だから、俺は真白を問い詰めるのをやめ、代わりに毎晩ひとつずつ思い出話をした。


そんな俺は、きっと滑稽だっただろう。
彼女にしてみれば、ただ困惑するだけだっただろう。


けれど、人形のような表情しか見せない真白が、思い出話をするときだけは懐かしげに瞳を緩めるのが嬉しかった。
幸せだった、と言っているようで、もっと見たくなった。


一刻も早く、真白を取り戻したい。
そう思う一方で、頑なに心を開こうとしない彼女を待とうと決めた。


ただ、ときおりふと俺に向けられる眼差しが俺を好きだと語るせいで、次第に心が甘く痺れるように震え、恋情を抑え切れなくなっていった。


真白の目が、俺の手に応える華奢な手が、俺への想いを隠し切れていなかったのだ。
だったらもう、待つのはやめようと思った。


さらに手段を選ばずに真白を取り戻そうと、彼女の二十六歳の誕生日を祝ったレストランで、本当はあの翌年にするつもりだったプロポーズをした。


真白が俺の手を取ってくれるのなら、他にはなにもいらないと思えた。
神室に尽くしてきた日々も、これから俺が得るであろう地位や名誉さえも。