さてさて、ミキと陽毬は腕を組みながら会場へと戻ると

会場は普段と変わらない様子であったが、やはりミキと陽毬は

一部(?)から好奇の目で見られ、嫌な目線やら二人をチラチラ見ながらヒソヒソ悪く言ってるであろう雰囲気が伝わってきた。

社交界にミキが陽毬をエスコートしに来る事と、ミキの家族から超一流の最新モデルのドレスやら靴、アクセサリー、小物、メイクや髪型までプレゼントされた事もあり

陽毬は、会場でどんな目に遭うか分からないから、大人しくした方がいいのでは?

それに、せっかくの社交界なのに自分のせいでミキ君まで悪く言われ虐められるかもしれないと

ミキ君は自分の側に居ない方がいいとか、

そんなとんでもない素晴らしいドレスなど自分が身に付けたら宝の持ち腐れになって

せっかくのドレスなどが可哀想だし用意してくれた皆様に申し訳が立たないので、貰う訳にはいかないだの言う陽毬を

ミキをはじめ、ミキの両親やショウも加わり懸命に説得して今に至る訳だが。


そして、説得に説得を重ね陽毬はミキに色々と確認して、やっと決心がつき覚悟も決めたつもりだったのに。

やはり実際にそこに立てば、別物で陽毬の覚悟も何も粉砕されてサー…と顔は青ざめ足もガクブルで腰が引けてしまった。

あんなに覚悟を決めていたのに…足がすくんで動けない。

最初会場入りした時は、勢いに任せ入れたが今は状況がだいぶ違う。

みんな、陽毬の異変(金銭的な事)やミキの存在を冷静になって考え始め、有る事無い事好き勝手に噂しているからだ。

最初会場入りした時よりも、かなり注目の的になってしまっている。


そんな陽毬に、ミキは


「ひーちゃん、みーんながオレとひーちゃんを羨ましがってるね!
ひーちゃん、めちゃくちゃ綺麗だから嫉妬してるんだろうね。だから、ちょっと意地悪とかアクシデントあるかもだけど、だーい丈夫。
だってさ。その為にひーちゃんの彼ピのオレがいるんだからさ!」

筋肉質で長い腕をボンレスハムの様な陽毬の腰に回し、グイッと陽毬を自分に引き寄せると


「せっかく、一緒に来たんだからさ!
周り時にするだけ損だよ?今を目いっぱい楽しかなきゃ勿体無いって!」

と、満面の笑みを浮かべ、陽毬をエスコートして会場の中へ入った。

そんなミキに、陽毬は大きな勇気をもらいミキと一緒なら大丈夫とミキとビュッフェを食べながら好きな話に花を咲かせ

ダンスを踊ったり、中庭でゆったりして寄り添ったりして

とても、楽しい時間を過ごしていた時だった。

そこに、陽毬の両親が現れるまでは。


ダンスなどで疲れた体を休める為に中庭にある椅子に腰掛け、オタクトークで楽しんでいた二人の前に陽毬の両親が現れ

それに気がついたミキは、すぐさまに立ち上がり


「こんばんは。先に、陽毬嬢のご両親に挨拶しなければならない所を挨拶がだいぶ遅くなり申し訳ありません。
訳あって、本名は明かせませんが私の名前を今は“太郎”と、名乗らせて下さい。」

と、文句の付けようが無い程、完璧な挨拶をしてきた。

それに、陽毬の両親はかなり驚きつつ


「いやはや!今回の社交界で、陽毬にパートナーができて、その方からドレスなど貰いメイクもそちらでしてもらう。
更には、その方から送り迎えまでして頂けると話を聞いて少々心配しましたが。
なんともかんとも!
こんな素晴らしいドレスをプレゼントして頂けるとは!感謝しかありませんぞ。」

と、陽毬同様にデップリと肥えた脂ギッシュな陽毬の父親。

「オホホ!宝石も何もかも!素晴らしいプレゼントしてもらえて陽毬も大喜びでしょう。ワタクシも母として感無量ですわ。…それで、見たところ太郎様はかなり階級の高い方とお見受け致しますが?そして、うちの陽毬とはどういったご関係で?」

そう卑しく聞いてきたのは、これまたたぷんたぷんした顎と首の境目が分からないドラム缶の様なボディーをした

センスの欠片もなく、とにかく多くの宝石さえ付けてればいいといった感じの

宝石まみれな陽毬の母親が聞いてきた。


そんな両親を前にたじろぐ陽毬。

そんな陽毬の手をギュッと握り、ミキは一瞬だけ陽毬を見ると

“大丈夫、任せて!”

