だが、この話についていけてない真白は抗った。
「意味が分からないわ!例え、その話が事実であっても、“ショウ”だか“あの方”だか分からない人達に罰せられなければならないの?
私は何も悪い事なんてしてないのに!」
そう言った真白を、汚物でも見るかのように大樹は距離をとり
「……俺の事は、どうとでもして下さい。…それだけの事をしたという自覚はあります。だけど、俺の家族や周りの人達を巻き込むのだけは許してもらえないでしょうか?」
震える声で、豪乱とシープにお願いをして深々と頭を下げると
そこに、ウダツも加わり
「大樹君や真白さんの話が事実であっても、二人はまだまだ年齢的にも精神的にも未熟で幼く成長途中でヤス。
豪乱君とシープ君が二人の事を話した事で、二人に罪悪感が芽生えたというなら今後二人の心は大きく成長できる希望がある証拠でヤス!」
ウダツは豪乱とシープの前に行きガバッと頭を下げて、自分の身の危険も顧みず幼なじみの友達を助けようとしている。
その姿に大樹は思わず、ギュッと胸が締め付けられるくらい苦しい気持ちになり
そこで、ようやく
自分はなんて愚かな事をしていたのだろう。上の人に自分の悪事を言われ、自分どころか自分の周りにまで影響が及ぶなんて、実際に体験するまで他人事のように感じていた。
実際に、自分がその対象になった時の絶望感といったらない。
今後、家族や親戚達を巻き込んで……
最終的には一家心中となりかねない事態にまで発展しているのだ。
悪い遊びをしていた時は調子に乗っていた事もあり、そんな事までは考えられなかった。
自分達のたかだか悪い遊びが、まさかこんな……。
自分達が悪い遊びをしている時は、都合が悪くなると現実逃避やどうにかなるだろと軽く考えていたので大した事をしてない軽い気持ちだったのだが
人から自分達の悪い行いを言葉にされ、ハッキリと伝えられると自分達がどれほど恐ろしく残酷で愚かな事をしてきたのかむざむざと胸に突き刺さるものがあった。
自分でも、ここまでヤバイ事だとは人から指摘されるまで気付けなかった。
そこで一気に、罪悪感でどうにかなってしまいそうになった大樹だ。
そこで頭に浮かんだのは、やはり自分の家族で…両親や兄弟…一番下の兄弟なんて、まだ幼い幼稚園の妹までいる。
…どうしよう…!
…なのに、軽い気持ちで悪い遊びをしていたしっぺ返しが大樹どころか
大樹の事を良い子だと信じてくれていた家族を裏切り、更には自分の悪い遊びのせいで家族まで巻き込む事態となるのだ。
どうしようもない所まで来て
大樹はどうしようと泣き叫びたい気持ちを何とか抑え、パニックになる頭と戦っていた時に
自分達を守ろうと前に出てきたウダツに驚きを隠せなかった。
「どうか、今後心身ともに成長していくであろう二人の未来を見据えて、せめてもっと穏便にする事はできないでヤスか?
お願いします。どうか、心身共にまだまだ未熟で幼い二人に御慈悲をもらえないでしょうか?」
…ズキ…!
…どうして?
俺はウダツの事をいい奴だしいい友達だとは思ってたけど、…心の何処かでウダツの事を底辺の可哀想な奴だと見下してた部分も大きくあった。
正直、馬鹿だと思う。
勉強や特に運動が大の苦手、様々な分野でも不器用で。
だけど、諦めずに懸命に頑張る姿に……どんなに頑張ったって無駄だろ。
なのに、どうしてそこまで諦めず頑張れるんだろう?と、呆れていた。
こんなにも頑張っても報われない奴もいるのだと勉強にはなったが。
何より馬鹿だと感じたのは
俺にとってのウダツは、都合の良い自分をよく見せる為の道具だと言う事。
ウダツの様な何の才にも恵まれない。勉強や運動はできない。魔道すらからっきし。そんな底辺と仲良くしてやるだけで、周りの俺への評価が面白いくらいぬ急上昇していく。
自分が都合の良い道具にされてるとは知らず、いつもニコニコと一緒にいるウダツ。ウダツがいい奴過ぎるから都合が良すぎて、ずっと自分のいい道具として側に置いてやっている。
真白と三人一緒に居てウダツだけ除け者にされても。
三人で遊ぼうと約束して、真白がウダツに間違った情報を与え事実上約束をすっぽかしても。
社交界でいつも真白のパートナーとして俺がエスコートして、その後ろを距離を取ったウダツが付いてくる様お願いしても。
それでも、ウダツは何一つ怒る事なくニコニコと笑顔で俺達を許してくれた。
…今考えても、本当に馬鹿としか言いようがない。
今だってウダツは、自分の身が危険に晒されるかもしれないというのに、幼なじみの友達を守ろうと必死になっている。
…馬鹿過ぎて…心が痛い…
そんなウダツに
「ウダツが、あの二人の為に必要ないだろ!俺、知ってるんだぜ?
