「先生ってここのOBなんだよね? じゃあ先生がいた頃もこんなユルいカンジだったの?」

「まぁ、そんな感じかな。つうか俺の頃はもっとユルユルだったかも」

「……ふぅん?」

 長尾先生はあたしたちとちょうど十歳違う、らしい。「十年ひと昔」ってよく言うけど、やっぱり今の高校生と十年前の高校生とでは違うのかな?

「ところで今週、実力テスト返ってくるだろ? お前ら大丈夫なの?」


 ……先生、お願いだからこの流れでテストの話しないでよ。白けるから。

「超ヨユー」

「ま、朝倉ならそう言うと思ったけどな。栗林はどう?」

「大丈夫なんじゃないの? 麻由ほどは自信ないけど」

「二人とも優秀だな」

 先生は感心したように笑った。ただ、何かちょっと(うらや)ましげにも見えたけど。

「んじゃ、今日も一日よろしく」

「「は~い♪」」

 あたしたちはその後、クラスメイトの男子数人にも声をかけられて、「おはよー」と挨拶を返していった。美少女×(かける)()のあたしたちは、早くも男子からモテ始めているのだ。


   * * * *


 ――悪夢アゲインになったのは、その日の三限目。数学の授業だった。

「なっ……、何じゃこりゃぁ!?」

 自分の席で、返されたテストの点数を見たあたしは絶叫した。余裕で百点満点をと思っていたのに、なぜか七十五点。しかも答えは合っているのに解き方が違うから、らしい。

「またかよ……。あり得ない」

 またこのパターンか。慣れたとはいえもう飽きた。
 数学担当の教師は、おそらく定年間際の白髪の男性教師。きっと長尾先生がここの生徒だった頃にもいたのだろう。そしてかなり偏屈そうなジジイである。

「――全員、テストは返ったな。採点について疑問や異議のある人は手を挙げて――」

「先生、あたし納得いかないんですけど!」

 待ってましたとばかりに、あたしは立ち上がって教卓の方へズンズン突進していった。

「この点数、絶対おかしいです! 全部答え合ってるでしょ!? なんでバツになってるんですか!?」

「それは問題の解き方が違うからだ。こんな解き方、どこの中学でも教えてないはずだが」

 ……やっぱりそう来たか。中学の時の数学教師といい、この教師といい、どいつもこいつも言うことがテンプレ化していてもうウンザリだ。
 あたしは教卓の上に置いたテストの解答用紙をバン、と勢いよく叩いた。

「これは高校三年で習うはずの解き方で、ちゃんと学習指導要領にも()ってると思います。だからあたしは間違ってません」

「…………。とにかく、君の点数は訂正しない。君が間違っていないと言い張るなら、私も一歩も引かん。分かったら早く席に戻りなさい。――他に、点数について疑問のある者は――」

「……………………やってらんねーわ」

 あたしは大きなため息をついた後そう吐き捨てて、解答用紙をひったくって自分の席にドスンと座った。
 みんなからの視線が痛い。明らかにみんな、あたしのことを軽蔑(けいべつ)している。玲菜も困ったような表情を浮かべてあたしを見ていた。

「あんた、またやっちゃったね。そのうちマジで孤立しちゃうよ? いいの?」

「しちゃったらしちゃったで仕方ないっしょ。だってあたし、こういう性格なんだもん」

 玲菜にそう()かれ、あたしは(あきら)めたように肩をすくめて見せた。