…ドックン!…バクバクバク…


…な、何だったの!?

“さっきのアレ”

周りの人達は、どうして平然としてられたの?

あからさまに、“おかしな空間”があったじゃない!その空間に

変装したミキと、ミキとお揃いで素晴らしい一流コーデに身を包んでた陽毬。

そこに、何故か大樹令息や大地令息、白鳥嬢…他にも見た事のない男性が三人居て…

そこで、“とんでもない会話”をしてたわよね!?

どうやら、大樹令息と白鳥嬢が裏で身の毛がよだつような恐ろしい悪事に手を染めていて

その行為があまりに目に余ったから、二人に罰を与えられる権限を持つ方々が現れて二人の反省具合を見定めながら

二人に相応の“お仕置き”という名の罰を与えに来たみたいね。

大樹令息と白鳥嬢は、今さっき初めて見たけど……


噂で聞かされてた話とは随分違っていたようだわ。

二人の絵に描いたような優等生ぶりは、表向き二人の清楚で誠実そうな容姿にとても合っているから

みんなが騙されてもおかしくないわ。

私だって、今の話を聞かなければ二人は、噂通り容姿と共に中身まで素晴らしい方々だと信じて疑わなかったと思うわ。


これから、あの二人がどうなるか分からないけど…それよりもよ!!

最低最悪な人達は置いといて!


何なの!?

あの“チンチクリン”は!


…トクン…


あの悪い人達に、“友達だ”なんて騙されて都合良くいいように扱われてたというのに…

しかも、あの二人は全然気付いてなかったのに…あのチンチクリンは、二人の魂胆に気付きながらも一緒にいたわけ?

どうして?

意味が分からないわ。

きちんと、自分に対する二人の気持ちに気付いていながら側に居て、二人に傷付けられてばかりいて

…誰にも気付かれないように、身を潜め声を押し殺して泣いて苦しんでいたのよね?


…ズキ…


それでも、二人の側に居るって事は…二人にチンチクリンが断れないような何か卑劣な脅しでも掛けられてたのかしら?

そんな扱いを受けてたんですもの。
あの二人の事を憎んで恨んでもおかしくないはずなのに

あの二人が悪事を裁かれてる時、あのチンチクリンは必死になってあの二人を助けようとしていたわ。

それで、自分がどうなってしまうか。チンチクリンについての話を聞く限り、しっかり分かった上で行動したはずよ。
強い覚悟と信念を持って。


…トゥクン…


……え?

なに?何なの?この感覚…

あのチンチクリンの事を考える度に、胸が甘く締め付けられそうになる…

こんな感覚…初めてだわ…

どうしちゃったのかしら?私…


とても背が小さくて、真っ白な肌にふわふわの白金。短い眉に、糸目……ちょっと丸みのある小さな鼻と小さなお口。


…トクン…

…え?どうして?

平凡な容姿なのに…

背だって、とても低いのに…

その姿を思い浮かべるだけで


…きゅん!


かわいい…って、思っちゃうなんて!

なのに、誰よりも勇敢で漢らしくて
それでいて、とても優しくて温かな……ああ、あの小さな体で精いっぱいに私を抱き締めてほしい。

あの可愛らしいお口で…私の……ハッ!


私ったら!なんて、破廉恥な事を考えてたの!?


…ドキドキドキ!

あのチンチクリン…いいえ、ウダツって言ってたわよね?

ウダツさんの事を考える度に、胸が熱く張り裂けそうだわ!

