刹那、胸の奥がチクリと痛む。
これが当然の言葉だとしても、昨日よりもずっと樹くんとの距離が遠くなったようで、なんだかいたたまれなかった。


(そう、だよね……)


けれど、彼は悪くない。
だって、私たちが体を重ねたのはお互いに合意の上だったのだから……。


「それで、話があるんだ」


次の瞬間、私の唇は思考よりも早く動いていた。


「気にしないでっ……!」


樹くんよりもずっと大きな声が、ふたりきりの室内に響く。


「大丈夫だよ! 私だってもう大人だし、たった一度体の関係になったくらいで『責任取って』なんて言ったりしないから!」


努めて明るく、せめてこれ以上気まずくならないように。
そんなことを意識して必死に笑顔を作る私に、彼が眉をグッと寄せてため息をついた。


なにか間違ってしまったのかと、心に不安が過る。


「芽衣」

「は、はい……」


ところが、反射的に背筋を伸ばして樹くんを見た私に投げられたのは……。

「結婚してくれ」

予想もしなかった、愛のないプロポーズだった――。