「でも…」


「茉莉花のことなら全部わかってるよ。幼なじみだもん。記憶がないってことが嘘だってこともね」


「知って…たんだ」


「理由はわからないけど、俺は茉莉花の力になれないから。犬飼さんが茉莉花のこと支えてあげて」



手を止めて黙ってしまった犬飼さんに、何か余計なことを言ってしまったかと不安になっていると、犬飼さんは急に顔を上げた。



「失恋には新しい恋あるのみ、だよ。河瀬くんの場合は一途すぎて新しい好きな人なんてできるのか心配だけどねー」


「ははっ、そうだね。でもちゃんと前を向くよ。好きな人には幸せになってほしいと思うけど、それと同じくらい自分だって幸せになりたいしね」


「河瀬くんのこと好きな人なんて、案外身近にいたりして」


「え?」


「なんてね」



犬飼さんはあははと明るく笑った。



いつか新しい好きな人ができたら、その時は自分の手で幸せにしたい。


そんな日が来るのはもうすぐな、そんな気がした。