【電子書籍化】このたび、乙女ゲームの黒幕と婚約することになった、モブの魔法薬学教師です。

 ノエルが相手をしてくれるなら、きっとフレデリクはゲームのような行動をとらないはず。

 フレデリクは決闘の相手を見つけるために、なぜかラクリマの湖に棲む水の精霊ウンディーネに騎士を紹介してくれと頼むのよね。
 ウンディーネはちょうど人間の男性(騎士)と失恋したばかりで間が悪く、フレデリクの頼みごとに激高してしまう。

 精霊の魔法なんてだれも太刀打ちできないんだけど、まあ、そこでサラが登場する。
 光使いの存在は精霊たちにとっても特別で、そんなサラの言葉をウンディーネは聞いてくれてフレデリクは難を逃れるのだ。

 うん、フラグは折ったし、これでシナリオから逸れたらバッドエンド回避はさらに確実なものになるはず。

「なんだ小娘、嬉しそうだな」
「ええ、今日の私は絶好調よ。箒がなくても空を飛べそうなくらいだわ」
「お前……大丈夫か?」

 失礼な、まるで私が頭がおかしくなったかのように言ってくれるじゃない。まあ、今日は機嫌が良いから、ジルがなにを言おうと許してやろう。

 ひと仕事終えた晴れやかな気分で廊下を歩いていると、前方からサラがやってくる。その隣に居るのは――。

「ダルシアク、さん?」

 おいおいおい、なんでこの人はまた堂々と校内を歩き回ってるの?!
 週に何度も見かけるんだけど、そんなにオルソンのことが心配なわけ?
 
 恐るおそる近づいて見ると、二人は笑い合って楽しそうに話している。

「ダルさん久しぶりだねー!」
「そうだな、サラちゃんは見ないうちに身長伸びたかー?」
「もー! そんなわけないでしょー!」

 ダルさん?
 サラちゃん?

 ヒロインと黒幕の手下が仲良くしてる、だと?

 ダルシアクさんの変わりようには驚かされるけど、それ以上に二人が仲良しなのに驚愕する。

 なに?
 なにが起こってるの?

 ゲームではこんなシーンなかったわよ?

 どうなっているのかわからないけど、見過ごすわけにはいかない。

「あ、あら、二人とも楽しそうね」
「あっ! メガネ先生やっほー!」

 満面の笑顔を向けてくれるサラの隣で、ダルシアクさんも笑顔なんだけど、凄みを含ませて威嚇してくる。

 あんたの圧になんて負けないわよ。
 婚約を持ちかけた時のノエルの方が数倍怖かったわ。

「何の話をしていたの?」
「週末の打ち合わせだよー! ダルさんがラクリマの湖に連れてってくれるのー
ー!」
「あ、あら、いいわね。友だちも一緒に行くの?」
「うん! イザベルと、モーリーと、ジーラと、クララと、ドルドルと、あと、不本意だけどアロイス殿下!」

 半分以上があだ名のせいでパッと聞くだけだと誰だかわからないわ。

「モーリーは誰かしら?」
「ディディエ・モーリア!」
「じゃあ、ジーラは誰?」
「フレデリク・ジラルデ!」
「クララは誰かしら?」
「セザール・クララック!」
「最後のドルドルって誰なの?」
「オルソン・ドルイユ!」

 聞けばサラの口からスラスラと本名が出てくる。

 なるほどなるほど、メインキャラ祭りだわ。
 フルメンバーで集まっていたらきっとトラブルが起こるはず。ダルシアクさんがいるから割増しで不安だ。

 なんてことをしてくれるんだ。
 せっかく私がシナリオから道を逸らしたというのに、これじゃあ元通りになってしまうわ。

 クッ、余計なことを。

 それなら私もついて行ってトラブルを未然に防ぐまでよ!
 フレデリクがウンディーネに会わないようにしてやるんだから!

「楽しそうね。私も一緒に行こうかしら」
「わーい!」

 喜ぶサラの隣で、ダルシアクさんから「来るな」ってオーラが漂っているけど気にしない。気にするものか。
 
「ベルクール先生、俺が一緒に行きますので心配しないでください」
「いいえ、生徒たちだけで外出する時は教師も同伴することになっていますの。オリア魔法学園の規則ですから」
「しかし、学園長にはすでに許可をもらっていますし」
「あら、付き添いが増えたところでなにか問題でも?」

 ふふふ、モブだからって舐めてもらっちゃ困るわ。前世でモンスターペアレントと繰り広げた数々の戦いのおかげでたいていのことじゃめげないわよ。
 うんというまでつき合ってやろうじゃないの。

 そう勇んで挑んだというのに、後ろから強烈な殺気がして、驚きと恐怖のあまり戦意を喪失した。

 振り返ると、ノエルが、こちらもまた笑顔に圧を込めて立っている。

「楽しそうな話をしているね。僕も一緒に行くよ」

 有無を言わせない口ぶりに、私もダルシアクさんも頷くしかなかった。

「わーい! ファビウスせんせーも一緒だー!」

 ただ一人、サラだけは殺気に気づくことなくふにゃりと笑っている。
 さすがは選ばれし光使い、怖いものはないようだ。

 こうして私たちは、週末にラクリマの湖に行くことになった。