極上パイロットは偽り妻への恋情を隠さない

「芽衣、待って。俺も行く」


家を出て程なく、樹くんが追いかけてきた。目を見開く私に、「ひとりじゃ危ないだろ」なんて笑みが向けられる。
相変わらず優しい彼は、まだ私を妹のように扱ってくれているようだった。


「平気だよ。もう二十八だし、子どもじゃないから」


ただ、どう受け取っていいのかわからなくて、つい可愛げのない返事をしてしまう。
素直に嬉しいと言えない自分が、樹くんよりもずっと子どもに思えた。


「バカだな。子どもじゃないから、別の意味で危ないんだよ。この時間は酔っ払いもいるし、人通りの少ない道もあるんだから」


けれど、彼はそんな風にさらりと言ってのけ、私の隣に並んだ。


「えっと……ありがとう。でもいいの? 焼肉、食べなくて……」


戸惑った私は、樹くんの顔を真っ直ぐに見られなくなる。不自然にならないように、彼からほんの少しだけ視線を逸らした。