食事が終わって後片付けも済んで、テーブルをきれいにしてから、五人で再び席に着く。
何となく重苦しい空気の中、フミが「何か飲み物でも」と立ち上がりかけたのを「待って」と止めて、「先に話してもいいかな」とアドじいが口を開いた。
「まさかノンノの耳にも入ってたとは、知らなかったよ」
内緒にしておくつもりだったんだけど、とアドじいは困ったように眉を下げる。
「実は、ずっと考えてたんだ。ウッキは、ノンノと同じ十四歳からサンタのお手伝いを始めて、正式にサンタになったのは二十歳だったんだけど」
「えっ、正式なサンタになるのに六年もかかるの!?」
思わず話に割り込んでしまって、隣に座るレラから「話の腰を折るなよ」と小突かれる。
「あはは。ウッキはたまたまだよぉ。あの頃はサンタが余ってたしね」
それでね、と続きを語ろうとして、やっぱり何か口が寂しいと思ったのだろう、フミに「ごめんね、やっぱりお茶を淹れてくれないかな」と言った。そこで「だから言ったじゃないですかぁ」なんて言うフミではない。
「もちろんです。アードルフ様はミルクティ、レディはココアですね? あなた達は――」
「俺は何でもいい」
「僕も、アディ様と同じのがいい!」
ぶっきらぼうなレラとは対照的にワッカは腰を浮かせて挙手までしている。たぶん、ちょっとでも場の空気を明るくしようとしてくれてるんだと思う。それに感化されたか、レラもすっくと立ち上がり、
「茶菓子もいるだろ」
なんて言って、キッチンの方へ向かって行った。
トナカイ達がそろうまでは、別の話をした。主にアドじいが見習いサンタだった頃の話だ。いまでこそベテランサンタのアドじいだけど、見習いの頃は大小さまざまの失敗をしては、先輩であるパパサンタとおじいちゃんサンタに叱られていたんだって。
そんな雑談をしていると、テーブルの上に人数分のカップが並んだ。真ん中には、アドじいの大好きな焼き菓子。
「ええと、それじゃ続きなんだけど」
その言葉に、ごくりと唾を飲む。
「ウッキ、サンタになってからずーっと働きづめでね。もちろん仕事はとても楽しいしやりがいもあるんだけど、ほら、お休みがないから。だから、ちょっと疲れちゃったっていうか」
やっぱり!
やっぱり辞めちゃうんだ!
でも、そうだよね。アドじいだって疲れたよね。いくら自分のパパやおじいちゃんがまだ現役だっていっても、だからって同じように働かなくちゃいけないってなったらプレッシャーだよ。
辞めないでなんて無理言っちゃってごめん。
そう考えて、にじんできた涙をぐいっと拭う。
いいよ、もう。お疲れ様、アドじい。そう言おうとしたところで――、
「だからね、思い切って年末は有休を使ってここを閉めて、ハワイに行ってみようと思って!」
うん?
ううん?
いま、なんて言った?
「え、あの、アドじい、いまなんて……?」
「ハワイだよ、ハワイ! ウッキ、ずーっと寒いところに住んでるから、南にに行ってみたかったの!」
「は、はぁ……?」
「え、ええ、アディ様……?」
「年内で閉めるって、そういうこと……?」
「ずーっと悩んでたんだ。だって、ここを閉めちゃったら、その分の仕事どうしようって。他の営業所のサンタ達にも相談したりしてね。そしたら『アードルフは真面目に働きすぎだよ。有休は使うためにあるんだぞ』って、逆に怒られちゃって」
アドじいはどこからか、ハワイのガイドブックやパンフレットを取り出して、それをテーブルの上に並べた。だいぶ読み込んでいるらしく、付箋《ふせん》がたくさん貼られている。
「そ、そうなんだ……」
何かもう気が抜けて、涙もすっかり乾いちゃった。
「で、水着なんかも用意してみたんだけど、それでもまだ踏ん切りがつかなくてね。だってやっぱり他の営業所に迷惑かけちゃうと思って。でもね、最後に背中を押してくれたのは、ノンノだよ!」
「へ? 私?」
「サンタやりたいって言ってくれたでしょ? ウッキ、それですっごく安心しちゃって。留守の間もここを任せられるって思ったら、もう絶対行きたくなっちゃったんだよね。ねぇノンノ、ウッキ、飛行機に乗ってハワイ行ってみたいんだけど、その間ここを任せてもいい?」
目をうるうると輝かせて、そう尋ねられたら、私の答えなんて決まってる。
「もちろん! 私にはトナカイ達もいるし、どどーんと大船に乗ったつもりで任せて!」
ぽん、と胸を叩いてそう言うと、トナカイ達が一斉に立ち上がり、私の周りに集まって――まぁレラは隣に座ってたから動かなかったけど――来た。
「アディ様、ここのことは僕らと花ちゃんに任せてください!」
「そうですよ、アードルフ様! 留守は私達とレディがしっかり守ります!」
「行って来いよおやっさん。あとチビ、サンタが乗るのは船じゃなくてそりだからな。そこんとこ、はき違えんな」
いや、レラ、それはそういう言葉のやつだから!