体も奥の底から、何か…熱くてどうしよもない…ウダツさんに、どうにかしてほしい…ウダツさん…


と、思わず走ってしまっていた少女の後ろから


「こら!フジ、いきなりどうしたというのだ!止まりなさい。初の社交体験ができるとあんなに喜んでいたじゃないか?
一体、どうしたと言うんだい?」

フジをエスコートして会場入りしたフジの父親が、とても心配そうにフジを追いかけてきた。

その存在に気付き、フジは会場の外にある中庭でようやく止まった。

立ち止まったフジに、フジの父親はホッとしてフジの側へ向かった。

その間、フジは偶然ながら噴水の水に映る自分を見てショックを受けていた。

フジの父親が、青ざめる我が娘を見て心配になり


「…どうしたというんだい?私の可愛い娘よ。」

と、声を掛けると、いきなりフジは両手で自分の顔を隠し


「…こんな…こんな酷い姿、見せられないわ!」

と、泣いていた。

そんな愛娘に父親は酷く驚いていた。


「…どうして、そんな事を言うんだい?家で自分が納得いくまで熱心にオシャレをして(そのせいで時間に遅れた)、楽しそうに会場入りしたじゃないか?」

そう。今日は初めての社交界体験できる日で、この日を心待ちにしていたフジ。

だって、この世界一美しい自分様を社交の場でお披露目できるのだから。

そこで、みんなの注目の的になって、みーんな私の美貌に跪くのよ。


なんて、考えていたので

自分に似合うかつトレンドも外さない。誰もが目を見張る様な素晴らしいコーデを考えに考え

出発直前になって、更にいいコーデを思いつき着替えては

アレも違う、コレも違う!

などと、出発時間を大幅に過ぎても決まらず。ようやく、コーデが決まったかと思いきや、このコーデに今のメイクと髪型はあり得ない!

と、コーデに合わせたメイクと髪型も気に入るまで何回もやり直し

ようやく完成した頃には、だいぶ時間が過ぎていた。


だが、目に入れても痛くない程フジの事を猫可愛がりする両親やメイド達は、それでもフジを叱るどころか

自分が納得できるまで根を上げない。妥協しない根性のある子だと褒める始末であった。


フジは傲慢で我が儘ではあるが、自分の美貌や力・才能に溺れる事なく人知れずに並々ならぬ努力をしているのだ。

だが、世界一高い山よりもプライドの高いフジは、決して泣き言を言ったり自分の努力を人に見せる事はなかった。

どこかに隠れ、人知れずストイックにハードなメニューをこなす。

そのメニューだって、幅広く選り好みなどせず理に適ったものを選び最新情報も取り入れつつのハードメニューだ。

幼い頃のフジは、自分の努力を誰にもバレていないと思い隠れて練習に励んでいたが…実は、両親や屋敷のみんなにバレバレだった事に癇癪を起こしてから

誰も、フジの努力を見て見ぬフリをしていた。とても、もどかしいが。

本当は、こんなに頑張らなくていいんだ。フジは誰よりもいっぱいいっぱい努力して偉いよ!我が家の自慢だ。

と、いっぱいいっぱい褒めたいのだが。

最近など、人の気配など直ぐに察知できるようになってしまったし、何処に隠れて努力をしているのか見当も付かない程までに隠れるのが上手になってしまった。

…残念である。

ツンツンしてるが、態度もツンケンだし…

だけど、何気ない優しさを見せたり誰も気付けなかったメイドの不調にもいち早く気付き

口も態度も悪いが、そのメイドを助けた事もあるくらいに見てない様でしっかりみんなの事を見ている。

不器用な優しさと思いやりのある子だと認識している。

だから、フジの両親や屋敷で働く人達は、フジの事のとても高いプライドが邪魔して不器用な所も含めて常盤家の自慢なのだ。


「それなのに、急に一体何があったというんだい?誰かに、何か悪い事でも言われたのかな?…パパに話してもらえない?」

そんな自信に満ち溢れていた我が子が、自信を無くし泣いている。

これは只事ではないと、父親は娘を中庭にあるベンチへとエスコートして

フジを宥めながら、ゆっくりとフジの話を聞いた。


その内容はとんでもないもので、フジの父親は酷く驚いたが

赤ん坊の頃から、既に不思議な力ととんでもない魔力量を持っていたフジなので、信じがたい話ではあったが事実なのだろうとフジの話を信じた。

これは、他人事ながら酷くショックを受ける内容である。それを、まだ小学校6年生の少女が見聞きしてしまったのだ。

後から、腕のいいカウンターにフジの心のケアを頼まなければと思っていた時だった。


そのあと続く、フジの言葉に父親は固まってしまったのである。

何故なら、フジ本人はまだ気づいていないが…どうやら、ウダツという少年の事をフジは本気で好きになってしまったようなのだ。

今までは、“自分に見合う男性”という観点から、桔梗だの風雷、少し妥協してミキを自分の将来の夫前提の恋人にしたいと躍起になっていたのだが。


ここにきて、どうやらフジは
“本気の恋”“本当の恋”をしてしまったようだった。

だが、フジの人を見る目も確かな事は両親や屋敷の人達もよく知っている。

そんなフジが、容姿や勉強・運動、才能や能力などではなく。その人自身を好きになった。

かなりショックではあるが、人間的にとても良く出来た人なのだろう。

だって、常盤家自慢の我が子が選んだ男なのだから!

