学校には放課後にいろいろなクラブがある。
全部ボランティアで運営されているクラブだが、来ている生徒の数も多く、とてもにぎやかだ。
伊織とよく似ている伊織のお母さんは、学校のクラブの運営委員をしていた。
「昨日放課後学校に来たけど、図書室が開いてた。」
伊織が言った。
「そうなの?」
「うん。夕方の図書室も雰囲気あったよ」
伊織と私は中休み、二人で話をしていた。
「クラブがあったから来てたんだ。剣道クラブあったから。昨日は面白かったな」
伊織は学校じゃない場所で剣道を習っている。暇になると、伊織は学校のクラブにも顔を出すのだ。
「朝田さんもクラブ来ればいいのに」
伊織が言った。
「面倒くさいから、いい」
「面白いよ?。何もしてなかったら、大人になって後悔するよ。」
「本だったら読んでるよ」
私が言った。
私は本が好きだ。読書は私の重要な癒やしの一つだ。
できることなら本の世界に行きたい。
「クラブは時間も遅いし、親が心配する」
私が言った。
「時間を気にしてるの?僕が送っていくよ」
伊織が顔を上げた。
「同じ時間に剣道やってるから。入会用紙から何から、やってあげる。全部書いてあげるよ。」
「やることあるから、いい」
私は言った。
「朝田さん、強情。ほんとにクラブ入ろうよ。夕方学校で遊ぼうよ」
伊織が言った。
夕方、私は文芸クラブに来ていた。学校から伊織と一緒に帰るとき、クラブを見学に行こう、と誘われたのだ。
前にうっかり文芸クラブなら、と言ってしまったのを、伊織は覚えていた。
今日は自転車で、伊織と学校に来ている。
教室に着くと、十人くらい、女子ばかり集まっていた。
先生にはカルチャーセンターの講師が来てくれている。
思ったことを思ったように書くのは案外難しい。
なんの気負いもなくまずやってみる事だそうだ。
課題にショートストーリーが出された。
私はうまく書けず、悩んだが、机に向かって、それでも一応書きだした。
学校の広場について。とりとめない空想のストーリー。
時間になっても文芸クラブは終わらなかった。
「失礼します」
静かな教室に伊織の声がしたと思うと、戸がちょっとだけ開いたので、私は、机に向かったまま耳を澄ませた。
「朝田さん」
講師に呼ばれて、私は一足先に伊織と帰ることになった。
「何話してたの?」
夕方を過ぎて暗くなった校舎から出て、自転車を押しながら伊織に聞いた。
「別に。遅くなると親が心配するって言っただけ。」
「剣道どうだった?」
「いつもと一緒。楽しかったよ。朝田さんはどうだったの?」
「うーん、どうなんだろ」
私は、街頭に照らされる通学路を見た。
「楽しいのか、分かんない」
「そう。続ける?」
「…うん、しばらくは」
伊織が言った。
「そっか。やった。僕朝田さんとこの時間居れるの楽しみ。毎回迎えに行ってあげるよ。」