何となく重苦しい空気の中、フミが「何か飲み物でも」と立ち上がりかけたのを「待って」と止めて、「先に話してもいいかな」とアドじいが口を開いた。
「まさかノンノの耳にも入ってたとは、知らなかったよ」
内緒にしておくつもりだったんだけど、とアドじいは困ったように眉を下げる。
「実は、ずっと考えてたんだ。ウッキは、ノンノと同じ十四歳からサンタのお手伝いを始めて、正式にサンタになったのは二十歳だったんだけど」
「えっ、正式なサンタになるのに六年もかかるの!?」
思わず話に割り込んでしまって、隣に座るレラから「話の腰を折るなよ」と小突かれる。
「あはは。ウッキはたまたまだよぉ。あの頃はサンタが余ってたしね」
それでね、と続きを語ろうとして、やっぱり何か口が寂しいと思ったのだろう、フミに「ごめんね、やっぱりお茶を淹れてくれないかな」と言った。そこで「だから言ったじゃないですかぁ」なんて言うフミではない。
「もちろんです。アードルフ様はミルクティ、レディはココアですね? あなた達は――」
「俺は何でもいい」
「僕も、アディ様と同じのがいい!」
ぶっきらぼうなレラとは対照的にワッカは腰を浮かせて挙手までしている。たぶん、ちょっとでも場の空気を明るくしようとしてくれてるんだと思う。それに感化されたか、レラもすっくと立ち上がり、
「茶菓子もいるだろ」
なんて言って、キッチンの方へ向かって行った。
トナカイ達がそろうまでは、別の話をした。主にアドじいが見習いサンタだった頃の話だ。いまでこそベテランサンタのアドじいだけど、見習いの頃は大小さまざまの失敗をしては、先輩であるパパサンタとおじいちゃんサンタに叱られていたんだって。
そんな雑談をしていると、テーブルの上に人数分のカップが並んだ。真ん中には、アドじいの大好きな焼き菓子。
「ええと、それじゃ続きなんだけど」
その言葉に、ごくりと唾を飲む。
「ウッキ、サンタになってからずーっと働きづめでね。もちろん仕事はとても楽しいしやりがいもあるんだけど、ほら、お休みがないから。だから、ちょっと疲れちゃったっていうか」
やっぱり!
やっぱり辞めちゃうんだ!
でも、そうだよね。アドじいだって疲れたよね。いくら自分のパパやおじいちゃんがまだ現役だっていっても、だからって同じように働かなくちゃいけないってなったらプレッシャーだよ。
辞めないでなんて無理言っちゃってごめん。
そう考えて、にじんできた涙をぐいっと拭う。
いいよ、もう。お疲れ様、アドじい。そう言おうとしたところで――、
「だからね、思い切って年末は有休を使ってここを閉めて、ハワイに行ってみようと思って!」
うん?
ううん?
いま、なんて言った?
「え、あの、アドじい、いまなんて……?」
「ハワイだよ、ハワイ! ウッキ、ずーっと寒いところに住んでるから、南にに行ってみたかったの!」
「は、はぁ……?」
「え、ええ、アディ様……?」
「年内で閉めるって、そういうこと……?」
「ずーっと悩んでたんだ。だって、ここを閉めちゃったら、その分の仕事どうしようって。他の営業所のサンタ達にも相談したりしてね。そしたら『アードルフは真面目に働きすぎだよ。有休は使うためにあるんだぞ』って、逆に怒られちゃって」
アドじいはどこからか、ハワイのガイドブックやパンフレットを取り出して、それをテーブルの上に並べた。だいぶ読み込んでいるらしく、付箋《ふせん》がたくさん貼られている。
「そ、そうなんだ……」
何かもう気が抜けて、涙もすっかり乾いちゃった。
「で、水着なんかも用意してみたんだけど、それでもまだ踏ん切りがつかなくてね。だってやっぱり他の営業所に迷惑かけちゃうと思って。でもね、最後に背中を押してくれたのは、ノンノだよ!」
「へ? 私?」
「サンタやりたいって言ってくれたでしょ? ウッキ、それですっごく安心しちゃって。留守の間もここを任せられるって思ったら、もう絶対行きたくなっちゃったんだよね。ねぇノンノ、ウッキ、飛行機に乗ってハワイ行ってみたいんだけど、その間ここを任せてもいい?」
目をうるうると輝かせて、そう尋ねられたら、私の答えなんて決まってる。
「もちろん! 私にはトナカイ達もいるし、どどーんと大船に乗ったつもりで任せて!」
ぽん、と胸を叩いてそう言うと、トナカイ達が一斉に立ち上がり、私の周りに集まって――まぁレラは隣に座ってたから動かなかったけど――来た。
「アディ様、ここのことは僕らと花ちゃんに任せてください!」
「そうですよ、アードルフ様! 留守は私達とレディがしっかり守ります!」
「行って来いよおやっさん。あとチビ、サンタが乗るのは船じゃなくてそりだからな。そこんとこ、はき違えんな」
いや、レラ、それはそういう言葉のやつだから!