あの二人のいい道具として酷い扱いを受けて、毎日のように傷付いては誰にも気付かれないように声を押し殺して泣いてた事を!」
そう言ってきた大地に、大樹と真白は信じられないとばかりに驚いた表情をしてウダツを凝視した。
…だって!
ウダツは、自分達にいい様に使われてるなんて知りもしない馬鹿で“幼なじみで友達”と、言えばとても喜んでいた単純な奴だ。
まさか、大樹や真白にいい道具として扱われてると知っていたなんて…。
呼べば嫌な顔一つせず、ニコニコと嬉しそうにしていたのに?
大樹と真白は表向きではウダツのいい友達を演じ、心の中ではウダツは酷い扱いをされてる自覚がない馬鹿だと嘲笑いぞんざいに扱っていた。
なのに、ウダツはその事をしっかりと把握しているにも関わらず、大樹や真白にはニコニコ笑顔で楽しそうに優しく振る舞っていただなんて。
…その度に傷付いては、誰にも気付かれないように泣いていただなんて…
…知らなかった…。
そこで、今まで似たような考えを持っていた大樹と真白の心が二つに分かれた。
それは…
大樹は、そんなウダツに強く心を打たれ今まで何て愚かな事をしていたんだと猛省し、ウダツに顔向けできないくらいの罪悪感に苛まれた。
真白は、そんなウダツをだから何?私達の様な超ハイスペックと一緒に居られるだけで嬉しいでしょ?
なのに、男のくせに少しの事でくよくよして泣いてた?超底辺男のくせに、気持ち悪過ぎるわ。
で、何?自分は悲劇のヒーローにでもなってるつもりなの?
そんな自分に酔いしれて気分でも良くしてたのかしら?
キモ男過ぎて吐き気がしそう。と、ウダツに嫌悪した。
「だけど、下手に手を差し伸べれば更にウダツの心を苦しめるだけだと思って、今の今までお前が俺達に相談してくれるまで待ってた。」
「…大地君…」
大地の思ってもなかった心の内を知り、なんて優しくも力強い親友に恵まれているんだとウダツは、とてもとても大地に出会い親友見なれた事を心の底から感謝した。
「だけど、辛抱強く耐えて溜め込む癖のあるウダツを舐めてたな。
こんな状況になっても、大樹と白鳥嬢の事を助けようとするくらいだ。…もっと早くに無理矢理にでもウダツを問い詰めて、ソイツらからウダツを引き剥がせば良かったゼ!」
と、悔いる大地は話を続ける。
「正直、ソイツらから受けたウダツの今まで付けられた傷を考えれば、ソイツらの人道に反した愚かな悪事を知れば尚更だ。それだけの事をお前達はしたんだ。
今さら何を言ったって無駄だとしか思えないゼ?」
大樹と真白に、そう訴える大地。
静かにウダツや大地、大樹、真白のやり取りや様子を見ていた豪乱とシープだったが
「……うっわ!大地の話を聞いて、ウダツ様に対する考え方がこうも分かれるなんてな!白鳥嬢、えげつないくらい性格悪過ぎてビックリするな。
…マジかぁ〜、容姿や雰囲気とはそぐわない真逆なクズな性格してんなぁ。」
急に豪乱はドン引きした表情で真白を見て、そんな事を言ってきたのでみんな驚き豪乱に注目が集まった。
そして、自分ばかり悪者にされてるようで納得のいかない真白は
「先程から、一体何なんですか?そんなに私や大樹を悪者にしたいのですか?
私や大樹が周りの皆様からの信頼を大きく得ているからといって嫉妬もいい所です。さすがの私も怒りを覚えてしまいます。」
表情こそ冷静に無表情を決め込んでいるが、怒りを露わにした言葉を言い放った。
その問いに答えたのはシープで
「うちの賢い娘(ショウ)がな。二人を極限まで追い込む事で、二人の根っこの部分が見えてくると思う。
その心や反省次第で“悪状況のまま放置”するか、“救済の試練”を与えるか決めてほしいと頼まれたんだよね。」
と、答えになってない言葉を返してきた。
“うちの娘”とか、救済だとか意味の分からない事ばかり言って!
この人達は、一体何がしたいの?
ふざけ過ぎてるわ!