と、口パクすると


陽毬の両親に向かいニッコリ笑顔のまま


「うちの家系は王族の血縁ではないですが、父親が皇帝が直接認めた重役に就いておりまして光悦な事に皇帝から実力を認められ“王族”という地位を特別に頂き、今に至ります。」

と、答えると陽毬の両親は互いの顔を見合わせて、あからさまに歓喜の表情を浮かべいやらしくニマニマし始めた。

「陽毬嬢とは、長くお付き合いをさせていただいておりますが、なにせ自分は両親の仕事の都合上身分を明かせない事になっているのです。
なので、財前家にご挨拶にも伺えず申し訳なく存じておりました。ですが、どうしても陽毬嬢のご両親にご挨拶だけでもしたいと、何年も時間は掛かってしまいましたが何とか両親を説得してここに参った次第です。」

なんて、宝来家のみんなで考え、何回もセリフの練習をさせられたであろう嘘の内容をツラツラとミキは喋っていたが

まるで、本当のように思わせてしまう内容に陽毬はビックリしている。


これは、つまりは帝王直属の秘密機関で働く両親なので、格国家に関わる事なので両親の詳しい仕事やミキについて

話せるギリギリまで話したから、これ以上聞く事が許されない。知る事も許されないと釘を刺してるようなものだ。

なので、さすがの陽毬の両親もこれ以上聞く事はできず。

だが、王族である太郎(ミキ)と陽毬が、このまま結婚まで至ればお家バンザイに違いはないので

なんであれ内心では、両手を広げてスキップしてお花を撒き散らし状態である。


「なので両親の職に関わってしまう事なので、私が王族である事や私と陽毬嬢が付き合っている事はくれぐれもご内密に願います。
この事は、我々4人だけの心の内に秘めてほしいのです。もちろん、ご自分の両親や子供達…親しいご友人にも決して教えてはなりません。
…もし、少しでも口が滑ったとしたら財前家がどうなってしまうか…。」

と、言われたところで、陽毬の両親は一気に青ざめ激しく上下に頭を振ったもので、顔や弛んだ顎の肉がブヨンブヨン跳ねていた。

両親は考えた。

相手は王族。下手な事は言えない。

だけど、このゴブリン娘(陽毬)が、この王族様と結婚できれば我が家は金に困る事などない。

贅沢し放題だ!

よくやったぞ!本当に、こんなブサイクでとんでもないデブ、しかも何に置いても出来損ないのゴブリン娘(陽毬)…いや、我が娘を恋人にする物好きが本当にいるなんてな!

世の中、何があるか分からないものだ!

と、心の中で高笑いをしていた。


「…そこで、お願いがございます。」

そう、真剣な顔をして陽毬の両親を見たミキに何事かと、陽毬の両親は緊張した面持ちでゴクリと生唾を飲み込みながらミキを見た。


「両親の職業上、本来ならこういった社交の場に私は顔を出す事は許されないのです。ですが、陽毬嬢は社交界がある度に参加していると話を聞いておりまして、自分の恋人が社交界でいつどの様に他の魅力的な紳士に心変わりするか…いつも不安に感じておりました。」

