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 母校で教鞭を執るようになってから一年が経った。

 一年前に入学してきた生徒たちは、復讐劇にはお誂え向きの役者がそろってくれていて、おかげで実に順調に計画が進んでいる。

 ただ一人、想定外の人物がいた。

 平民だが特待生としてオリア魔法学園に入学した生徒サラ・リュフィエ、光使いとして目覚めた彼女は救国の光使いともてはやされている。

 しかしその力はまだ未熟で、警戒するほどではなかった。
 それに加えて、彼女自身は突然目覚めた力に困惑していて、周囲から期待されるのに疲弊している。
 庭園で落ち込んでいるのを見かけたから、「無理に役目を果たさなくていい」と言ってやったら、心底安心したような顔をしていた。

 あの子はきっと、この先も光の力を扱えないだろう。
 簡単に人の言葉に流されるような弱い人間には、とうてい扱いきれない力だ。

 それでいい。
 邪魔者は、少ないに越したことはない。

 この国とこの学園に鉄槌を下ろす時、それが、最後の日となるように、力を削ぎ落していくつもりだ。

 手始めは、この国の王子から。
 氷の王子様と呼ばれるほどに何者にも慣れ合おうとしない孤独な異母弟に、役に立ってもらおう。

 彼は僕自身の存在を知っているから初めはかなり警戒されたが、いまでは随分と心を開いてくれた。
 王子といえど結局はただの人間で、同情した素振りを見せているうちに信用してくれたようだ。

 その証拠に、放課後に話しかけてくるようになった。

 いまもベンチに座って、僕が通りかかるのを待っているのが見える。
 試しに手を振ってみると、嬉しそうな顔をして駆け寄ってきた。

「ファビウス先生、予習していてわからなかったことがあったので、教えてください」
「もちろんだよ」

 すっかり氷の王子様らしさを失った彼はきっと、他の兄弟たちとは関わることができなかった分、僕を兄として慕い、寂しさを埋め合わせようとしているのだろう。

 王族の血を引く者同士だから自分の気持ちをわかってくれると、甘えた考えを持って接してくる王子。
 憎くも可愛い異母弟だ。
 
 それでいい。
 なにも知らずに、絶望に落ちてしまえ。