と、更に真白の火に油を注ぐ事になってしまっている。
そこに、ついにその答えが判明してくる。
「…ああ。“まるで、自分の脳内を覗かれてる気分”で、気持ち悪いだろ?」
ニヤリとムカつくような笑みを浮かべ、大樹達を見る豪乱。
その言葉に、大樹と真白はドキリとした。豪乱とシープが現れてから、まるで自分達の心の中を覗かれてるような気味の悪い感覚になっていたから。
「それもそのはずだ。僕と豪乱は、大樹と白鳥嬢の悪事に対して“お仕置き”を任されてきたんだから。判断を間違えられない責任重大な事を任された。
だから、今まで二人の反省具合と将来性を見極めていた。この“人の心が読める魔具”でな。」
シープが、自分のピアスを指差した。
思わず豪乱の耳たぶにも注目したが、シープと同じ物は身に付けてないどころかピアスなんてしていない。
「そんな都合の良い“魔具”なんて見た事も聞いた事もないわ。そもそも、どんな低能な“魔具”であっても、魔具はあまりに貴重かつ高価過ぎてそうそう目にする事なんてないはずだわ。」
してやったりと真白は、少しドヤ顔で指摘してきたのだが。
「…白鳥嬢は察しが悪いのか?
その“魔具”を作ったのは僕だし、魔具だってバレたら元も子もないから同じデザインにする訳ないよね。
“希少でなかなか手に入らない魔具なら尚更”。」
結局、豪乱が装備している“魔具”がどれか種明かしはしてくれなかったが
「…う、嘘よ!貴方の様な私達と年齢も違わない人が、そんなとんでもない魔具を作れる訳がないわ。」
確かに、真白の言う事は間違ってはないのかもしれないが…
「…あ〜、残念だったな。世の中にゃ、“規格外や別格、次元が違う”って言葉が存在してる通り。ここに居るシープはそれに当てはまる超天才なんだわ。
シープは魔道のスペシャリストであり、魔具開発の天才でもある“魔具最高責任職”に就いてる、魔具界のトップだ。」
と、説明された真白は、まだ信じられないようで色々と言っていたがキリがないので
「…もう、いい加減ウザいよ、君。」
冷たく言い放ったシープは、詠唱無しに即真白に口封じの魔道を掛け、真白を黙らせ身動きできないように金縛りも掛けた。
まさかの詠唱無し、即魔道にみんな驚きを隠せずシープを見たが
別に大した事してないとばかりに素知らぬ顔をしていた。
「…あ、そっか!“コイツら”といると、魔道を使うのに“詠唱”を唱えなきゃいけないって事忘れがちになってしまうな。
コイツらレベルの魔道士は、詠唱無しどころか考えた瞬間に即魔道を発動させられるとんでもない魔道士達だ。」
なんて、豪乱が苦笑いしながら説明してきた事で、シープの規格外の力や能力を認めざる得なくなった。
と、言う事は必然的にシープが“魔具最高責任者”だという事も事実なのだと突きつけられる。
そうなれば、“心が読める魔具”も存在しまさにそれを使われて、豪乱とシープにはみんなの心がバレバレだったという事となる。
そうと知れば
ミキや陽毬、ウダツや大地はカァ〜っと急に恥ずかしくなって真っ赤になり
大樹と真白はお先真っ暗状態で顔面蒼白になっていた。
真白は混乱している。
何故、そんな雲の上な存在のお偉い様がわざわざここまで足を運んで、自分と大樹を裁こうとしているのか。
そして、そのお偉い様とタメ口を聞いている少年もまた、お偉い様なのだろうと想像ができてしまった。
何故、自分達がそんなお偉い様達に目を付けられてしまったのか…運が悪すぎる。
と、真白は泣きたい気持ちだったが…シープの術で涙さえも出させてはもらえなかった。
その内に、豪乱とシープは互いに頷き
「決定だな。」
そう、豪乱は言った。
そして、豪乱は大樹と真白に向かいこう言い放った。
「白鳥嬢はどうあがいても、悪事を改心する兆しも将来性も何も感じない。
それどころか、このまま放置しては危険な人物と判断した。よって、救済はなくこのまま放置する事とする。」
…え!?
何?どういう事?
救済とか放置とか…本当に意味が分からない!