と、とても不安気に、陽毬の両親に自分の胸の内を話すミキに

陽毬の両親は、ポカーンとしていた。


「…なので、とても失礼ながら。私の我が儘でありますが、陽毬嬢の恋人として今後一切陽毬嬢を社交界に参加させてほしくないのです。」


こんな絶世の美丈夫な王族様が、この出来損ないのゴブリン娘にこんなにもゾッコンとは…

と、酷く驚いていた。


「……お願いできますか?」


ミキが再度、陽毬の両親に声を掛けた所で、陽毬の両親はハッと我に返り


「…ええ!もちろんですとも!
太郎様を不安にさせる様な真似は致しませんぞ。なにせ、二人は愛し合う恋人同士なんですからな!ヌォ〜ホッホッホ!」

「安心して下さいな。ワタクシ達夫婦は、二人の愛を引き裂く様な事は致しませんわ!むしろ、若いこれからの二人を心から応援していますのよ?」

「さあさ。社交界の時間も残り僅かとなります。若い二人、残り時間を存分に楽しんで下さい。ホッホッホ!」

「それでは、ごゆっくりと。」


陽毬の両親はニマニマする顔を隠しきれないまま、願ったり叶ったりだと、大喜びで会場へと戻って行った。

両親の姿がすっかり見えなくなった所で、陽毬はハァ〜!と、大きなため息を吐き腰が抜けたように

ドカッと椅子に腰掛けた。

それに続いてミキも椅子に座ると、陽毬を見て


「ね?大丈夫だったでしょ?
それにさ!これから、ひーちゃん大嫌いな社交界に行かなくて済むし、万々歳じゃん?」

してやったりとニッと笑うミキに、陽毬は


「…ミキ君、ありがとうございまする!もう、なんとお礼を申し上げたらよいものか…」

と、陽毬はせっかくのメイクも台無しに号泣してしまった。ミキは椅子から立ち上がると、陽毬の前に立つと地面に膝をついて陽毬を抱き締めた。


「…ミ、ミキ君!せっかくの洋服が汚れてしまいますぞ!?」

と、慌てる陽毬に

「ひーちゃんが泣いてる時にさぁ〜。服なんて、どーだっていいよねぇ〜。
今はひーちゃんの気持ちが最優先だしぃ、オレがこうしたいの。大好きだよ、ひーちゃん。」

ミキはそう言って、陽毬の頬に軽く口付けるのだった。


「…ひ、ヒィィ〜〜〜ッッッ!!?」

恋人でありながら、二人は手を繋いだり抱き締め合う以外はないに等しい。

ミキは頬や頭に軽いキスさえも滅多にしないので、たまに軽いキスをされると恥ずかしさのあまり陽毬は悲鳴をあげミキを笑わすのだった。


「え〜?なんで、悲鳴あげちゃうかなぁ〜?」

恥ずかしくて真っ赤になる陽毬を愛おしく思いながら揶揄うミキである。


それから、しばらくして陽毬が落ち着いた頃。

陽毬は日頃考えているが頭によぎった。


そういえば、ミキ君とは3才頃からかな?その時から、恋人だけど…

抱き締めあったり、手を繋いだりするスキンシップは取るけど

たまぁ〜に。ごく稀に、私の頭やほっぺに軽いキスはしてくるけど…

今まで、口にキスした事ない。

と。


…………。


そこで、思い浮かんだのはショウだった。自分も、かなり早い段階で恋人ができたが。

ショウは、それを上回る

生まれた時から恋人という、本当かよ!あり得ない話だ。頭、大丈夫?と、周りから大笑われるであろう、驚きな恋人がいる。

ショウ曰く、恋人という言葉を知って自分達は恋人なんだなと理解したという。

気がついたら恋人みたいな感じだろうか?

そもそも、生まれた瞬間からショウと恋人だ。何なら、クソ法律さえなければ夫婦だと断言しているのは桔梗である。

それくらいに、あの二人は恋人歴が長い。


自分もそうだが、ショウも自分に似たり寄ったりの低スペックで容姿も平凡。
自分は超絶デブだが、ショウもややぽっちゃりである。

超絶デブとややぽっちゃりは…全然違うけど。

…まあ、共通点が多いって事にしておく。違う所も多いけど。

それはさておき。


そんな低スペックな自分達の最大の共通点。


それは、超絶ハイスペックが過ぎる腰を抜かす程のとんでもないイケメンが彼氏だという点だ。

それもあって陽毬はショウにとても親近感を感じている。


だから、いつも思う。


…ショウちゃん達は、どうなんだろ?


二人は口にキスした事あるのかな?

けど、まだ小6だし…まだまだ早いよね?

聞いてみたいけど、こんな恥ずかしい話したらドン引きされちゃうかな?

エッチ過ぎるって、気持ち悪がられたらどうしよう!


なんて考えて、なかなか相談できない陽毬だ。


…キスって、どんな感じなんでしょうな?


…ドキドキ!


なんて、気になり出すとミキの大きめな唇が気になって仕方がない。

…とっても、セクシーに見えて魅惑的な唇だ。


ドッキンドッキンドッキン!


…キスしてみたいだなんて、なんて自分はハレンチなんでございましょう!

実は私が、こんなエロエロだとバレてしまったら…とても真面目なミキ君に軽蔑されてしまうのでしょうな。


と、陽毬はムラムラする自分に嫌気がさしていた。…もう、モンモン・ムラムラも限界だ。

やはり、ここは恥を捨ててショウに相談しよう!


そう決心する陽毬であった。


ちなみに、白鳥 真白は
まだ、ミキの逆行前の様な悲惨な事にはなっていないが

大地(だいや)にはすこぶる軽蔑され、ウダツと共に二人とは前回同様に縁が切れた。

大地を将来の旦那にしたいという真白の願望は完全に打ち砕かれたが

(大地には最初から相手にされていなかったが、時間を掛ければ段々と絆されてくれると思っていた。)

自分には他にも目をつけている男もいるし、これから社交界デビューしてくる自分に見合う様なパーフェクトな男が現れる事を期待している。

そんな男性が現れるまで、今いる中で良さような男を順位付けして近付いておかなきゃ!

と、どうあがいても大本命が無理だと知るや否や、真白の気持ちの切り替えも早かった。


だが、自分の事でいっぱいいっぱいで真白は周りが見えてなかった。

真白の騒動は、友達内だけでなく

その周辺に居た人達の耳にも届いていたという事が。


これがキッカケで、これから徐々に真白は男性関係の様々な噂が広がっていき

それを心配した真白の不倫相手や浮気相手、婚約者の女性や家族達は探偵などを頼み徹底的に調べるとも知らず


そして、色々と真白の悪事がバレて


そこから、真っ逆さまな転落人生が待っているとも知らずに…。


大地には今までいくらアピールしても、何故か全く相手にされなかったのよね。ウダツばかりに構って、私の事は…適当にあしらってくれてたわよね?

…ムカつくわ。

だけど、それでも今のところ大地に適うパーフェクト男子がいないって事が問題なのよ。

仕方がないから、だいぶランクは下がってしまうけど妥協する事も大事だわ。

とっくの昔にランクは下がるけど。
妥協に妥協をして、なんとか自分に見合う男を何人か選別して目星付けてるもの。

それに、うざかったウダツとはオサラバできるから

…ま、いっか!

大地の事は本当に惜しいけど。

何をやっても何年も掛かっても、擦りもしなかったから諦めるしかないものね。

…はあ。

本当に、残念だわ。


なんて、今はその程度にしか考えていなかった。