(ダメだ、飲みすぎたせいか、変に意識しちゃう……。早く行こう)


「樹くんは実家に戻る? 私はこのまま電車で――」


踏み出した足に力が上手く入らず、パンプスが地面を滑る。


「きゃっ……!」

「芽衣!」


咄嗟に瞼を閉じたけれど、倒れずに済んだことに気づいて目を開ける。すると、力強い腕に抱き留められていた。


冬服越しなのに、硬い胸板の感触が伝わってくる。
鍛えていることがわかる逞しい体躯に包まれていると自覚した瞬間、頬が熱くなって心臓が早鐘を打ち始めた。


「ご、ごめんね……! 飲みすぎちゃったみたいで……」


慌てて言い訳を零し、私を支えてくれている樹くんから離れようとする。
ところが、彼の腕は力を抜くどころか、さらにギュッと抱きしめてきた。


「っ……!」


全身が熱くて、鼓動がうるさい。
早く離れようと思う頭に反し、体が動かない。


「芽衣」


甘い声が鼓膜に触れたとき、きっと理性は溶け始めていた――。