夢を見た。
 真っ白い世界で、幼い頃の私がひとりぼっちで泣いている。
 ぽろぽろ零れる涙は真珠になって、しゃがみ込んだ私の周りできらきら光っていた。
 これは……マーメイドの涙?
 どうして私の涙がマーメイドの涙になってるんだろう?
 …………。
 どこからか、声がする。
 しくしくと、悲しげな泣き声。
 胸がきゅっと絞られるような声。
 これは……シュナの声?
 シュナ? どこにいるの?
 叫んだつもりなのに、声は出ていない。
 どうして……。このどこかにシュナがいるはずなのに。声が届かなきゃ、探せないよ。どうして声が出ないの?
 どうして――。
 
 そのとき、ぽろっとなにかが上から降ってきた。落ちたものを拾うと、それはやっぱりマーメイドの涙。
 これ……。
 顔を上げると、少女が立っていた。グラアナだ。グラアナはなにかを見て涙を流している。
 グラアナの視線を辿って、ハッとする。
 遠くに、国王様がいた。私が知る国王様より若い。国王様は、グラアナに背を向けて遠く霞の中へ消えていく。
 グラアナが行かないでと泣きながら叫ぶけれど、国王様の姿はどんどん遠くなっていく。
 グラアナが流した涙が雨のように降りそそぐ。
 きらきらと美しく、悲しく輝きながら、足元を埋めつくしていく――。


 ***


 ――ドンッ!
「ふゎっ!?」
 ものすごい衝撃に、一気に意識が覚醒した。
「地震だっ!?」
「……今のは地震じゃなくて、お前がベッドから落ちた衝撃音だから安心しろ」
 あぁ、なるほど。
「……ってあれ? ノアくん?」
 隣を見ると、なんだかげっそりしたノアくんがいる。
 どうしたんだろう? というか私、どうしたんだっけ?
「……ここどこだ?」
 頭が重い感じがするけど……。
「ここは沈没船の客室。……泳いでる途中でいきなり伸びたから、とりあえずここに連れてきた」
「あちゃ。それは申し訳ございませんでした」
 というか、なんで伸びたんだっけ。
 ノアくんと目が合う。
「…………」
 無言で見つめ合う。
「…………なにか?」
「いえ、なんでもございません」
 ま、いっか。
「……はぁ」
 深いため息!
「ノアくん、やっぱりなんか怒ってるでしょ!?」
「怒ってない。呆れてるだけ」
「なんで!?」
「自分の心に手を当てて考えろ、バカ」
「バカってひどい……」
「……とにかく、バカ火花のせいでかなりの時間ロスだ。夜明けまで時間がないんだから、急いで探すぞ」 
「あっ、うん!」
 慌ててベッドから降りると、なにかがころんと転がった。
「……ん?」
 なんだろう、と振り返ると、そこにあったのは、薄水色の真珠。
「これ……」
 拾い上げて、じっと見つめる。
「…………」
「どうした? 火花」
「……ねぇノアくん。海の秘宝ってさ、これじゃないかな?」
 ノアくんは真珠を見て、眉をぐっと寄せた。
「真珠?」
「この真珠って、そのひとの思いそのものだと思うの」
「思い?」
「うん。涙って、心が揺れたときに流れるでしょ。例えば強い悲しみを知ったときとか、ものすごく嬉しい気分になったときとか。そういう、強い感情を知っているひとにだけ、新しい場所に飛び出す資格はあるってことなんじゃないのかな?」
「つまり、海の秘宝っていうのは、それだけ強い覚悟を持ったマーメイド自身ってことか……」
「どう思う?」
 私は真珠を握り締め、ノアくんを見つめた。
 ……うん、あるかもしれない、とノアくんがぽそっと呟く。
 やった!
「それなら、とにかく急いでシュナたちに伝えに行こう!」
 私はノアくんの手をぎゅっと掴んで、勢いつけて泳ぎ出す。
「行こっ、ノアくんっ!」
「ちょっ、おいっ……! 火花っ!」