真実、その深い沼/その1
アキラ



今日、都内某ホテルのロビーで、バンドの代表の人と会った

赤子さんも同席してくれて、1時間くらい話をした

先方は30代半ばで、感じのいい人だった

「じゃあ、近々事務所の人とってことになると思うから、アキラ」

「赤子さん、ホント、ありがとうございました」

「まあ、さっきの人は、人柄重視ってタイプだから。へたっぴでもテク的なとこは、これからで大丈夫だからさ(苦笑)」

赤子さんは、警察の件も事情をうまく話しておいてくれたらしいんだ

感謝してる、この人には…

「ええ、頑張りますんで。ひとつ頼みます。」

赤子さんはにっこり笑って、「はいよ」の一言だった


...


二人は、バイクを置いてあった駅前で少し立話をしてた

「ところでさ、マッドハウスの暴露記事が出たんだって。今週の週刊誌に載ったらしいや。私は読んでないんだけど。アキラ、知ってたか?」

「いえ…、どんな内容だったんですか?」

「業界の知り合いから聞いた話だと、新人バンドの登竜門になってる某ライブハウスが舞台だって。そこ、実は悪徳地上げにかかわってて、バックはやくざで、そことロック界の”大物”が黒い関係だとかなんとかって…」

「それって…」

「結局は、いかがわしい出版社が出してる下世話な雑誌で、場所も含めて全部匿名らしいよ。そんなだから大して騒がれてないけど、見る人が見ればそのライブハウスがマッドハウスで、バックのやくざが相和会で、黒い関係が石田さんと建田興業だってすぐわかるらしいや」

オレは一瞬、以前接触してきた”週刊実話キャッチ”の記者を思い浮かべたが、それとは別口なのか…


...



「なんでもさ、私とかアンタも登場人物の一人らしいよ。どうせチョイ役だろうけど(笑)。この業界はそういうの、結構多いから、そのうち立ち消えだろうね」

赤子さんは大して気に留めてないようで、この話はそこで終わったんだが…

その後、二人はそこで別れた

そしてアパートに戻り、ポストから郵便物を取り出すと…

その中にB5サイズの封筒があり、差出人は追川隆由とあった

この人…!

この前会った”週刊実話キャッチ”の人だ…