火花を無事見つけ出して、グラアナの正体を知って。
 今は海の秘宝とやらを探している。
 まったく、一日のうちに展開が廻り過ぎて。なにがどうなっているのやらって感じだ。
 ……でもま、火花が無事だったからなんでもいいんだけど。
 隣で泳ぐ火花をちらりと横目で見る。無意識に口元が緩んだ。
「火花」
 声をかけると、火花がふっとこちらを向く。
「なぁに?」
 長い銀髪が潮の流れに揺れて、きょとんとした火花の見慣れた顔が向けられた。
 ただ目が合っただけなのに、一気に駆け足になるこの胸には、未だに慣れない。
 俺はどれだけ火花のことを好きなんだ……?
 我ながら、ため息が出てしまう。
「ノアくん? どうしたの?」
「……いや、海の秘宝って、なんだと思う?」
「うーん……そうだなぁ」
 ぐるぐる考え込む火花の横顔は、前より少しだけ大人っぽくなった気がする。
「あっ! 星の原石ってことはないかな!?」
「……それは陸にもあるだろ」
「あぁ~そっかぁ……」
「……ふっ」
 がっくりする火花が可愛くて、思わず笑ってしまった。
「むぅ。なんで笑うの。私は真剣に考えてるのに!」
「ごめんごめん」
「ノアくんも考えてよ」
「そうだな……海の秘宝って言うくらいだから、とりあえず珍しいものの気がする」
「珍しいものか……」
「それから、マーメイドが人間になるってことはかなりの魔法だ。魔法をかける側だけじゃなく、かけられる側もかなりの覚悟がいるよな……」
「なるほど、それはたしかに……」
 火花は顎に手を添えて、黙り込んで考え始めた。その姿に、ふと疑問を抱く。
「……なぁ。なんでそんなに、あの子を助けたいんだ?」
「え?」
 火花が振り向く。
「なんでって……そりゃ困ってるひと見たら、助けてあげたくなるでしょ?」
「それはそうかもしれないけど……でも、シュナって今日初めて知り合った子だろ? 海の魔女に会うのだって、怖くなかったのか?」
「まぁ……怖くなかったって言えば嘘になるけど」
 火花は一度言葉を切ってから、小さな声で呟いた。
「……本当はね、シュナのためって言うより、自分のためなんだ」
「自分のため?」
「うん。なんか、上手く言えないんだけど……価値のあるひとになりたかったっていうか……たとえば、だれかのためになることをしたり、困っているひとを助けたら、感謝されるでしょ? だから、感謝されたかったの。だれかの役に立てたら、私はここに生きてていいんだって、存在を肯定してもらえる気がして」
「火花……」
 火花はいつも明るいけれど、たまにひとりで泣いていることを俺は知っている。親に捨てられたという事実は、どれだけ時が経っても火花を苦しめ続けているのだ。
 心臓がきゅっと苦しくなる。
 そんな顔するなよ。俺がいるだろ。
 そう言いたいけれど、唇が上手く動かない。
 こんなときに気の利いたセリフひとつ言えない自分がいやになる。
「えへ……ノアくん、そんな顔しないでよ。暗い話じゃないって」
「……分かってるけど……」
 俺が気を遣わせてどうするんだよ……。
「シュナがひとりぼっちで泣いているのを見たときね、ノアくんと仲良くなる前の私みたいだなって思ったの」
「俺と出会う前の?」
「うん。私にはノアくんっていうかっこいい救世主がいたけど、シュナには誰もいないんだって思ったら、いてもたってもいられなくなったんだ。だからね、私がシュナにとってのノアくんになれたらいいなって思ったの」
 火花は俺のことなんてなんとも思ってないんだろうなって思ってたのに……。
 不意打ちにもほどがある。
 そんなこと言われたら、もっと好きになるだろ……。
 おかげで心臓止まりそうなんだけど。どうしてくれるんだよ。
「私ね、ノアくんが手を握ってくれたとき、すっごく嬉しかったんだ」
 そう言って、火花は俺を見てにこっと笑った。
「っ!」
「まっ、そういうことですよ! さ、早く探そう?」
 まったく、火花は俺の気持ちにはまったく気付いていないっていう顔をしている。
 無邪気で無防備な火花を見ると、すごくいらいらする。
 でも、それなのに愛おしいとか。
 相当重症だろ。
 あぁ、もう……。
 こんなの、我慢できるわけないじゃん。
「……あのさ、火花。さっきの話だけど」