◇
ドナやサラたちから「とにかく走れ」と言われて足を動かすうちに、図書館までたどり着いた。
「アロイス殿下と落ち合うまでとにかく逃げるぞ」
「落ち合う?! ちょっとあなたたち、なにをしようとしているの?!」
「うっせーな。メガネは黙って守られてろ」
「そんなわけにはいかないわ。私があなたたちを守らなきゃいけないのに、なにも知らないままになんてできません!」
「くそっ。こんなこと話してる場合じゃねぇんだって」
ドナが苛立ちを隠さずに悪態をつくと、フレデリクがドナを窘めた。
こういう時は本当に、フレデリクの存在に助けられる。
世話好きでいつもみんなのことを気に掛けてくれているフレデリクだからこそ、求めている答えを教えてくれるのを知っていて。
フレデリクの仏頂面が見えると、途端に安心してしまう。
「メガネ、俺たちはアロイス殿下の呼びかけに集まったんです。メガネとファビウス先生が国王陛下に狙われているから助けて欲しいと言われて、今日のために何度も集まって作戦を練り続けていたんですよ」
「えっ……?」
「初めは俺たちも半信半疑だったんですけど、アロイス殿下があんまりにも必死になって説得するものだからアロイス殿下の言葉を信じて協力することにしたんです。なにより、メガネとファビウス先生には幸せになって欲しいですので」
アロイスが、私とノエルのために他の攻略対象たちを巻き込んで動いている?
ノックス国王はアロイスの実の父親なのに、父親から私たちを守ろうとしてくれているというの?
「アロイス殿下は今日で全てを終わらせるつもりで動いているんです。本気で全力で動いているから、俺たちも必死なんですよ」
どうして?
みんなにとってはこの国で一番偉大な存在に反逆するようなことなのに、どうしてここまでしてくれるのかわからない。
「みんな、自分がなにをしているのかわかっているの? 国王陛下に挑むなんて、不敬罪に問われるかもしれない事よ?」
私とノエルでどうにかしなくちゃと思っていた。
それなのに、守ろうとしている生徒たちが前に出てきたら、彼らもまたノックス国王の餌食になりそうで怖い。
「メガネ、オリア魔法学園の三か条を忘れたんですか? ”博愛をもって仲間と共に精進せよ”、でしょう? メガネもファビウス先生もアロイス殿下も、困っているなら俺たちは助けるまでです。それに俺たちは、メガネに恩返しをしたいから」
「そーです! メガネ先生を泣かせたら私が許しません!」
サラがぎゅっと抱きしめてくれると視界が滲んだ。
ゲームでは力を合わせてノエルを倒そうとしていた彼らが、いまは私とノエルのために力を合わせてくれているのが嬉しくて。
みんなの気持ちに触れるように、そっと、リボンだらけのブローチに触れる。
「ありがとう。みんなの気持ち、本当に嬉しいわ。だけど私はみんなのことが大切だから、これ以上は止めて欲しいの。みんなには無事に卒業して、幸せになって欲しいから。だからもう……」
――もう、私とノエルのことは放っておいて欲しい。
そう言おうとすると、オルソンが人差し指を立てて言葉を遮る。
「んも~、レティせんせはすぐに自分で抱え込もうとするんだからぁ。先生がなんと言おうと俺たちはもう後に引かないから、観念して守られて?」
全く引く気はないから、と知らしめるように、オルソンはサラの反対側から抱きついてくる。
二人ともなにがあっても離れる気はないようでしっかりと隙間なくくっついており、身動き一つさえ取れない状態だ。
みんなには無事にハッピーエンドを迎えて欲しいから私とノエルに関わって国王に目をつけられて欲しくないのに。
ほとほと困り果てていると、セザールがニヤリと不敵に微笑む。
「ご安心ください、私は勝算が見込めない戦いには参加しない性質なんです。必ずやお二人を救い出し、数々の愚行を繰り返してはもみ消している暴君に一泡吹かせてやるつもりです」