と、真白はパニックになっていた。
「大樹は……とんでもない悪事をして許されない所まできてるのにさ。
俺は大樹がどんなに後悔しようと、猛省しようと地獄を見ればいいと思ってるんだけどさ〜。
ショウちゃんが、大樹くんの心次第で“本当の意味で、被害者の人達の気持ちが分かるお仕置き”したら、許してあげよ?って、言うから…宝来家の家族として…許さなきゃなんないのが悔しい。」
太郎(ミキ)は、大樹に対し強い恨みを持っているらしく
大樹への罰は、軽すぎると憎しみきった表情を浮かべ大樹を睨んでいた。
自分と太郎(ミキ)は、今日が初対面だというのに何故、こんなにも自分は彼に憎まれなければならないんだと…色々と記憶を辿っても繋がりが見えてこず
太郎(ミキ)の恋人である陽毬を虐めのターゲットにしようとしたにしても
まだ虐めてもなく未遂に終わっているというのに、ここまでも恐ろしい程の憎悪を込められ睨まれるなんて…よっぽどの事がなければ、こんな風にはならない筈だ。
下手をしたら、大樹自身が忘れているだけで大樹の悪い遊びの被害者の家族か友人…或いは本人なのかも知れない。
ここまで憎まれ恨みを持たれるなんて…
自分はどれだけ人に恨まれる様な恐ろしい遊びをしていたのかと、今さらに…背筋が…ゾッと凍り付く思いがした。
「ま、時間にすれば一瞬。大樹にしてみれば、何年の月日が流れるか大樹の悪事次第だけど。
“大樹が悪い遊びで被害に遭った人達や、その家族の体験ができる魔具(使用する前にセットがとても難しいプロ向き)”と、内容が複雑なだけに
残念だがこの魔具だけじゃ補えない部分もあるから“僕の幻術”も一緒に使って
“お仕置き開始”する。
僕はこう見えて、とても忙しい身だから大樹の有無は聞かない。心の準備もさせない。始める。」
と、シープが言った瞬間。
大樹は急な眠気襲ってきて抗う事するできず自分の意思に反して考える間もなく一瞬で眠ってしまった。
それをシープは大樹が倒れそうになる床に異空間へ通じる穴を開けそこへ大樹を落とした。
急に消えた大樹に、みんな驚くも
「大丈夫だ。僕の作った異空間に大樹を送り込んだだけだから。
この場所で大樹が眠って急に倒れたりしたら、それこそ大騒ぎになるだろ?
あと、大樹が“お仕置き”されてる間だけは、周りの人達の記憶から大樹という存在を消してあるから安心していいよ。」
なんて言うシープに、そんな事までできるのかという驚きしかなかった。夢でも見てるかの様な気持ちだ。
現実に起きてる事とは思えない。
大樹くんは大丈夫なんでヤスか!?と、心配のあまりウダツが声を出そうとした時には、いつの間にか大樹の姿があり
呆然自失状態でカタカタと全身を震わせ一点を見つめ動けなくなっていた。
「どうやら、“お仕置き”は終わったみたいだね。自分がどれだけの事をしたか、幻術ではあるけど“擬似体験”したから…大樹の様子を見る限り相当なまでに恐ろしくも酷い遊びをしてたみたいだ。」
と、戻って来た大樹の様子を見てシープは淡々と言葉を残すと
「これで僕の頼まれごとは終わったから帰るよ。」
大樹の哀れな姿を見て、フンと鼻を鳴らしシープは消えてしまった。恐らく、超高等特殊魔道ワープ(瞬間移動)でも使ったのだろう。
ここまで来れば、シープがワープを使えても何ら不思議ではない。
「…アイツ!俺を置いて行きやがったな!!一緒に来たんだから、帰りもワープで送ってくれたってよくね?」
と、豪乱はプンプン怒りながらミキに同意を得ようとするも、放心状態の大樹を睨み続けるばかりで豪乱の声など届いていないようだった。
そこで、豪乱は一つため息をつくと
…バシッ!
と、力いっぱいに、ミキの肩を叩いてハッと正気を取り戻したミキに言った。
「ショウ様の希望でな。大樹の屋敷に居る“大樹と同い年の使用人”を、“大樹の影”として育ててるみたいでな。
ソイツの扱いが酷いのなんのって!
なのに、その事実は大樹には伏せられて大樹はその事を一切知らないまま、ぬくぬくと育ってやんの。
だから、“その事実も教える為”に、大樹の影の生い立ちも“擬似体験”させてあげてってさ。」
そう言ってきた豪乱に、目が飛び出るかと思うくらいにミキは目を大きく見開き
「……え?それじゃあ、今の大樹は悪い遊びの被害者や家族達の他に、大樹の影の擬似体験までさせてたの?」
驚いた風に豪乱に訊ねると
「…いんや?その他に“あの方”の希望もあって、大樹や白鳥嬢がウダツに対して行ってた最低な行為も擬似体験させた。」
自業自得とはいえ、これはやり過ぎなんじゃないのか?
