これはチャンスだと思った。



「…ここ、どこ?」


「え?茉莉花、もしかして…何も覚えていないの?」


「…うん」


「昨日のことは?何も覚えてない?」


「昨日…?今って、入学してから一週間くらいだよね?」



私が千瑛のことを好きだった気持ちなんてなかったことにしちゃえばいい。


千瑛と仲良くなる前の私になればいいんだ。


そうすれば、もう誰も傷つかなくてすむ。



そう思って私は嘘をついた。本当は全部覚えているのに、千瑛と過ごした日々を忘れたフリをした。


その嘘はバレることなく、頭を強く打ったおかげで一時的な記憶障害だと診断された。