晶は、花壇を見ずに昇降口へ入った。
教室に着いてから、晶は自分の席で本を開いた。
じんじんと疼くような頭痛がして、内容が頭に入ってこない。
痛みは永遠に続いて取れない気がした。
机に突っ伏していると、腕の中で、ふいに視界が影った。
「こら」
コツンと音がして、頭に痛みが走った。
顔を上げるとと真ん前に昴が立っていた。
「壊れてもまた直せるだろ。」
昴の手には、ゴムテープで取っ手がきれいにくっついた玩具のカメラがあった。
「アホウめ。何に遠慮してんだよ。まったく。」
ふ、と昴は晶の開いていた本に目を留めた。
「ヴァンパイアの本ばっかり読むんだね。好きなの?」
晶は首を横に振った。
「ふーん。」
昴は頷いた。
「白くてひ弱。お前がヴァンパイアだったら面白いのにな。」
そこへたまたま騒いでいた男子の一団がやって来た。
「昴!」
「今行く」
昴はかけて行ってしまった。
算数の授業。
教鞭を持った先生が、黒板を指して聞いた。
「この問題の答えが分かる人」
誰も手を挙げない中、昴だけがすっと手を挙げて、答えた。
「……です」
「大正解。難問だぞ。よく勉強しているね」
給食の時間、晶のクラスは机を合わせない。
調子が悪いから当たり前だが、晶はたった二口しか給食を食べなかった。
食器を片付けようか迷っていると、昴がやって来て、空いていた晶の前の机に腰掛けた。
一緒に男子の一団がいて、ガヤガヤ騒いでいる。
昴はポケットからクッキーの袋を取り出すと、口を左右に引っ張って開けた。
昴が言った。
「晶、あーんして」
晶は目を瞬いた。
「あーん。ほら早く」
晶が小さく口を開けると、その口に、昴はクッキーを摘んで押し込んだ。
「餌付け。」
昴が言った。
「お前は栄養取った方がいいよ。ガリガリじゃん。」
「昴、俺にもちょーだい」
「晶にやるために買った。こいつあんまり食わないから」
「西井がそんな気になるかあ?」
友達の一人がはやす。
「別に。食わなすぎるからなだけ」
昴はそっけなく言った。
続けた。
「細い女の子嫌い。」
「……」
「太れ。肉つけなよ。」
「セクシーバディにして、やらしいこと考えてんな、昴。」
「そーゆーこと考えてんなよ、昴」
「はは。まあね。」
晶が昴を見上げると、昴は怒り笑いした。
「嘘に決まってるだろ。」
晶は、甘いクッキーを黙って食べた。
「ちゃんと食えよ。僕それお前のために買ったんだからな」
晶の頭の中で、細い女の子嫌い、がリフレインした。