これは、何が何でも二人を応援するしかないと誓った父親であった。


しかし、聞けば聞くほど

フジの好きになった少年は、容姿も運動も勉強も全てにおいて残念らしい。
だけど、それでも諦めず必死に頑張り続けているような超のつく頑張り屋らしい。

彼の友達の話を聞いても、あまりにも彼が可哀想過ぎて。そして、彼があまりに心優し過ぎて。

何とも言えない気持ちで、父親はフジの話を聞きながらウダツという少年について考えていた。

同時に、執事に連絡し“ウダツ”という少年について調べてもらう事にした。

果たして、ウダツという少年はどういった生い立ちの人間なのかと。


全て話終わったフジは、スッキリした顔で満天の空を見上げ


「ウダツさんの心のように綺麗な空だわ。」

と、少しずつ何かを決心しているように見えた。それを黙って見ていた父親に


「あの人達のやり取りを見ていて、私も胸が痛む事や考える事がたくさんあったわ。…私も反省しなきゃいけない事まで見えてきちゃって…。」


と、何か思い詰めるようにションボリと肩を落とし、それから少しの沈黙の後。
また、フジは話し始めた。


「例えばだけど。これはとても良くない事よ?品行方正にしてみんなの模範的優等生を装えば、裏でどんな悪さをしてもバレさえしなければ周りの評価がとてもいい事。その逆も然りだわ。
いくら内面が良くても、あまり好ましい行動をしなければ周りに評価されないどころか悪評がついてしまう。」


と、今回見た事をキッカケに、今までフジが考る事もなかった周りの評価について考えるようになっていた。

「そこで考えたわ。周りの評価がいかに、恐ろしい事だという事を。
評価一つで自分どころか自分の友人や家族まで、生活が生きやすくも生きづらくなるなんて…今まで知ろうともしなかったわ。それをウダツさんは、よく知っているようだった。」


フジは、ウダツの人となりをかなり評価しているらしく、ウダツへの称賛が止まらない。


「…何故、ウダツさんは大きく視野を広げて物事を考えられるのか。本当に素晴らしい方だと感服したわ。……本当に、素敵。」


……ぽっ!

その時のウダツの事を思い出したのだろう。フジは頬を赤らめ恥ずかしさで両手で火照るほっぺを両手で押さえていた。


初めて見せる可愛らしい娘の姿に、ホッコリしつつ。自分達では引き出せない娘の可愛らしい仕草をいとも簡単にさせてしまうウダツにジェラシーだ。

だけど、自慢の娘の心の成長に父親は、感動で泣きそうになりながらも何とかグッと堪え

アプリ携帯で、フジをとても心配している妻にこの事をコッソリとメールしていた。

本当はフジの母親も追いかけて来たかったのだが、フジのあまりの足の速さに追いつけなかったのでフジの父親がフジの母親の代わりも託されたのである。

何か少しでも分かったら、あの子にバレないように小まめにメールして!
バレたりしたら、あの子のプライドに傷がついちゃう!