この世で敵に回したくない奴のベストファイブに入るようなセザールに言われると妙に安心してしまうわ。本当にノックス国王の痛いところを突いて負かせてくれそうだもの。
……いや、さすがにそれは過信よね。
いち学生が国の最高権力者を相手にするなんて現実的じゃないわ。
そう思っていたのに――。
「ぼ、僕たちはもう、ただの弱い子どもじゃないんです。もうすぐで大人になりますし、守られるだけではなくて守りたいですし、なにより、僕たちの未来を一緒になって考えてくれた先生たちには幸せになってもらわないと、一生後悔すると思ったんです。だから先生、僕たちに守らせてください……!」
ディディエが力強く言い切る姿を見ると、みんなを止める言葉はどこかに消えてしまって。
なにも、言葉をかけられなかった。
改めて一人一人の顔を見ると、いつの間にかみんな、あどけなさがなくなっている。大人の顔つきになったみんなが向けてくれる眼差しはただただ優しくて、頼もしくて、縋りたくなってしまいそうになる。
「そーいうわけだ。だからメガネは守られとけ」
ドナはそう言うと、また私の手を掴んで歩き出す。
しかし、目の前に現れた集団に足を止められてしまった。
「ベルクール先生、探しましたよ。こんなところにいたんですね」
ドーファン先生が王宮の近衛騎士たちを引き連れて現れたのだ。
「国王陛下がお呼びですよ。生徒たちを傷つけられたくなかったら、大人しく私たちについてきてください」
「……わかりました」
治癒師らしからぬ発言に不穏な予感を感じ取ってしまう。
ドーファン先生はノックス国王側の人間だ。
さっき見かけた時から、先生の視線の中に殺気めいたものがあったのが、ずっと気にかかっていた。
ノエルを守るには、みんなを守るには、どうしたらいい?
いくつもの可能性と対策を頭の中に思い浮かぶけど決定的なものが思いつかなくて泣きたくなる。
それでも、いまここでみんなを守るためには、私がついて行くしかなさそうだ。
咎めてくるドナを宥めつつ、ドーファン先生の後に続いた。
ドナやサラたちから「とにかく走れ」と言われて足を動かすうちに、図書館までたどり着いた。
「アロイス殿下と落ち合うまでとにかく逃げるぞ」
「落ち合う?! ちょっとあなたたち、なにをしようとしているの?!」
「うっせーな。メガネは黙って守られてろ」
「そんなわけにはいかないわ。私があなたたちを守らなきゃいけないのに、なにも知らないままになんてできません!」
「くそっ。こんなこと話してる場合じゃねぇんだって」
ドナが苛立ちを隠さずに悪態をつくと、フレデリクがドナを窘めた。
こういう時は本当に、フレデリクの存在に助けられる。
世話好きでいつもみんなのことを気に掛けてくれているフレデリクだからこそ、求めている答えを教えてくれるのを知っていて。
フレデリクの仏頂面が見えると、途端に安心してしまう。
「メガネ、俺たちはアロイス殿下の呼びかけに集まったんです。メガネとファビウス先生が国王陛下に狙われているから助けて欲しいと言われて、今日のために何度も集まって作戦を練り続けていたんですよ」
「えっ……?」
「初めは俺たちも半信半疑だったんですけど、アロイス殿下があんまりにも必死になって説得するものだからアロイス殿下の言葉を信じて協力することにしたんです。なにより、メガネとファビウス先生には幸せになって欲しいですので」
アロイスが、私とノエルのために他の攻略対象たちを巻き込んで動いている?
ノックス国王はアロイスの実の父親なのに、父親から私たちを守ろうとしてくれているというの?
「アロイス殿下は今日で全てを終わらせるつもりで動いているんです。本気で全力で動いているから、俺たちも必死なんですよ」
どうして?
