注文した。

「今日はどうした?何か無いと来ないだろ」

さすがマスター。
表情で読み取るとこも夜のプロ。