涙は甘いケーキに溶けて


「小野さんは、あいつ以外見てなかったからねー」

「でも、あいつはそうじゃなかったんだよね。早く心変わりしとけばよかったかな」

 冗談交じりにため息を吐く高瀬に悪戯にそう返すと、リビングのローテーブルの向かいに座った彼が、ふと真顔になった。

「今からでも間に合うよ?」

 ふざけた帽子を被って現れて、ずっとへらへらしてたくせに。高瀬が急に本気みたいな声を出すから、心臓が不具合を起こしたみたいにドクドクと脈打つ。

 間に合うって言ったって、私はさっき彼と別れたばかりなのに。

「か、考えとくよ、前向きに」

 真剣な顔をした高瀬と向き合っていたら雰囲気のままに流されてしまいそうで、動揺を悟られないように顔を背ける。