「――ただいま……」

 何だかよく分からないフワフワした気持ちを抱えながら、ちょっと重い足取りで家に帰り着いたあたしは、ひとつため息をついてから玄関ドアを開けた。
 あたしの家は、渋谷区内のごく一般的な住宅街にある、二階建てのありふれた建売住宅だ。間取りは4LDKで、お姉ちゃんとあたしはそれぞれ自分の部屋を持たせてもらっている。

「お帰りなさい、麻由。今日実力テスト返してもらったでしょう?」

「うん……」

 お母さんはお帰りついでにテストのことを言い出した。さすがは現役の高校教師だ。テストが返ってくる日というのはどの高校も大抵(たいてい)同じくらいなので、多分お母さんが教えている学校もそうだったのだろう。
 ちなみにお母さんの勤務先の高校は、今日は創立記念日で休みだったらしい。

「見せてもらってもいいわね? まぁ、あんたのことだから自信あるみたいだけど?」

 案の定、イヤミったらしく言ってきたお母さんに、あたしはイラッとした。遠回しに言うくらいなら、「見せなさい」ってストレートに言えばいいのに。

「いいけど。ガッカリしないでよね。実はあたしも納得いってないから」

 リビングに入ってから、あたしは返ってきたテストをスクールバッグから出して一枚一枚丁寧にローテーブルの上に並べてやった。これはあたしからのささやかなイヤミ返しだ。

「…………文系の教科は全部満点みたいね。でも、理科が八十五点で数学が七十五点ってどういうこと? どうして満点じゃないの?」

 お母さんは点数だけを(あげつら)ってネチネチ言い出した。

「知らないよ。ちゃんと答えは合ってるのにさぁ、『解き方が違う』って先生が勝手に減点したんだもん」

 あたしはムスッとしながら答えた。こんなイヤミな教師に教わっている生徒さんはかわいそうだ。

「それがなかったら、あたし数学でも理科でも満点だったの! あたし自身も納得いかないんだもん。ねえ、もういいでしょ!? あたし、部屋行くから」

 またイヤミを言い出しそうなお母さんを無視して、あたしはまくし立てた。

「……お父さんが帰ってきたら、見てもらうから。いいわね?」

「勝手にすれば?」

 お母さんの言葉にあたしは片眉(かたまゆ)を上げることで応じた。脅かすつもりで言ったのだろうけど、あたしには何の効果もない。あたしは別に両親を恐れていないし、むしろウザいだけなのだ。