「…ってのは冗談。ビックリした?」


アハハ!と笑う蒼空はいつも通りの蒼空だけど、でも…。


今の表情は気のせい…?


本当の蒼空はどんな人なんだろう。


底抜けに明るく笑う蒼空は、仮面を被った蒼空?


今ここで笑っているのは、本当の姿じゃないの?


「ねぇ蒼空―」


「お兄ちゃーん!!」


前方から、小さな女の子が走ってくる。


蒼空のことを“お兄ちゃん”と呼んでいて、蒼空はその子を見て眉をひそめている。


蒼空の細い足にギュッと抱きついたその子は、小学1年生か2年生くらいだろうか。


幼いながらに完成された可愛らしい顔が蒼空によく似ている。


この子が前に言っていた妹かな。


「ごめん花純。今日はここでお別れ。また明日ね」


妹さんを軽々抱きかかえ、にっこりと笑う蒼空。


さっきの暗い面影はどこにも残っていない。


…気のせいだったんだろうか。


本当の蒼空は、どんな人なんだろうか。


触れてはいけない闇のようで、聞けなかった。


「うん、また明日ね」


微妙な空気を残して蒼空たちはそそくさと帰っていってしまった。