“あ、空野先輩だ。あの人頭いいんだよね”
“でもクールな感じでなんか怖い”
“たしかに前髪長すぎで表情見えないし”
“同じクラスの先輩も無口で怖いって言ってた”
それでいいと思っていた。そう思われるように仕向けているのだから、そうでなくては困る。
『え、空野先輩は優しいよ!』
なのにひとりだけ。僕を優しいという女の子がいた。
さらさらの黒髪をいつもポニーテールにしている1年生の、立河 桃。
それが、桃さんだった。
またまた廊下の階段を降りていれば下の階から聞こえてきた声。思わず足を止めて佇む。
別に盗み聞をしようというわけではないが、自分の会話をされているところに堂々と出ていくのは気が引けた。したも多分いい話ではないから。