翌朝、身支度が終わると執事と入れ違いでメイドのソフィーが部屋を訪れた。彼女から話があるとお義兄様から聞いていたため、別段驚きはしなかった。
「レティシアのことで、知っておいて欲しいことがあるようだね?」
「はい……お伝えするべきか迷っていましたが、ファビウス卿がお嬢様を想う気持ちの深さを知って心を決めました。お嬢様が頭を打ってからのことについて、お話しします」
これまで一番近くでレティシアを見ていた人物であるから、彼女から話を聞けるのは正直言ってありがたい。尋ねてでも話してもらおうかと考えていたほどだ。
ソフィーの回想によると、レティシアは頭を打ってから十日間ほど目を覚まさなかったらしい。当時彼女を診た治癒師は、「できる限りの手を尽くしたが意識が戻ってこないとなると、一生目覚めることはないかもしれない」と言って覚悟を求めたのだという。
だれもが絶望している中、お義兄様は時間が許す限り彼女のそばにいて手を握り続けていたそうだ。
そんなある日、幸運にもレティシアは目覚めた。
ソフィーたちは女神に感謝の祈りを捧げるほど喜んでいたが、その日以来、レティシアの不可解な行動を目にするようになったという。
その一つが、レティシアが未知の言葉を書くようになったということ。
「お嬢様の部屋を掃除をしていると、屑箱の中に不可解な文字が書かれた紙が入っていたんです。外国語のように見えたので密かに調べていましたが、結局はわかりませんでした」
「その紙はまだ持っているかい?」
「ええ、お持ちしました」
ソフィーは一冊の本を渡してくれた。受け取って開くと、数枚の紙が挟まれている。
「ありがとう、助かるよ」
紙にはたしかに、見た事のない文字が並んでいる。大別して三種類の特徴がある文字が、複雑に組み合わされて書かれていた。
しかしその中に、見慣れた言語もある。
「アロイス・エヴラール・ノックス?」
「ええ、お嬢様の受け持つ生徒に王子殿下がいると聞いていたので、なにか学園と関係があることを書いているように思えます」
ソフィーが言う通りであるのかもしれない。
アロイスの他にも、レティシアが担任になった生徒たちの名前が書かれている。
サラ・リュフィエ
イザベル・セラフィーヌ
セザール・クララック
フレデリク・ジラルデ
ディディエ・モーリア
そして、彼女がこの紙に書きつけた当時は知り得なかったはずの人物の名前も書かれている。
オルソン・ドルイユ
彼の転入は当時、まだオリア魔法学園にも知らされていなかったはず。
やはり何らかの形で、レティシアは先視をしたに違いない。
「目覚めてからのレティシアの様子はどうだった?」
ふと、紙の一番下に、自分の名前が書かれているのを見つけた。
レティシアは僕のこともまた、予知したようだ。
一体、なにを見たのだろうか?
「お嬢様はひどく混乱していました。フィルマン様が宥《なだ》めて落ち着きましたが、その日以来ずっと、悩んでいる姿を見てきました。”時間がない”とか、”みんなを幸せにするには私が何とかするしかない”など呟いていて。それに時々、聞き慣れない言葉を言っては悲しそうな顔をしていました」
レティシアが視た未来は決して良いものではないようだ。
このことはいままで一度も、レティシアは話してくれなかった。彼女が頼ってくれなかったはきっと、初めの頃の僕の態度が起因しているだろうが、わかっていても助けを求めてくれなかった事実が心に影を落とす。
ソフィーは領地や王都の図書館を訪れてはこの紙に書かれている文字を解読しようとしていたが、彼女ひとりでは限界を感じていたらしい。
「私は、この紙に書いてある内容を突き止めて、お嬢様の不安を取り除きたかったのですが、まったく手がかりがないのです」
「ああ、僕もいままで外国の文字をたくさん見てきたが、こんな文字は初めてだ。古代文字も含めて調べてみるよ」
「ありがとうございます。どうかお嬢様を救ってください」
頼まれなくてもレティシアのためなら、あらゆる手を尽くす。
だからもう、なにも隠さないで欲しい。