なんて、無理難題を課せられこうしているわけだが。


「…私は、ウダツさんに見合うような素敵な女性になりたい。
それには、周りの評価もとても大切だわ。評価も大切だけど、それ相応…それ以上に中身も磨かなきゃいけない。
表向きだけ良くたって、中身がそぐわなきゃ意味がないの。
私は、ただの張りぼてにはなりたくない。本物になるわ。
そしてウダツさんの隣に立っても恥ずかしくない人間になるって決めた!」


と、力強い眼差しで父親を見てきた。


「……それには、このコーデとメイクは相応しくないわ。ファッションやメイクでも、大きく評価が変わるもの。
だから、今回の社交会見学は見送りたいと思うわ。お父様達には本当に申し訳なく思うけど…社交界に入るにはまだ、私には早かったみたい。」

フジは、申し訳なさそうに父親に頭を下げた瞬間!フジの全身に強い衝撃が走り、フジは…ハッ!と夢か何かから目が覚めた気持ちになった。


「パパ達にとって、フジは自慢の娘だから一刻も早くみんなに見せびらかしたい気持ちでいっぱいだけど。
フジが、そう考えたならパパ達はフジの考えを尊重するよ。」

そう言って、優しくフジの頭を撫でた。そんな父親の優しさに、フジは心がじんわり込み上げてきてポタポタと涙が溢れ出してきた。


「…パパ!パパ、大好きよ!」

そして、嬉しさのあまり父親に抱きついた。滅多にない事が起き、パパ大感激である。


「それじゃ、ママと一緒に帰ろうか?」


「…うん。ありがと、パパ。」


フジは父親と腕を組み母親の元へ向かう途中、父親と色んな話をしながらも別の事を考えていた。


…ドクン、ドクン、ドクン…!


…驚いたわ。

もう、腰が抜けてしまうほどに。

…だって、私…“過去に戻ってる”んだもの!

今まで、少しの違和感こそ感じていたけど気にする程じゃなかった。

…だけど、社交界の場を見てから強い違和感というか、前にもこんな事があった気がして妙な感覚に陥っていたわ。

そして、“ウダツさん”の姿を見た瞬間に、雷に打たれたかのような強い衝撃が私を襲ってきてウダツさんばかり気になってた。

何か、胸に引っかかるような…

だけど、その正体が分からないままモヤモヤしてたけど。


ウダツさんに見合う様な素敵なレディーになるって、パパに誓った時…

つい、さっきだけど

“思い出した”わ!


本来の自分は、中学校一年生で陽毬ちゃんと一緒にモデルになる為に海外に留学していたという事。

そこで、ミキ君のセ◯レのアンジェラが、陽毬に嫉妬して……その後の事は思い出したくもない残酷な事件にまで発展してしまった。

もう、取り返しのつかない。


そこで、私の記憶が途絶えて…今、過去に戻っている。

と、いう事は…考えられる事は一つ。


ショウちゃんだわ!


私の推測でしかないけど

ショウちゃんが桔梗君にお願いして
“逆行”や“タイムスリップ”のような時間を巻き戻す魔道を使ったとしか考えられないわ。

…だけど、それは“禁断の術”。
いくら桔梗君でも、おいそれと簡単にできるものじゃない筈よ?

何か“大きな代償”がある筈。

術に失敗したら、魂ごと消滅してもおかしくないくらい危険な魔道だと認識しているわ。

…そもそも、そんな魔道なんて使おうと思っても使える人なんて、何処を探しても桔梗君くらいしかできないでしょうけど。

そんな桔梗でも、かなり危険を伴う術の筈。その事を踏まえても、そんなリスクを負ってまで桔梗君が陽毬の為に禁断の術を使うとは思えないわ。


…そこで、考えられるのは“ミキ君”が、キーとなってる気がする。

だって、絶対におかしいもの!


過去のミキ君と、今のミキ君の容姿が全くの別人になってるんだもの!中身は同じみたいだけど…でも、何かが違う。


多分、“あの悲劇を無くす”為に、過去に戻ってやり直すにあたって

あの桔梗君の事だから、かなりの対策を練っていたに違いないわ。

例えば、それ相違のリスクをグレーゾーンなやり方で免れて、自分とショウちゃんだけには何ら害のないやり方を見つけ出すとか…桔梗君ならやりかねないわ。

ショウちゃんの為なら、天使にも大魔王にでもなれる人だもの。


そう考えると、辻褄が合ってくるわ。

大きく変わったのは、やっぱりミキ君で姿形や能力だけではなく

生い立ちも変わってる。

過去では、確か…大樹令息の使用人だったはずよね?