完全に精神崩壊しなきゃいいけどな…今の状態を見ても相当ヤバそうだな。
など、豪乱はぶつぶつ言っていたが
「どんな屈強な心の持ち主だろうと、ここまでされちゃ精神崩壊して精神異常者になる可能性も危惧してる。
だから、この後直ぐに強制的に大樹は、世界一との呼び声高い心療内科でありカウンセラーの先生の所へ強制的に送られる予定だ。」
そう説明した後
「そこで過去の自分と向き合って、前を向いて生きてもらいたいもんだな。」
と、豪乱は苦笑いして見せた。
「…って、事で俺はそろそろ帰るけど、み…太郎はどうする?」
豪乱が、ミキに声を掛けると
「せっかく、社交界に行くオレとひーちゃんの為に張り切って両親が用意してくれた王族服とかひーちゃんのドレスとか無駄にしたくないじゃん?
だから、残り時間名一杯に陽毬と社交界を楽しんでから帰るよ。」
なんて、陽毬の顔に自分の顔をピッタリ合わせてピースして元気いっぱいの笑顔を見せた。
「…チェッ!ラブラブな恋人がいて羨ましいな、クソ!俺も可愛い彼女がほしいぜ!なんで、俺には彼女ができないんだぁ〜〜〜っっっ!!!?」
豪乱は、少し発狂気味にそう訴えると
「…あ〜、豪乱君の場合はさぁ。豪乱君、美人に激弱で惚れっぽいわりに、冷静に相手の粗も直ぐに見つけちゃうからねぇ〜。
そこは、人を見る目があるなって思うけど。あまりにも理想が高過ぎるんだよねぇ〜。
それに、超がつく美人にしか目が向かないじゃん。それ以外の女の子達は圏外みたいな?」
なんて、キャラキャラ笑いながら指摘してくるミキの様子に
豪乱はミキもどうなるかと思ったが、どうにか気持ちに整理がついたみたいだ。
つきものが落ちて、スッキリした顔してるな。大樹には悪いが、ショウ様が
“大樹くんの影さんの擬似体験もさせて?それが終わったら、ミキくんにその事をしっかり伝えてね?絶対の絶対だよ?忘れちゃたら、怒っちゃうんだからね!”
なんて強く念を押して言ってきたから、何で鷹司家の大樹の影の話が出るんだ?って、思ってたが…
理由は知らないけど、それがミキの心を蝕んでいたとしたら
恐らく、ショウ様はミキの心を救う為に敢えて頼んできたんだろうな。
そう考えながら、豪乱はハッと何かを思い出し
「いっけね!言い忘れてたわ。
実は俺達のこの会話は、周りに聞こえない仕組みになってる。
シープの幻術で、周りには年の近いみんなで年齢相応の下らない話で盛り上がって楽しくお喋りしてるようにしか見えてない。」
と、ネタバラシされた所で、みんな心の底から良かったと安堵した。
「…よ、良かった…」
真白は、一気に流れてくる安心感から緊張の糸が切れ、腰が抜け床にペタリと座り込んでしまった。
豪乱は安心しきった真白を見て、少し溜め息混じりに
「…ま、だけど。この通り、ここに居るみんなの記憶に残るけどな?
だから、ここに居るみんなとは、これから関係性が大きく変わるだろうな。」
と、釘を刺した所で、真白はハッと気が付き私達は大丈夫よね?と、思わず大樹を見上げた。
だが、大樹は真白に構ってられる程の余裕は無く、思い詰めたように下を俯き何かをブツブツと言い続け涙を流していた。
…あの一瞬のうちに大樹は何をされたのだろう?恐ろしくて聞けない。
もし、今自分が大樹に声を掛ければ、自分も大樹の二の舞になると考えたからだ。
次に助けを求めたのは大地で
大地を見上げると、ウダツと二人で心配そうに大樹に寄り添い何か声を掛けていた。
ウダツは、大地と一緒に必死になって大樹に声を掛けているので当てにならなそうだ。…こんな大事な時に役に立たない道具だと、真白はウダツに対し小さく舌打ちをした。
その様子に、心が読める魔具を装備している豪乱はまたもや真白にドン引きだ。気を取り直し
「…あと、自分達を覗き見ていた
“ド派手でケバケバだけど、とんでもない美人”な?
あの令嬢…桔梗や風雷も言ってたけど、相当なまでに強いな。
…まさか、シープの幻術の中を覗けるなんて桔梗や風雷以外見た事がないぞ?
