「俺は正直、朝倉みたいなヤツが羨ましいよ。誰に対しても自分の意見言えるって、なかなかできることじゃないしな。ハッキリ言って、朝倉のこと尊敬するわ」

「え……、そう? これって喜んでいいんだよね?」

 まさか教師から尊敬されるなんて思わなかった。今まで反感を持たれてばかりだったので、こんな経験は初めてだ。この先生、あたしが今まで出会ったどの教師よりも変わっている。でも、いちばん人間味(あふ)れていて好感が持てる。

「っていうか、先生って元ヤン?」

 玲菜が訊ねると、缶コーヒーを飲んでいた先生はう~ん、と唸ってから答えた。

「ヤンキー……ではなかったけど、ちょっとヤンチャではあったかなぁ。つうかダルい系? 授業についていけなくて、しょっちゅうサボってたな」

「へぇー……。サボり魔だったのによく教師になれたねぇ」

「自分でもそう思う。今の俺がいんのは、当時の担任の先生のおかげなんだ。その話はまた今度な」

 先生は腕にしていたスマートウォッチに目を()ると、慌てて残りのサンドイッチを平らげた。……おいおい先生、喉につまるよ。

「俺、そろそろ行かねぇと! 教師ってのはやること多くて大変なんだよ。じゃあな。五限の国語の授業、俺が担当だからサボんなよ!」

「うん。……って先生、口の横にマヨネーズついてるよ! それ拭いてから行きなって」

 そそくさと行こうとした先生は、マヨの汚れにも気づいていなかった。まったくもう、いい年齢(とし)してわんぱくなんだから!

「あ、ヤベぇ」と言いながら、先生はパーカーの袖で汚れを(ぬぐ)った。

「取れたか?」

「ちゃんと取れてるけど、せめてティッシュ使いなよ。行儀悪いなぁ、もう」

 そのわんぱくぶりに、あたしと玲菜は思わず笑ってしまった。


   * * * *


 ――午後の授業では、二教科とも先生と揉めることはなかった。

 五限目は長尾先生が担当する国語の授業で、テストも返ってきたけど採点のしかたが独特だった。特に自分の意見や文章の解釈を問われている問題の解答は減点ではなく加点方式になっていて、あたしはもちろん百点満点。こういうテストばっかりだったら受けてもいいかなと思う。
 六限目は社会科(世界史)。基本的に文系科目は好きなので、ここでも百点満点が取れた。
 午前中に返された英語と日本史のテストも満点だったので、満点が取れなかったのは理科と数学の二教科だけだった。それも、あたしにはとても納得のいかない理由で。