「うわーんっ! なんでこうなるの~!!」
 私の大きな嘆き声が、わんわんと植物園に響いた。私の叫び声に驚いた小鳥が、ばさばさと羽根を鳴らして飛び立って逃げていく。
 ここは、学校の敷地内にある植物園。
「火花~。文句言ってないで手を動かせよ」
 それは分かってるけどさぁ。
 脱走した罰としてこの植物園全体の草むしりなんて。
「仕方ないよ、たまたま早朝ランニングしてたハウル先生に寮に戻るとこバレちゃったんだから」
 そう。
 私たちがこっそり寮に戻っているとき、たまたまランニングしてたハウル先生に鉢合わせちゃったんだ。そして、ハウル先生の雷がピシャッと落ちたってわけ。
「それより、嘆いてる暇があったら火花ちゃんも草むしりやって」
 ハウル先生の次はドロシーに怒られた。
「まったくだわ。なんで私までこんなことしなきゃいけないのよ」
 ダリアンからも小言が飛んでくる。
 うぅ、耳が痛いです。
「まぁ、バカに付き合うとこうなるよな」
 ノアくんまで。
 くぅ。
「黙って聞いていれば好き放題言ってくれちゃって! みんなだって同罪でしょ!! なんで私だけ責められるのよ~!」
「一番先に抜け出したのがお前だからだ、バカ火花」
 ぐぅ。
「それはそうだけどさ……勝手に着いてきたのはそっちだし」
「なんだと?」
「火花ちゃん、もう一回言ってくれる?」
 ぞぞっ。
 ドロシーとノアくんの笑顔が凍っている。
「ごめんなさい、なんでもありません」
 即座に謝る。
 ふたりって案外、ハウル先生より怖い気がするよ。 
「ほら火花、いつまでも文句言ってると、草むしり終わらなくて夕飯抜きになっちゃうよ」
 そうだった。草むしりが終わるまでここを出るなって言われていたんだった。
「それは困る!」
「困るよね。だから頑張ろう?」
「うん!」
 ドロシーに諭され、せっせと草むしりを始める。ご飯は大切! 昨日だって夕飯ほとんど食べれなかったんだし!
 なんとしても、夕飯の時間までに草むしり終わらせなくちゃ。
「さすがドロシー。火花の扱いでドロシーの右に出る者はいないな」
「えへへ。伊達に火花ちゃんの親友やってないよ」
 得意げなドロシー。
「どうせなら、バカやる前に止めてくれたら最高なのだけどね」と、ダリアン。
「ハハ……さすがにそれは私には荷が重いよ」
「ま、火花だからな。それは無理な話だろ」
「なぬ?」
「なぬ、じゃないわよ。火花は静かに草むしりしてなさい!」
「だって、さっきから聞いていればみんな好き勝手に私のこと言って……というか、みんな楽しそうに喋ってるのに私だけ喋っちゃダメなんてずるいよ!」
「ずるくない! そもそも私たちは草むしりの刑なんて言われてないんだからね!」
「うぐっ」
 そ、そうだった。
 今回の脱走で、ハウル先生にお咎めを受けたのは私だけ。
 ドロシーたちは脱走した私を連れ戻そうとしただけっていうことで、今回は執行猶予。実刑は見逃されている。
 つまり草むしりを言い渡されたのは私だけで、みんなは好意で付き合ってくれているのだ。
「それは本当にごめん、みんな……」
 しゅんとなっていると、ノアくんが私のとなりにしゃがみこんで草むしりを始めた。
「いいよ。みんなでやったほうが早いし、さすがにこの植物園ぜんぶの草むしりをひとりでっていうのは無理があるからな。こういうとき、助け合うのが友だちだろ」
「……ノアくん……!!」
 ノアくんはやっぱりかっこいい。
 こんなにかっこいいのに、ノアくんって私のこと……。
 ハッ! いやいや、今は草むしりに集中しなくちゃ!


 ***

 
 それからきっかり三時間。
 私たちは手分けして植物園の草むしりを頑張って終わらせた。
「ふぁ~なんとか終わったね」
「みんなありがとう~!! おかげでごはんにありつけるよ……!!」
「大袈裟ね、もう」
「ご飯は大事、だもんな」
「うん!」
「さて、帰ろっか」
「とりあえずシャワー浴びて着替えたい」
「だね~」
 みんなで話しながらだと、帰り道もあっという間。気が付くともうドロシーとダリアンとバイバイの道。
「それじゃあね」
「バイバイ」
「あっ、ちょっと待って!」
 背中を向けようとするふたりを、私は慌てて引き止めた。