レティシアが幸せにしようとしてくれているのと同じように、僕もまた、レティシアを幸せにしたいから。
「レティシアのことで、知っておいて欲しいことがあるようだね?」
「はい……お伝えするべきか迷っていましたが、ファビウス卿がお嬢様を想う気持ちの深さを知って心を決めました。お嬢様が頭を打ってからのことについて、お話しします」
これまで一番近くでレティシアを見ていた人物であるから、彼女から話を聞けるのは正直言ってありがたい。尋ねてでも話してもらおうかと考えていたほどだ。
ソフィーの回想によると、レティシアは頭を打ってから十日間ほど目を覚まさなかったらしい。当時彼女を診た治癒師は、「できる限りの手を尽くしたが意識が戻ってこないとなると、一生目覚めることはないかもしれない」と言って覚悟を求めたのだという。
だれもが絶望している中、お義兄様は時間が許す限り彼女のそばにいて手を握り続けていたそうだ。
そんなある日、幸運にもレティシアは目覚めた。
ソフィーたちは女神に感謝の祈りを捧げるほど喜んでいたが、その日以来、レティシアの不可解な行動を目にするようになったという。
その一つが、レティシアが未知の言葉を書くようになったということ。
「お嬢様の部屋を掃除をしていると、屑箱の中に不可解な文字が書かれた紙が入っていたんです。外国語のように見えたので密かに調べていましたが、結局はわかりませんでした」
「その紙はまだ持っているかい?」
「ええ、お持ちしました」
ソフィーは一冊の本を渡してくれた。受け取って開くと、数枚の紙が挟まれている。
「ありがとう、助かるよ」
紙にはたしかに、見た事のない文字が並んでいる。大別して三種類の特徴がある文字が、複雑に組み合わされて書かれていた。
しかしその中に、見慣れた言語もある。
「アロイス・エヴラール・ノックス?」
「ええ、お嬢様の受け持つ生徒に王子殿下がいると聞いていたので、なにか学園と関係があることを書いているように思えます」
ソフィーが言う通りであるのかもしれない。
アロイスの他にも、レティシアが担任になった生徒たちの名前が書かれている。
サラ・リュフィエ
イザベル・セラフィーヌ
セザール・クララック
フレデリク・ジラルデ
ディディエ・モーリア
そして、彼女がこの紙に書きつけた当時は知り得なかったはずの人物の名前も書かれている。
オルソン・ドルイユ
彼の転入は当時、まだオリア魔法学園にも知らされていなかったはず。
やはり何らかの形で、レティシアは先視をしたに違いない。
「目覚めてからのレティシアの様子はどうだった?」
ふと、紙の一番下に、自分の名前が書かれているのを見つけた。
レティシアは僕のこともまた、予知したようだ。
一体、なにを見たのだろうか?
「お嬢様はひどく混乱していました。フィルマン様が宥《なだ》めて落ち着きましたが、その日以来ずっと、悩んでいる姿を見てきました。”時間がない”とか、”みんなを幸せにするには私が何とかするしかない”など呟いていて。それに時々、聞き慣れない言葉を言っては悲しそうな顔をしていました」
レティシアが視た未来は決して良いものではないようだ。
このことはいままで一度も、レティシアは話してくれなかった。彼女が頼ってくれなかったはきっと、初めの頃の僕の態度が起因しているだろうが、わかっていても助けを求めてくれなかった事実が心に影を落とす。
ソフィーは領地や王都の図書館を訪れてはこの紙に書かれている文字を解読しようとしていたが、彼女ひとりでは限界を感じていたらしい。
「私は、この紙に書いてある内容を突き止めて、お嬢様の不安を取り除きたかったのですが、まったく手がかりがないのです」
「ああ、僕もいままで外国の文字をたくさん見てきたが、こんな文字は初めてだ。古代文字も含めて調べてみるよ」
「ありがとうございます。どうかお嬢様を救ってください」
頼まれなくてもレティシアのためなら、あらゆる手を尽くす。
だからもう、なにも隠さないで欲しい。
レティシアが幸せにしようとしてくれているのと同じように、僕もまた、レティシアを幸せにしたいから。



