文芸クラブが終わり、私は帰り支度をした。
今日は伊織のクラブの方が遅く終わっていた。
共通スペースまで歩くと、学校の記念品を展示するケースの前の廊下に、道着の一団がある。
まだ着替える前だった。
「朝田さん」
道着のまま、伊織が私のところへ来た。
「もう終わったの?」
「うん」
伊織はすぐ着替えるから、と言ってちょっと微妙な顔をした。
男子はその場で着替えをするのだった。
私は慌てて下駄箱で待ってると言って立ち去った。
しばらくしてからパーカーを着た伊織が現れた。
「できるだけ早く来たんだけど、待った?」
「ううん」
「帰ろう」
外はもう暗く、廊下の明かりだけ光って見える。
「朝田さんは、家帰ってもう寝る?」
歩きながら伊織が聞いた。
「うん、お風呂入ってから」
「今日親が揃ってるから、遊びにこない?。夕飯食べていきなよ」
「いいの?」
「うん。是非。今日は親に言っといたんだ」
伊織の家に入る前、一旦入浴するために家に帰った。
シャワーを浴びて、パジャマじゃなくて部屋着を着る。
やわらかい白のTシャツにした。
インターホンを押すと珍しく伊織のお母さんが出てきた。
「いらっしゃい。まあ、よく来てくれたわね」
伊織のお母さんは、顔も雰囲気も伊織にそっくりだ。
伊織が2階から階段を降りてきた。
「朝田さん、いらっしゃい。カフェオレで良い?」
私はカフェオレが好きなのだ。
伊織は覚えてくれている。
「夕飯もうちょっとでできるって。ちょっと上行ってくるから待ってて」
「うん」
「彼朝田さんの話ばっかりしてるわよ、家で」
伊織が2階へ上がると、伊織のお母さんが冷蔵庫を開けながら言った。
「りんちゃんって呼んじゃだめなのかな?さんづけなのね」
「呼び捨てでいいのに、」
「凛。凛って呼びたがるわよあの人」
「はい…」
「呼ばせてあげてね」
ふふふと伊織のお母さんは笑った。
「何話してたの?」
階段から降りてきた伊織は、リビングに入ると、咎めるように母親を見た。
「何も。さあ夕飯夕飯」
「あの人お喋りだから。朝田さん、気にしないでね」
伊織はキッチンに消えたお母さんの後ろ姿を見ていた。
ソファーに座らせてもらうと、伊織も隣りに座った。
「朝田さんが居ると家が華やぐ」
伊織が言った。
「いつも来ても歓迎してるよ。昼はしょっちゅう来るけど、夜は珍しいよね。クラブの日、毎回呼べないかな」
「そんな、いいよ」
「親が両方揃ってたら夕飯一緒に食べれて呼びやすいんだけど。また呼ぶよ」
夕飯はおいしいお吸い物とお魚だった。
私は夕飯のお皿を出したり、細々したことを手伝わせてもらった。
女の子がいないからと大変喜ばれた。
私達は楽しく食事した。