「じゃあ、改めて言うよ」
八方塞がりの中、樹くんが真剣な顔つきになった。
怖いくらいに真摯な双眸に見つめられて、思わず息を呑む。


「芽衣、俺と結婚してよ。幼なじみとしてじゃなく、夫として妻を大事にするから」


甘い声音とは裏腹に、決して甘くはない私たちの関係。
彼が本気で提案しているともう理解はしているけれど、やっぱりおかしいとしか思えない。


それなのに、私からは断り文句が出てこない。


ただ『無理』と言うだけでいいとわかっているのに、目の前に差し伸べられたのが救いの手のように感じられて……。
樹くんがどこまで本気なのかは察せないし、そもそもあの夜の責任感からの言葉だとも思っているのに、真っ直ぐに見つめられると視線も逸らせない。


気がつけば、答えはひとつに絞られていた。
半分ほど残っていたハイボールを一気に飲み干し、意を決するように空になったグラスをテーブルにドンッと置く。