私が早番のときには樹くんが夜からのフライトがあったり、せっかくお互いの休みが被っても彼は海外にいたり……。
樹くんの家の最寄りは京急(けいきゅう)蒲田(かまた)駅のため、お互いの家を行き来するのに一時間以上かかるのもひとつの壁だったと思う。


結婚を決めたあの夜、樹くんから突然連絡がきたのにその日のうちに会えたのは奇跡だった気がしたほど。
つまり、彼とはデートらしいデートすらしていない。


もっとも、一緒に住み始めてからは樹くんと顔を合わせる機会はグッと増えたけれど、それでも今のところ半日一緒に過ごす機会もなかった。


ただ、私はそんな状況に救われていたりする。
だって、恋人期間もなく、いきなり彼と一緒に住むことになったのだ。


いくら2LDKで、樹くんが書斎にしていた部屋を自室として使わせてもらっているとはいえ、ひとつ屋根の下で彼と住むことに緊張しないはずがない。


樹くんは恋愛経験が豊富だろうし、同棲したこともありそうだけれど、私は違う。
家族以外の人と一緒に住んだことなんてないし、ましてやその相手は初恋の人だ。


緊張しないというのは、不可能だった。