一体、何者なんだ?」
と、ミキや陽毬に聞くも、この中では豪乱とミキくらいしかそのド派手なケバケバ美人の存在に気がつかずいた。
ミキは「…ナハハ…。まさかのタイミングで来ちゃうんだねぇ〜。
でも、やっぱ認めたくないけど強いよねぇ〜。ムカつくけど凄いんだよなぁ〜。なぁ〜んか、嫌だなぁ〜。」
自分達の一部始終を見て何故かここから走り去って行った少女の後ろ姿を見て、ミキは苦笑いしていた。
「意味が分からないわ!例え、その話が事実であっても、“ショウ”だか“あの方”だか分からない人達に罰せられなければならないの?
私は何も悪い事なんてしてないのに!」
そう言った真白を、汚物でも見るかのように大樹は距離をとり
「……俺の事は、どうとでもして下さい。…それだけの事をしたという自覚はあります。だけど、俺の家族や周りの人達を巻き込むのだけは許してもらえないでしょうか?」
震える声で、豪乱とシープにお願いをして深々と頭を下げると
そこに、ウダツも加わり
「大樹君や真白さんの話が事実であっても、二人はまだまだ年齢的にも精神的にも未熟で幼く成長途中でヤス。
豪乱君とシープ君が二人の事を話した事で、二人に罪悪感が芽生えたというなら今後二人の心は大きく成長できる希望がある証拠でヤス!」
ウダツは豪乱とシープの前に行きガバッと頭を下げて、自分の身の危険も顧みず幼なじみの友達を助けようとしている。
その姿に大樹は思わず、ギュッと胸が締め付けられるくらい苦しい気持ちになり
そこで、ようやく
自分はなんて愚かな事をしていたのだろう。上の人に自分の悪事を言われ、自分どころか自分の周りにまで影響が及ぶなんて、実際に体験するまで他人事のように感じていた。
実際に、自分がその対象になった時の絶望感といったらない。
今後、家族や親戚達を巻き込んで……
最終的には一家心中となりかねない事態にまで発展しているのだ。
悪い遊びをしていた時は調子に乗っていた事もあり、そんな事までは考えられなかった。
自分達のたかだか悪い遊びが、まさかこんな……。
自分達が悪い遊びをしている時は、都合が悪くなると現実逃避やどうにかなるだろと軽く考えていたので大した事をしてない軽い気持ちだったのだが
人から自分達の悪い行いを言葉にされ、ハッキリと伝えられると自分達がどれほど恐ろしく残酷で愚かな事をしてきたのかむざむざと胸に突き刺さるものがあった。
自分でも、ここまでヤバイ事だとは人から指摘されるまで気付けなかった。
そこで一気に、罪悪感でどうにかなってしまいそうになった大樹だ。
そこで頭に浮かんだのは、やはり自分の家族で…両親や兄弟…一番下の兄弟なんて、まだ幼い幼稚園の妹までいる。
…どうしよう…!
…なのに、軽い気持ちで悪い遊びをしていたしっぺ返しが大樹どころか
大樹の事を良い子だと信じてくれていた家族を裏切り、更には自分の悪い遊びのせいで家族まで巻き込む事態となるのだ。
どうしようもない所まで来て
大樹はどうしようと泣き叫びたい気持ちを何とか抑え、パニックになる頭と戦っていた時に
自分達を守ろうと前に出てきたウダツに驚きを隠せなかった。
「どうか、今後心身ともに成長していくであろう二人の未来を見据えて、せめてもっと穏便にする事はできないでヤスか?
お願いします。どうか、心身共にまだまだ未熟で幼い二人に御慈悲をもらえないでしょうか?」
…ズキ…!
…どうして?
俺はウダツの事をいい奴だしいい友達だとは思ってたけど、…心の何処かでウダツの事を底辺の可哀想な奴だと見下してた部分も大きくあった。
正直、馬鹿だと思う。
勉強や特に運動が大の苦手、様々な分野でも不器用で。
だけど、諦めずに懸命に頑張る姿に……どんなに頑張ったって無駄だろ。
なのに、どうしてそこまで諦めず頑張れるんだろう?と、呆れていた。
こんなにも頑張っても報われない奴もいるのだと勉強にはなったが。
何より馬鹿だと感じたのは
俺にとってのウダツは、都合の良い自分をよく見せる為の道具だと言う事。
ウダツの様な何の才にも恵まれない。勉強や運動はできない。魔道すらからっきし。そんな底辺と仲良くしてやるだけで、周りの俺への評価が面白いくらいぬ急上昇していく。
自分が都合の良い道具にされてるとは知らず、いつもニコニコと一緒にいるウダツ。ウダツがいい奴過ぎるから都合が良すぎて、ずっと自分のいい道具として側に置いてやっている。
真白と三人一緒に居てウダツだけ除け者にされても。
三人で遊ぼうと約束して、真白がウダツに間違った情報を与え事実上約束をすっぽかしても。
社交界でいつも真白のパートナーとして俺がエスコートして、その後ろを距離を取ったウダツが付いてくる様お願いしても。
それでも、ウダツは何一つ怒る事なくニコニコと笑顔で俺達を許してくれた。
…今考えても、本当に馬鹿としか言いようがない。
今だってウダツは、自分の身が危険に晒されるかもしれないというのに、幼なじみの友達を守ろうと必死になっている。
…馬鹿過ぎて…心が痛い…
そんなウダツに
「ウダツが、あの二人の為に必要ないだろ!俺、知ってるんだぜ?
