約束された血の匂い/その1
麻衣



いつもそうだが、言いようのない高揚感なのよ…

私自身の深いところに住みつく”心の主”と交わした約束

それを遂げ、その時に辿り着く瞬間

だが、今回はまさしく特別というか、特上の到達点と言える

そうよ、今日、これから私の目に入る光景は、今までとは次元が違う

未知の体感域…

間もなくなんだ

ああ、ドキドキしてきた


...



”ガラガラガラ…”

大きい廃倉庫の扉が開いた

聞きなれてるはずだが、今日はいつになくトーンが重々しい

無論、気のせいだろう

なにしろ、精神の高鳴りが違うんだ

倉庫から外に出てきたのは勝田さんだ

勝田さんは、車の横に立っている倉橋さんと私の前に、小走りで向かってきた

「オヤジさん、そろそろ準備できますんで…」

「わかった、すぐ行く」

勝田さんは「じゃあ…」と早口で倉橋さんに答えると、すぐに倉庫へと戻って行った

”ガラガラガラ…”

相当重いであろう、金属製の引き戸を閉める間際、勝田さんは一瞬、私に視線を投げかけてた


...


「…麻衣、お前はやっぱりここにいろ」

サングラスをかけ、すでに”仕事モード”に入っていた”彼”は、私の顔を見ないでそう言った

「ううん。私も立ち会うわ」

「いいか、一旦、コトにかかれば瞬時で血の海だ。しかも血に交じって肉片だって飛んでくる。締めっきりのうす暗い空間で、見たことのないような黒い色が目に焼き付く…」

私の愛おしいフィアンセ、倉橋優輔は、すでに悪名高い”撲殺人”に変身していた