「樹くんは、本当にいいの?」

「嫌ならこんな提案しないよ。気の迷いや一時の感情で結婚を決めるほど、浅はかじゃないつもりだ」


ブレない樹くんにつられるように、私の中の迷いが溶けていく。


「ただ、ひとつだけ。結婚するなら、せめて二年間は婚姻関係を続けよう。親を納得させるのはもちろん、できる限り心配かけないためにも」

「……うん、わかった。よろしくお願いいたします」


深呼吸をしてから一息に言い切れば、彼が「なんで敬語?」とククッと笑った。


一拍置いて、再び真剣な表情に戻った樹くんが私を見据える。


「俺は仕事が忙しいし、職業上どうしてもいつも傍にいることはできない」

「うん」

「でも、約束する。芽衣を大事にするから」


真摯な眼差しに、単純な胸の奥が甘やかな音を立てる。
責任感と義務感から出た言葉だと思うのに、心臓がうるさいくらいドキドキと騒いでいた。


(ダメ……。勘違いしちゃいけない……)


彼は『契約結婚みたいな形でもいい』と言っていた。
だから、甘く優しい言葉だけを鵜呑みにせずに、きちんと境界線を引いておかなければいけない。


なんて考える思考とは裏腹に、心と鼓動はいつまでも落ち着かなかった。