あの二人のいい道具として酷い扱いを受けて、毎日のように傷付いては誰にも気付かれないように声を押し殺して泣いてた事を!」
そう言ってきた大地に、大樹と真白は信じられないとばかりに驚いた表情をしてウダツを凝視した。
…だって!
ウダツは、自分達にいい様に使われてるなんて知りもしない馬鹿で“幼なじみで友達”と、言えばとても喜んでいた単純な奴だ。
まさか、大樹や真白にいい道具として扱われてると知っていたなんて…。
呼べば嫌な顔一つせず、ニコニコと嬉しそうにしていたのに?
大樹と真白は表向きではウダツのいい友達を演じ、心の中ではウダツは酷い扱いをされてる自覚がない馬鹿だと嘲笑いぞんざいに扱っていた。
なのに、ウダツはその事をしっかりと把握しているにも関わらず、大樹や真白にはニコニコ笑顔で楽しそうに優しく振る舞っていただなんて。
…その度に傷付いては、誰にも気付かれないように泣いていただなんて…
…知らなかった…。
そこで、今まで似たような考えを持っていた大樹と真白の心が二つに分かれた。
それは…
大樹は、そんなウダツに強く心を打たれ今まで何て愚かな事をしていたんだと猛省し、ウダツに顔向けできないくらいの罪悪感に苛まれた。
真白は、そんなウダツをだから何?私達の様な超ハイスペックと一緒に居られるだけで嬉しいでしょ?
なのに、男のくせに少しの事でくよくよして泣いてた?超底辺男のくせに、気持ち悪過ぎるわ。
で、何?自分は悲劇のヒーローにでもなってるつもりなの?
そんな自分に酔いしれて気分でも良くしてたのかしら?
キモ男過ぎて吐き気がしそう。と、ウダツに嫌悪した。
「だけど、下手に手を差し伸べれば更にウダツの心を苦しめるだけだと思って、今の今までお前が俺達に相談してくれるまで待ってた。」
「…大地君…」
大地の思ってもなかった心の内を知り、なんて優しくも力強い親友に恵まれているんだとウダツは、とてもとても大地に出会い親友見なれた事を心の底から感謝した。
「だけど、辛抱強く耐えて溜め込む癖のあるウダツを舐めてたな。
こんな状況になっても、大樹と白鳥嬢の事を助けようとするくらいだ。…もっと早くに無理矢理にでもウダツを問い詰めて、ソイツらからウダツを引き剥がせば良かったゼ!」
と、悔いる大地は話を続ける。
「正直、ソイツらから受けたウダツの今まで付けられた傷を考えれば、ソイツらの人道に反した愚かな悪事を知れば尚更だ。それだけの事をお前達はしたんだ。
今さら何を言ったって無駄だとしか思えないゼ?」
大樹と真白に、そう訴える大地。
静かにウダツや大地、大樹、真白のやり取りや様子を見ていた豪乱とシープだったが
「……うっわ!大地の話を聞いて、ウダツ様に対する考え方がこうも分かれるなんてな!白鳥嬢、えげつないくらい性格悪過ぎてビックリするな。
…マジかぁ〜、容姿や雰囲気とはそぐわない真逆なクズな性格してんなぁ。」
急に豪乱はドン引きした表情で真白を見て、そんな事を言ってきたのでみんな驚き豪乱に注目が集まった。
そして、自分ばかり悪者にされてるようで納得のいかない真白は
「先程から、一体何なんですか?そんなに私や大樹を悪者にしたいのですか?
