極上パイロットは偽り妻への恋情を隠さない

「ほら、お肉と野菜、早く持って行って」


母にキッチンから追い出され、言われるがまま食材を運ぶ。準備はすぐに整い、早速ホットプレートの電源を入れてお肉を焼き始めた。


大きめのローテーブルでも、大人九人と子どもひとりで囲めばそれなりに狭い。けれど、乾杯をする前から各々で盛り上がっていた。


一方、肩身の狭い私は、ひたすら調理役に徹する。母と一緒にホットプレートの上にお肉と野菜を並べては取り分け、できる限り余計なことを言わないようにした。


(あ、でも、樹くんは独身なんだっけ)


ふとそんなことを考えたとき、樹くんと目が合った。綺麗な双眸に見つめられ、ドキッとしてしまう。


「芽衣、どうかした?」

「ううん、別に」


平静を装ったけれど、なんだか彼に動揺を見透かされている気がして……。なにも悪いことはしていないのに、どんな顔をすればいいのかわからなくなった。


昔からそうだった。
物心ついたときから、私は樹くんの前だとドキドキしていた。


それでも幼い頃は無邪気に笑っていられたけれど、小学校の高学年にもなれば緊張やくすぐったさが大きくなってモジモジしてしまうことも多かった。
子どもながらに、彼のことをとても意識していたのだ。