大樹令息とそっくりな容姿だった事を考えれば、おそらくだけど不義の子で家では不当な酷い扱いを受けていた可能性も高いわ。

…それを考えると居た堪れない気持ちになるけど。


それが、“今では”宝来家の家族として雷鳴家の長男として生まれてる。

ショウちゃんの家庭は不思議なところで、ショウちゃんには血の繋がらない家族が大勢いるわ。

ショウちゃんの家の敷地内に、それぞれの家族や独身の人達も住んでいて使用人やメイドではなく“ショウちゃんの家族”と、いうのだから…う〜ん…?

それに、使用人やメイド達は家族ではないらしくそれぞれしっかりと働いている。

ミキ君の名前も

雷鳴・宝来・ミキって、二つの名字を持っているわ。

どうやら、ショウちゃんが“家族”と言ってる人達には“宝来”という、もう一つの名字が与えられるみたいね。

桔梗君も

久遠・宝来・桔梗

だものね。


そう。そこなのよ!

ミキ君のスタート時点が、全くもって違うの!

そのせいか、大筋は過去と変わってないけど、だいぶ変わった所も少なくない。

だけど、とてもいい方向に向かっているからいいのだけど。


ミキ君も逆行前のミキ君を知る私からすると、別人じゃないかってくらいに変わったわ。とても、いい意味で。

きっと、これがミキ君の本来の姿なんだわ。外見も中身も含めて。

おそらく…本当に、想像でしかものを言えないけど。

逆行前のミキ君の生い立ちがあまりに壮絶過ぎて…人格も倫理観も全て歪められてしまっていたのかもしれない。

だけど、今回どうして生まれる場所や家族が変わったのかは分からないけど。

もしかしたら、本来ミキ君が生まれるべき場所に戻っただけなのかもしれない。

下手したら逆行前のミキ君は、何かの手違いで生まれるべき場所と違う場所に生まれてしまったのかもしれないわ。

それが正される事で、本来の道筋に戻っただけなのかもしれない!


そうでもなければ、いくら桔梗君だってショウちゃんのお願いでも陽毬ちゃんを助けるような人じゃないわ。

桔梗君なら、いくらでもショウちゃんを言い包める事ができそうだもの。


…これは、あくまでそうであってほしいと願う私の願望だけれど。

だけど、本来の姿を取り戻したミキ君は……あら!?陽毬ちゃんとミキ君は、幼稚園の頃から恋人なのよね!

ミキ君の一目惚れで、とにかく陽毬ちゃんに猛アタックしてたわ。

……恋人、羨ましいわ。

今のミキ君なら、陽毬ちゃんを本当の意味で大切にできる素敵な彼氏だわ。

…良かった、本当に良かった!

おめでとう、陽毬ちゃん。

これからは、ひたすらに幸せになるだけよ?…陽毬ちゃんのあの厄介な家族も、ミキ君と一緒なら何とか乗り越えられるはず。

それに、私もできる限り陽毬ちゃんを助けたいと考えているわ。


…今の私達の関係は…最悪かもしれないけど。記憶が蘇った私にとっては、陽毬ちゃんはかけがえの無い親友でありいいライバルなんですもの。

まず、陽毬ちゃんと仲良くなってダイエットさせましょ!陽毬ちゃんのあの美貌とモデルとしての才能を埋もれさせたら勿体無いわ。


と、陽毬の事を考え心の底から
どんな理由があってか分からないけど、過去に戻してくれてありがとうございます。フジは、過去に戻してくれた人物に心の中で何度も何度も感謝した。


そして、次に思うのは

もちろん



…ちくん…


…ハア…

逆行前は、色々あったけど苦労の末、ようやくウダツさんと両思いになって恋人になれたというのにな。

…そして、ウダツさんとのラブラブな日々。

本当に、素敵なウダツさん…あ、ウダツさんの事を考えてたらムラムラしてきちゃったわ。

…早く、ウダツさんに会いたい!



…だけど、今の私達は恋人どころか知り合ってもないのよね。

そう考えると、どんよりフジの心は沈んでいく一方であったが


ある事を思い出し、フジの心は急上昇していった。


……ハッ!


