梓を好きになったのは、小六の時だった。



「村井梓です。よろしくね」



一目惚れだった。だけど、俺の恋は開始五秒で終わった。



「千瑛くんのお兄さん…千春と付き合ってるの」



梓は出会った時から、兄貴の彼女だった。



兄貴は昔から心臓の病気持ちで、入退院を繰り返していた。


学校も行ったり行かなかったりで、行事イベントも参加することなんてあまりなかったから、そんな兄貴に彼女がいたなんて驚きだった。


梓は、兄貴の代わりに俺を色々なところに連れていってくれた。


クラスの友達と遊ぶよりも梓といることの方がずっと楽しかった。



梓と過ごす時間が誰よりも増えていって、俺の一方的な想いも少しずつ大きくなっていった。