【電子書籍化】このたび、乙女ゲームの黒幕と婚約することになった、モブの魔法薬学教師です。

「リゼーブルさん、一体どこに行ったのかしら?」

 ブドゥー先生は部屋の中を行ったり来たりして落ち着かない様子だ。
 自分のクラスの生徒が行方不明になってしまったのだから無理もない。
 本当は自分が探しに行きたいだろうに、ここで待たなければならないのは苦行のはず。
 
「竜騎士団の方たちも探してくれているので大丈夫ですよ」

 そう言ってみたものの、私も不安で仕方がない。
 リゼーブルさんが行方不明になったのが偶然じゃないような気がしてならないのよね。
 変身薬騒動の犯人だったリゼーブルさん。あんなことするような子じゃなかったはずだもの。悪気はなかったとはいえ、イザベルが悪者になるようなことをするなんて、いくら恋は盲目と言えどやりすぎな気がする。

 そういえば、ウィザラバではサラが変身薬騒動の被害者になっていたわね。
 あの時の犯人はたしか……イザベルだったわ。その時、何者かによって操られてしまっていて。
 イザベルは悪役令嬢というポジションだったけど、サラを陥れることなんてしなかったから、変身薬騒動で操られていたと明かされて納得したのを覚えている。

「……あ」

 変身薬騒動はオルソンルートのイベントだ。
 まだ個別ルートに入っていないから予想すらしていなかったけど、いまの状況はイベントに似ている。

 冷や汗がつうっと背を伝う。

 あれはシーアが絡んでいるイベントだったはず。
 騒ぎが起きた後にサラが誘拐されてしまって……確か、サラが光使いだから誘拐されたのよね。
 
 光使いは利用価値があるから。

「ベルクール先生、大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ」

 ドーファン先生に声をかけてもらって気づいた。
 私は、震えている。

「あ、あの。他の生徒たちが心配なので宿を見てきます」

 もっと早くに気づけばよかった。
 いや、もしかしたら、ただの思い過ごしかもしれない。

 そんな気休めを自分に言い聞かせながら生徒たちが泊まる宿を訪ねる。
 サラが泊っている部屋の扉を叩いた。

「みんないるかしら? 点呼をとりたいから扉を開けてくれる?」

 声をかけてみても誰も返事をしてくれなくて。

「開けるわよ?」

 恐るおそる扉に手をかけるとあっけなく開いた。

「――っ!」

 部屋の中は荒れていて、明らかになにかが起こった後だった。
 おまけにサラと同室の生徒たちが床に倒れている。息はしていて、眠らされているようだ。

 だけど、サラの姿がない。
 大きく開け放たれた窓から風が入り込んで、嘲笑うようにカーテンが揺れている。

 誘拐されたんだ。

 体が反射的に動いて宿を飛び出す。
 確信は持てないけど、もしかしたらサラはゲームでオルソンが霊薬を飲んだ場所に行っているのかもしれない。

 この世界が物語通りに話を進めようとしているのなら、そこにサラがいる気がする。
 だけど大通りに向かっているとジルとミカが目の前に回り込んで行く手を阻んできた。

「そこをのいて! リュフィエさんが誘拐されているのよ、助けなきゃ危ないわ」

「おい、小娘。ご主人様は待っているように言ったんだから大人しく戻れ!」
「ジルの言う通りですよ。きっといなくなった生徒もご主人様が見つけるので安心してください」

「いいえ、無理よ」

 ノエルはこの事件にシーアが絡んでいることを知らないもの。
 それに、他の先生だって、サラの本当の居場所を知っていない。
 これから起こることを知っているのは私だけなんだから。

 だから、私が助けなきゃいけないんだ。

 二匹と睨み合っていると急に背後から声をかけられた。

「すみませーん、この街で有名な酒場ってどこですかー?」

 振り向くと背が高くて妙にキラキラとしたオーラを纏う男性が立っていた。
 蜂蜜のように甘い金色の髪に、燃えるように赤い瞳を持つ男の人だ。

 ただ者じゃないのがひと目見てわかる。
 異様なほどに綺麗な顔してるし、なにより、ふわりと微笑んでいるはずなのに威圧感を覚えるもの。

「すみません、私は旅行客なので詳しくないんです」
「それは残念。ところで、急いでいるように見えますがどうしたんですか?」
「生徒を探していまして……」
「なるほど、夜道は危険なのでお供しましょう。こう見えて剣の心得がありますのでお任せください」
「で、でも、あなたは食事処を探していたんですよね?」
「困っている貴婦人を放っておくわけにはいきませんから。それも、こんなにも月に愛されている麗しい貴婦人ならなおのことです」

 彼はそう言うと、お手本のように見事なウインクを披露してくれた。
 どこからどうツッコんだらいいのかわからない。

「あの、もしかしたら怪しい魔術師とか隠れているのかもしれないんで危ないですし、結構です」
「ほう? 怪しい魔術師が? それならなおのことあなたを一人にはできませんね。ご安心ください、魔術は寝ながらでも使えるほど得意ですから」

 どうやら本当にそのままにするつもりはないらしい。
 向けてくる微笑みには殺気に近い威圧感が含まれている。

「俺のことはどうかルスと呼んでください。月の貴婦人、あなたの名前を教えてくれませんか?」

 答えるまできっと通してくれないだろう。
 時間が惜しいし、観念して名前を教えた。

「レティシア・ベルクールです」
「それではレティ、いまから私のことは騎士だと思って安心して生徒を探してくださいね」

 果たしてルスが何者なのかはわからないし実力もわからないが、頭数が増えてくれたから心強い、かもしれない。
 そんな心もとない状態でヒロイン救出作戦が始まった。