おずおずと差し出した右手をそっと握られ、温かな体温に包まれる。
骨ばっているのに美しい指が搦められると、またひとつ幸せだった頃の記憶が蘇った。


愛されていたときの記憶と感覚は、とても厄介で。疲れていて眠いのに、緊張で眠れそうにない。


「心配しなくても、本当にこれ以上はなにもしない。今はここにいてくれるだけで充分だ」


そんな私の気持ちを見透かすように、旺志さんが微笑を浮かべた。
胸の痛みがいっそう強くなって、激しい苦痛に襲われている気さえしてくる。


いっそのこと責められる方が、きっとずっとラクだ。
恨まれて、憎まれて、ひどい言葉でののしられる方が、きっとつらくなかった。


優しくされることがこんなにも苦しいなんて、知らなかった。


「だが、真白を手放す気はない」


色々な感情と感覚に押し潰されそうな私に、彼がきっぱりと言い放つ。
贖え、と言わんばかりの厳しい声音だった。


戸惑いまで加わった心を隠すように、旺志さんから顔を背ける。
そのまま背中を向けていると、しばらくして規則的な寝息が聞こえてきた。