朝。

 いつもより早く学校に着いた晶は、ロッカーに鞄を入れた。




「……でさ」

「マジで?」

「そうなんだ」




 教室の後ろに固まっている男子の一団には昴も居て、晶はなんとなく昴の方を見てしまった。
 たまたま合った目を晶は慌てて逸らし、席に着く。



 血を飲めない晶はヴァンパイアとしての力が弱く、引っ込み思案で消極的だった。



 ヴァンパイアの本を開いて見ていると、いきなりコチン、と頭に軽い痛みが走った。


 振り向くと手をグーにした昴が立っていた。



「こら。目があった時は、黙ってないで話しかける。なんで無視するんだよ。」



 晶が何か返す前に、昴は男子の一団を振り向いた。




「山上、石田、頼んでたやつあった?」

「あったあった。持って来たぜ」

「持ってきた。一杯持って来たよ」

「ありがと」




 昴は大きな袋を友達から受け取った。

 そのまま晶に袋を突き出す。




「はい。」

「?」

「着替えてきな」

「え。」

「早く。」




 昴は袋から水色のシャツを引っ張り出した。



「こういう明るい服を着な。お前の着てるの、暗すぎるよ。」



 晶が何か言う前に命令した。



「分かったらさっさと着替える。」



 晶は訳が分からないままトイレで水色のシャツを着た。

 教室に戻ると、待っていた昴は、後ろに下がって晶の洋服をチェックしてから、ぽんぽん、と晶の頭を撫でた。



「似合う似合う。」


 黙っていると昴は腕を組んで、晶にしかめっ面を作った。




「ありがとう、は?。」

「……ありがとう。」

「はい。明日も着て来な。」

「もっとたくさんあるよ、姉貴のお古。」




 友達が言った。



「ほんと?こいつにあげたいんだ、持って来て。」



 晶は席に戻った。

 水色のシャツは、薄くて肌触りが良くて、いつものゴワゴワした服と全然違う感じがした。








 晶は貰った洋服を着て登校するようになった。

 文房具屋で琥珀に声をかけると、琥珀はちょっと驚いた顔をした。




「どうしたの?その服」

「貰った」

「ふーん」




 琥珀は飲み物の小さなボトルを渡してから聞いた。




「友達できたの?」

「ううん」

「学校が一緒だったら良かったんだけど。僕以外でキミに仲良くする人が出来たら、僕はどうしようかな」




 琥珀の美しい飴色の目が、晶をじっと見つめる。




「そしたら許してあげないよ」

「そんな、」

「……嘘だよ。僕は優しいから。」




 琥珀は手を伸ばして晶の頭に軽く触れた。



「友達できて良かったね」



 琥珀が静かに言った。







 一人の部屋で、立てかけてある鏡を見る。

 今までは黒か灰色しか着なかったのに、白いシャツにオレンジのスカートを穿いた自分が映っている。

 全く別人になった気がした。

 晶は鏡に、顔を近づけておでこをぶつけた。