君の音に恋してる

「これ。栞に預けとくからさ。明日、ちゃんと返しに来いよ」

 奏に拳を突きつけられ、両手を揃えて奏の拳の下に差し出すと、手の上に小さな『なにか』がコロンと落とされた。

「ちょ……これって、奏の大切な……」


 お父さんの形見のギターピックだ。

 御守り代わりに、いつも肌身離さず持ち歩いてるって言ってたよね?


「こんな大事なもの、預かれないよ!」

 慌てて突き返そうとするわたしの手からするりと逃げる奏。

「ダメ。明日じゃなきゃ受け取らない」

「そんなあ……」

 情けない声を出すわたしを見て、奏がくくっと笑う。

「だから、絶対来いよ」

「……うん、わかった。絶対返しに行くよ」


 その後、テーブルの上をぱぱっと片付けると、二人並んで帰路につく。

 公園に来たときとはなんだか違うドキドキが収まらない。


 やっと夢に一歩踏み出せた。

 それだけのことなのに、こんなに興奮が収まらないなんて。


 隣を歩く奏をそっと見上げると、一年半でぐんと大人っぽくなった横顔がある。


 運命なんて信じないってずっと思ってたけど。

 今日の奏との再会は、わたしにとって運命だったんだって思いたい。


 ——そしてわたしが好きなのは、奏の奏でる音楽だけじゃないって気づくのは、まだ先のお話。



(了)