涙は甘いケーキに溶けて




 高瀬が持ってきたケーキは駅前のケーキ屋さんのものではなくて、一ヶ月ほど前に彼に訊かれて教えてあげた、私のおススメのケーキ屋さんの予約限定クリスマスケーキだった。

「あいつが後輩の女の子と小野さんの間で迷ってるって聞かされてから、本当はずっとムカついてて。なんとかクリスマスまでに、小野さんのことをおれに心変わりさせようと思ってたんだけど……、ダメだったね」

 部屋でケーキを食べながら、それが本当は一ヶ月前から予約されていたものだったことを白状した高瀬が、首の後ろを搔きながら笑う。

 言われてみれば、一ヶ月ほど前から私は職場で高瀬からよく話しかけられていた。

 昼休みや仕事終わりに、「二人で飲みに行こうよ」と誘われたこともある。

「もしかして、二人で飲みに行こうとか、割とマジメに誘ってくれてた?」

「そうだね」

 ははっとごかますように笑う高瀬の頬が、心なしか赤い気がする。

「全然気付かなかった」

 彼との付き合いが順調だと思っていた私にはよそ見をする気なんてなかったし、高瀬は彼と仲が良かったから揶揄われているだけだと思っていた。