「…梓ってさ、なんで兄貴と付き合ってんの?」


「え?」



兄貴のお見舞いに行った帰りに、そう尋ねたことがある。


梓は兄貴の前ではいつも笑っているけど、帰り道では泣きそうな顔になっていることに気づいていない。


入院ばかりの兄貴とデートや恋人らしいことなんてあまりできていないだろうし、辛いと思うのは当然だ。



だからこそ、どうして別れないのかずっと疑問だった。


俺の方が幸せにしてやれるのに、と何度も思っていた。



「んーなんでって言われても…好きだから?」


「辛くねぇのかよ?デートとかもろくにできなくて」


「そりゃ、辛いわよ。私だってもっと恋人らしいことしたいって思うわ。…だけど、きっと千春はもっと辛い思いをしているから。そんな千春を私はずっと支えてあげたいの。それに、私は千春と一緒にいられればそれでいいのよ」



兄貴の病気が全然良くならなくても、何年経っても梓は兄貴を変わらず好きでい続けた。