なんとか制限時間内に学校へ戻ると、授業は無事に終了した。
 結局、星の原石を手に入れたペアは、十組中二組だけだったみたいだ。どちらも森の中にある星の原石を見つけたらしい。
 ま、やっぱりかって感じだよ。
 私たちも森に行けば良かったのかな。うーんでも、森に行ってたらシュナには会えなかったし……。
 難しいけど、今回の私はきっと正しかった!
 うん、そう思う……けど。
「ううむ……」
 ビーフシチューを食べながら、私は勝ち組のペアたちが見せびらかしている星の原石を指をくわえて眺めた。
「いいなぁ、星の原石……むぐぐ」
 フォークに刺さったチーズをみにょーんと伸ばしながら頬張る。
「まだ言ってんのか。いい加減諦めろよ」
 もぐもぐ。
「だってさ、星の原石があればあんなことやこんなこと、できたのに」
「あんなことやこんなことって……」
 呆れ顔のノアくんと、苦笑気味のドロシー。
 もぐもぐ。
「だって、もし魔法がたくさん使えたら、シュナにもっとなにかなにかできたかもしれないよ」
「……まぁな」
「また今度、会いに行こうよ」
「うん……」
 もそもそとお肉を食べていると、お皿に大きなお肉が乗った。
「ほわっ!?」
 お肉が降ってきた!? えっ、どこから!?
「ほら、俺の肉やるから元気出せよ」と、ノアくん。
「ノアくん……!!」
 なんてことだ。
 私の幼なじみ、イケメン過ぎるっ!
 感動していると、お肉がさらにもうひとつ。
「仕方ないなぁ。私のもあげる」
 ドロシーッ!!
「ふたりとも好き~!!」
 ここに女神とイケメンが降臨!
「一瞬で機嫌が治ったな」
「分かりやすいねぇ」
 ほくほくしながらお肉を頬張っていると。
 コツコツとイヤミな音が食堂に響いた。
 ……う。嫌な予感。
 振り返らなくても分かる。
 確実に私のところに近付いてきている気がする。
「あ~ら。火花ったら、フォークなんかしゃぶっちゃって。その金属、そんなに美味しいの?」
 高らかに声をかけてきたのは、ステーキのトレイを手に持ったダリアンだった。
「ダリアン……」
 ぽっとため息が漏れる。
 やっぱりだよ~。絶対絡まれると思ったよ。
「お隣いいかしら?」
「あ~ここには先客が……」
 答える前に、ダリアンは平然とノアくんの隣に腰を下ろした。
 そっちかい。ま、そりゃそうか。
「ダリアン。今日の授業ではせっかく手分けしたのに、結局星の原石を取ってこられなくてごめんね」
 ノアくんはいつの間に出したのか、いつもの営業スマイルでダリアンを見ている。
 まったく、どいつもこいつもなんなのよ。
 むしゃくしゃしながら肉を食らう。
「ううん、いいのよ! どうせ、火花がノアくんの邪魔をしたんでしょう?」
「なにぃ!?」
 弾かれたように立ち上がった。
「なんでそこで私が出てくるのよっ」
「ちょ、火花ちゃん落ち着いて。というか声が大きい! みんな見てるから」
 ドロシーが間に入ってきて、私は仕方なく椅子に座り直す。
「ぐぬぬ……」
 せっかく美味しくビーフシチュー食べてたのにっ!
 ダリアンのせいで台無しだよ。
「ねぇねぇノアくん。火花なんて放っておいてあっちで食べない?」
「いや、なんでやねん!」
 思わずツッコんじゃった。
「他の席を汚すのもよくないし、そんなこと言わずにここで一緒に食べよう、ダリアン」と、ノアくん。
「うんっ! そうする」
 変わり身早っ!
「あ、そうだ。また同じ実技があったらペア組みましょうねっ!」
 メンタル鋼か!
「ふん。ノアくんにペア解消されたくせに図々しいわっ!」
「なっ!」
 ダリアンが眉を寄せて私を見た。
「なによ! 図々しい代表の火花には言われたくないっ!」
「ペア解消されたひとになに言われても悔しくないもんね~」
 いーっと歯を見せて威嚇すると、ダリアンは顔を真っ赤にして身体を震わせた。
「なによ、このポンコツ魔女!」
 はぁっ!?
「誰がポンコツじゃいっ! 私は偉大な魔女になるの! ポンコツなんかじゃないっ!」
 するとそれまで黙っていたドロシーもびくびくしながら応戦してくれた。
「そ、そうだよ。火花ちゃんはちょっとおバカなだけだから。ダリアンってばひどいよ」
 ……んん?
「……ドロシー。それはフォローになってない気がするよ?」
 だって、結局バカってことだよね?
「えっ? そ、そう?」
 もう、ドロシ~!!
 嬉しいけども!!
「うるさいわね! 空気ちゃんは黙ってなさいよ」
「く、空気ちゃん……」
 ドロシーはしょぼんと肩を落とした。
「ちょっと、ふたりとも。そろそろやめ……」
 ノアくんが間に入ってくるけど、それどころじゃない。
「ちょっと! ドロシーは空気ちゃんじゃないってば!」
「ふんっ」
「訂正して! 謝ってよ、ダリアン!」
「なんで私が謝らなくちゃいけないのよっ」
「火花ちゃん、私のことはいいから、もうやめよう?」
「そうだよ、火花。ダリアンも落ち着いて」
「よくないよ。ドロシーはドロシーだもん。私の大切な友達だもんっ!」
「……ふんっ! バカみたい。そんなことでいちいち怒って。怒りんぼ火花!」
「おっ……怒りんぼっ!?」
 くぅ~!!
「あらあら。顔を真っ赤にして。まるでお猿さんみたい。あぁ、あなたって実はお猿さんだったの? お猿さんはお猿さん同士、キーキー仲良しでよろしいこと」
「なっ!!?」
 く、悔しい~!! もう我慢できないっ!
 バンッ! とテーブルを強く叩いて立ち上がった。
 その瞬間、周囲がしんと静まり返った。
 私はダリアンを指さして、
「言っておくけど私、ダリアンほど嫌われてないから!」
「え?」
「そもそもダリアンがみんなにちやほやされてるのは、ダリアンがただ偉いひとの娘だからってだけでしょ! みんな、ダリアン自身が好きで仲良くしてるわけじゃないんだからねっ!」
「ちょ、ちょっと火花ちゃんっ!」
 ドロシーに袖を引かれ、ハッとする。
「……さすがに言い過ぎだよ、火花」
 ノアくんも厳しい顔で私を見ていた。
「あ……」
 周囲は、しんと静まり返っていた。
 顔を上げてダリアンを見る。
 ダリアンは、瞳に涙をいっぱいに溜めて、俯いた。
「……あの、ダリアン」
 ダリアンは怒るわけでもなく、俯き手を震わせている。
 そっとその顔を覗き込んで、息を詰めた。ダリアンの瞳から、ぽろぽろと涙が零れ落ちていた。
 どうしよう、泣いちゃった。ダリアンを泣かせちゃった……。
 胸がぎゅっと引き絞られるように痛む。
「ダリアン、ごめ……」
 手を伸ばすと、ダリアンはキッと私を睨みつけて、手を振り払った。
「火花のバカ……!」
 いつもと違う弱々しいダリアンの声に、さらにずきんと心臓に強い痛みが走る。
「ダリアン、待って!」
 もう一度引き止めるが、ダリアンはなにも言わず、その場から逃げ出してしまった。
「ダリアン……」
 ダリアンの後ろ姿を見て、私はなぜだか泣きたくなった。