悪戯心と悪い男

大きく深呼吸をし
チェーンをかけたまま玄関を開けると

「やっぱいた。香、開けてよ」

小さく開いた玄関の隙間から
甘えた声でそんな事を言うこの男は
ネジがとんでるんじゃないだろうか。

「開けてんじゃん」

「チェーン外してないじゃん」

「開ける必要なくない?」

「何でそんな急に冷たいの?」

「え、ウザいからだけど…」

「何か怒ってる…?」

こいつは、記憶喪失か何かなのかな。

「別れたんだからもう関係なくない?」

「あんなのただのケンカじゃん。
俺、何かイライラしちゃって…
ごめんね?仲直りしよ?」

そう言いながら、玄関の隙間から
手を差し込んできているけど

「その手、扉で思いっきり挟んでいいんだよね?」

そう淡々と言うと
さっと手を引っ込めてしまった。

「ねー、香。開けてってば…」

「功太ってストーカーなの?警察呼んでいい?」

「………」

「はい、さいなら」

そう一言言って玄関の扉を閉めた。