――高校生活っていうのは、始まってしまうと展開が早い。入学式の翌日に生徒会主催の〈新入生を歓迎する会〉やオリエンテーション、校内の施設見学などがあって、三日目からはいきなり実力テスト。……まぁ、あたしは特別何もやらなくてもいい点が取れるから、別に何とも思わないけど。

 んで、その翌週。悪夢は再び繰り返された。

「――長尾先生、おっはよ~☆」

「おはよー、センセ」

 校門を抜けたところで長尾先生の後ろ姿を見つけたあたしは、玲菜と一緒に突進していった。
 先生は入学式の時みたいなスーツ姿じゃなく、白シャツにブルーのパーカーとチノパン姿。多分先生の普段のスタイルはこっちのカジュアルな感じなのだろう。通勤カバンに大きめのリュックを使っているところも、親しみが持ててポイント高し。

「うっす、朝倉。栗林も」

「ねぇねぇ先生、このリップどうよ? 可愛い?」

 あたしはアプリコットオレンジのカラーリップを塗った自分の唇を指さして、先生に(たず)ねた。
 言い忘れていたけど、あたしも玲菜もいわゆる〝ギャル系〟だ。
 あたしはゆるふわロングの茶髪にカラーリップ、制服のスカートはミニ丈で、黒のハイソックスにローファー。でもってブレザーの代わりにカーディガンを着ている。
 玲菜も、髪型がポニーテールだということ以外はあたしとそんなに変わらない。ただ、あたしは(まつ)()が長いから必要のないマスカラを、彼女はガッツリ付けている。

「うん、いいんじゃね。俺はお前なら、ピンク系の色も似合うと思うけど」

「マジ? ありがと先生♡ やっぱこの高校いいよねー。校風が可愛い女の子の味方ってカンジだもん。カラーリングもメイクも、カラコンもオッケーなんてさぁ」

 あたしがこの高校を選んだ理由のひとつが、この自由な校風だった。学校全体としての学力のレベルは中の上くらいだけど、堅苦しい校風じゃないところがかなり高ポイントだったのだ。
 あたしのアタマなら、もっと高いレベルの進学校も余裕で受かったと思う。でも、そういう学校は休憩時間まで勉強漬けになりそうであたしは好きじゃない。もっとも、大学に進学する気もないし。でも、レベルの低すぎる高校ではあたしが周りから浮いてしまうから、この大鷹学園あたりがちょうどいい塩梅(あんばい)だったというわけだ。
 そして、玲菜もあたしが「大鷹受ける」と言ったら「じゃあ、あたしも」と一緒に受験してくれた。親友と一緒の高校に通えるなんて、あたしはすっごく幸せ者だと思う。