みんなにとってはこの国で一番偉大な存在に反逆するようなことなのに、どうしてここまでしてくれるのかわからない。
「みんな、自分がなにをしているのかわかっているの? 国王陛下に挑むなんて、不敬罪に問われるかもしれない事よ?」
私とノエルでどうにかしなくちゃと思っていた。
それなのに、守ろうとしている生徒たちが前に出てきたら、彼らもまたノックス国王の餌食になりそうで怖い。
「メガネ、オリア魔法学園の三か条を忘れたんですか? ”博愛をもって仲間と共に精進せよ”、でしょう? メガネもファビウス先生もアロイス殿下も、困っているなら俺たちは助けるまでです。それに俺たちは、メガネに恩返しをしたいから」
「そーです! メガネ先生を泣かせたら私が許しません!」
サラがぎゅっと抱きしめてくれると視界が滲んだ。
ゲームでは力を合わせてノエルを倒そうとしていた彼らが、いまは私とノエルのために力を合わせてくれているのが嬉しくて。
みんなの気持ちに触れるように、そっと、リボンだらけのブローチに触れる。
「ありがとう。みんなの気持ち、本当に嬉しいわ。だけど私はみんなのことが大切だから、これ以上は止めて欲しいの。みんなには無事に卒業して、幸せになって欲しいから。だからもう……」
――もう、私とノエルのことは放っておいて欲しい。
そう言おうとすると、オルソンが人差し指を立てて言葉を遮る。
「んも~、レティせんせはすぐに自分で抱え込もうとするんだからぁ。先生がなんと言おうと俺たちはもう後に引かないから、観念して守られて?」
全く引く気はないから、と知らしめるように、オルソンはサラの反対側から抱きついてくる。
二人ともなにがあっても離れる気はないようでしっかりと隙間なくくっついており、身動き一つさえ取れない状態だ。
みんなには無事にハッピーエンドを迎えて欲しいから私とノエルに関わって国王に目をつけられて欲しくないのに。
ほとほと困り果てていると、セザールがニヤリと不敵に微笑む。
「ご安心ください、私は勝算が見込めない戦いには参加しない性質なんです。必ずやお二人を救い出し、数々の愚行を繰り返してはもみ消している暴君に一泡吹かせてやるつもりです」
この世で敵に回したくない奴のベストファイブに入るようなセザールに言われると妙に安心してしまうわ。本当にノックス国王の痛いところを突いて負かせてくれそうだもの。
……いや、さすがにそれは過信よね。
いち学生が国の最高権力者を相手にするなんて現実的じゃないわ。
そう思っていたのに――。
「ぼ、僕たちはもう、ただの弱い子どもじゃないんです。もうすぐで大人になりますし、守られるだけではなくて守りたいですし、なにより、僕たちの未来を一緒になって考えてくれた先生たちには幸せになってもらわないと、一生後悔すると思ったんです。だから先生、僕たちに守らせてください……!」
ディディエが力強く言い切る姿を見ると、みんなを止める言葉はどこかに消えてしまって。
なにも、言葉をかけられなかった。
改めて一人一人の顔を見ると、いつの間にかみんな、あどけなさがなくなっている。大人の顔つきになったみんなが向けてくれる眼差しはただただ優しくて、頼もしくて、縋りたくなってしまいそうになる。
「そーいうわけだ。だからメガネは守られとけ」
ドナはそう言うと、また私の手を掴んで歩き出す。
しかし、目の前に現れた集団に足を止められてしまった。
「ベルクール先生、探しましたよ。こんなところにいたんですね」
ドーファン先生が王宮の近衛騎士たちを引き連れて現れたのだ。
「国王陛下がお呼びですよ。生徒たちを傷つけられたくなかったら、大人しく私たちについてきてください」
「……わかりました」
治癒師らしからぬ発言に不穏な予感を感じ取ってしまう。
ドーファン先生はノックス国王側の人間だ。
さっき見かけた時から、先生の視線の中に殺気めいたものがあったのが、ずっと気にかかっていた。
ノエルを守るには、みんなを守るには、どうしたらいい?
いくつもの可能性と対策を頭の中に思い浮かぶけど決定的なものが思いつかなくて泣きたくなる。
それでも、いまここでみんなを守るためには、私がついて行くしかなさそうだ。
咎めてくるドナを宥めつつ、ドーファン先生の後に続いた。



