咄嗟に名前を呼んで走り出し、驚きからか硬直していた彼女の手を掴んだ。


しかし、真白は俺から逃げようとした。


なぜ俺の前から姿を消したのか。
どうしてこんなところにいるのか。
あれからどうしていたのか。
いかるが宝石が抱えていた負債はどうなったのか。


訊きたいことは山ほどあったが、そのときの俺はただ彼女をとどめ、取り戻すことしか考えていなかった。


真白が姿を消してからの一年、時間も金も労力も惜しまずに彼女を探し続けた。
ところが、神室の力を持ってしてもわずかな手掛かりすら掴めず、真白の兄の行方もわからなかった。


のちに、それが祖父の妨害によるもののせいだとわかったが、長らくそんなことも見抜けないほど、俺は真白のことになると冷静さを欠いていたのかもしれない。


再会したからには、もう手放す気はなかった。
手段を選ぶ余裕もなく、彼女にひどい交換条件を突きつけ、無理やり東京に連れて帰ってきた。


一年前よりも痩せた真白は、ちっとも笑わなくなっていた。
芙蓉の客に向けていた笑顔と同じように、取り繕った表情しか見せない。
それがとても寂しくて、そして彼女の心に深い傷があることを語っていた。