そういえば、今日見た大樹令息と白鳥嬢の断罪の時言ってたわ。
 
ウダツさんは、白鳥嬢の事を幼なじみであり友達だって。恋愛対象として見てはいないって!

これも、逆行前とは全然違う!
私にとって、とても嬉しい誤算だったわ。

その話の内容を聞いた時、嬉しさのあまり歓喜の声を上げそうになってしまったわ。それを抑えた自分を褒めたいくらいよ!


それに、こんな傲慢で我が儘。しかも、自分の素材を壊すメイクにファッション…こんな姿、ウダツさんに見せられるはずなんてないわ。


これは、チャンスかもしれないわ!

逆行前を知る私は、その時の教養や作法もきちんと覚えている。
今からそれをしっかり体に叩き込んで、ウダツさんの隣に立てるくらい素敵なレディーを目指すわ!


次よ!次の社交界体験の時が勝負の時よ!

それまでに、私のせいで迷惑をかけていた方々に誠心誠意謝罪して、自分磨きを頑張るわ。


…でも、やっぱり会いたい…


ドクン、ドクン…


「…好き、本当に大好きなの…ウダツさん…」


溢れる気持ちが、ポロリとフジの口から漏れ出し

それを聞いた父親は複雑な思いをしながらも、そこまでウダツ君の事を本気で考えているのか。と、フジを応援したい気持ちが強くなった。

家に帰ると、フジとフジママの恋バナで花が咲き…フジパパはというと

男親として愛娘の恋愛話を聞くのは少々複雑で居た堪れなく思わず書斎に逃げてしまったという。…ちょっぴり泣いた。


そして、ウダツの調査資料が届きそれを読んで大泣きした。


…酷い環境で育ち、幼い頃に異国(我が国)へと捨てられたというのか?

こんな極悪非道な親が存在するなんて…!資料を見ているだけで、胸糞が悪くて仕方ない!!最低最悪な気分だ。

だけど、我が国に捨てられたが

鷹司家の大地君と出会い、その家族に拾われ家族同然に育ててもらってるんだね。

…そこは、良かったけど。

何故、鷹司家ではウダツ君の事をここまで面倒を見ていて

我が子同然に愛情を持ってウダツ君を育てているのに養子にしないんだ?

…何か事情がありそうだけど。
優秀な調査員を持ってしてでも、そこまでは調べきれなかったか。

…何か引っ掛かるな。


それもそうだけど!

なに、これ!?

鷹司家の大樹君と、白鳥 真白嬢…最悪が過ぎる!

…表と裏が激し過ぎるじゃないか!

しかも、ウダツ君に対する扱いがあまりにひど過ぎる。

…それなのに、ウダツ君…君は…!


と、調査結果を読み終えたフジパパは、ウダツを思い強く心が痛み泣いてしまった。


…ウダツ君、是非とも君は我が家で大切にしてあげたい!

幸せになってもらいたい!


そう密かに心に誓い


この調査結果を、妻にも教えた結果。


「……なんて、強い子なのかしら!
どうして、こんな酷い中にいてこうも自分を貫けるの?
フジちゃん!こんな素敵な男の子、何処を探したって見つからないわよ。絶対に彼のハートを射止めないとだわ。
ママ、全力でフジちゃんの恋応援するわ!そして、是非とも常盤家のお婿さんとして我が家に来てほしいわ。」

と、大号泣してフジの恋を全力で応援しようと心に誓うのだった。


「ありがとう!パパ、ママ。大好きよ!」


こうして、ウダツの知らぬ間に勝手に常盤家の婿養子の準備が着々と猛スピードで進むのであった。

だが、寛大な常盤家でもある問題も抱えており…


「…ハア。だけど、紅玉(こうぎょく)がウダツ君に意地悪しなきゃいいんだけど…。」

と、フジママは、ハッと思い出したかの様に紅玉の存在を思い出し一気にテンションが下がった。

「あの子の好き嫌いはハッキリしているからね。美しいものには人でも物でも受け入れるけど、それ以外の人達には当たりが強いから…時間をかけてウダツ君に慣れてもらうしかないかな?」

フジパパは、うーんと考える素振りをして苦笑いしていた。