「ありがとうございます」

「召し上がれ」


蓉子ママのおにぎりは、ママの美しい外見からは想像できない優しい味がする。


控えめな塩加減に、ふんわりと握られた白米。焼いた鮭を解したものと、焼きのり。どこで食べるよりも、とてもおいしいのだ。


「少し顔色が悪いわね。あまり寝てないんでしょう」

「そんなことありませんよ」


曖昧に微笑んだ私の嘘を、きっと蓉子ママは見透かしている。おにぎりを完食した私は、お礼を言って更衣室に逃げ込んだ。


ドレスに着替え、髪を巻く。母譲りの色素の薄い黒髪は真っ直ぐ腰まで伸び、巻くのに時間がかかるけれど、一年以上もこうしていれば随分と慣れた。


綺麗に纏めてハーフアップにし、赤い石が施されたヘアアクセをつける。


二重瞼にはブラウンのアイシャドウ、頬には色素が薄い肌に馴染む淡いコーラルのチークと同色のリップ。そうしてメイク直しも終えると、フロアに戻って開店準備をした。