私や大樹が周りの皆様からの信頼を大きく得ているからといって嫉妬もいい所です。さすがの私も怒りを覚えてしまいます。」
表情こそ冷静に無表情を決め込んでいるが、怒りを露わにした言葉を言い放った。
その問いに答えたのはシープで
「うちの賢い娘(ショウ)がな。二人を極限まで追い込む事で、二人の根っこの部分が見えてくると思う。
その心や反省次第で“悪状況のまま放置”するか、“救済の試練”を与えるか決めてほしいと頼まれたんだよね。」
と、答えになってない言葉を返してきた。
“うちの娘”とか、救済だとか意味の分からない事ばかり言って!
この人達は、一体何がしたいの?
ふざけ過ぎてるわ!
と、更に真白の火に油を注ぐ事になってしまっている。
そこに、ついにその答えが判明してくる。
「…ああ。“まるで、自分の脳内を覗かれてる気分”で、気持ち悪いだろ?」
ニヤリとムカつくような笑みを浮かべ、大樹達を見る豪乱。
その言葉に、大樹と真白はドキリとした。豪乱とシープが現れてから、まるで自分達の心の中を覗かれてるような気味の悪い感覚になっていたから。
「それもそのはずだ。僕と豪乱は、大樹と白鳥嬢の悪事に対して“お仕置き”を任されてきたんだから。判断を間違えられない責任重大な事を任された。
だから、今まで二人の反省具合と将来性を見極めていた。この“人の心が読める魔具”でな。」
シープが、自分のピアスを指差した。
思わず豪乱の耳たぶにも注目したが、シープと同じ物は身に付けてないどころかピアスなんてしていない。
「そんな都合の良い“魔具”なんて見た事も聞いた事もないわ。そもそも、どんな低能な“魔具”であっても、魔具はあまりに貴重かつ高価過ぎてそうそう目にする事なんてないはずだわ。」
してやったりと真白は、少しドヤ顔で指摘してきたのだが。
「…白鳥嬢は察しが悪いのか?
その“魔具”を作ったのは僕だし、魔具だってバレたら元も子もないから同じデザインにする訳ないよね。
“希少でなかなか手に入らない魔具なら尚更”。」
結局、豪乱が装備している“魔具”がどれか種明かしはしてくれなかったが
「…う、嘘よ!貴方の様な私達と年齢も違わない人が、そんなとんでもない魔具を作れる訳がないわ。」
確かに、真白の言う事は間違ってはないのかもしれないが…
「…あ〜、残念だったな。世の中にゃ、“規格外や別格、次元が違う”って言葉が存在してる通り。ここに居るシープはそれに当てはまる超天才なんだわ。
シープは魔道のスペシャリストであり、魔具開発の天才でもある“魔具最高責任職”に就いてる、魔具界のトップだ。」
と、説明された真白は、まだ信じられないようで色々と言っていたがキリがないので
「…もう、いい加減ウザいよ、君。」
冷たく言い放ったシープは、詠唱無しに即真白に口封じの魔道を掛け、真白を黙らせ身動きできないように金縛りも掛けた。
まさかの詠唱無し、即魔道にみんな驚きを隠せずシープを見たが
別に大した事してないとばかりに素知らぬ顔をしていた。
「…あ、そっか!“コイツら”といると、魔道を使うのに“詠唱”を唱えなきゃいけないって事忘れがちになってしまうな。
コイツらレベルの魔道士は、詠唱無しどころか考えた瞬間に即魔道を発動させられるとんでもない魔道士達だ。」
なんて、豪乱が苦笑いしながら説明してきた事で、シープの規格外の力や能力を認めざる得なくなった。
と、言う事は必然的にシープが“魔具最高責任者”だという事も事実なのだと突きつけられる。
そうなれば、“心が読める魔具”も存在しまさにそれを使われて、豪乱とシープにはみんなの心がバレバレだったという事となる。
そうと知れば
ミキや陽毬、ウダツや大地はカァ〜っと急に恥ずかしくなって真っ赤になり
大樹と真白はお先真っ暗状態で顔面蒼白になっていた。
真白は混乱している。
何故、そんな雲の上な存在のお偉い様がわざわざここまで足を運んで、自分と大樹を裁こうとしているのか。
そして、そのお偉い様とタメ口を聞いている少年もまた、お偉い様なのだろうと想像ができてしまった。
何故、自分達がそんなお偉い様達に目を付けられてしまったのか…運が悪すぎる。
と、真白は泣きたい気持ちだったが…シープの術で涙さえも出させてはもらえなかった。
その内に、豪乱とシープは互いに頷き
「決定だな。」
そう、豪乱は言った。
そして、豪乱は大樹と真白に向かいこう言い放った。
「白鳥嬢はどうあがいても、悪事を改心する兆しも将来性も何も感じない。
それどころか、このまま放置しては危険な人物と判断した。よって、救済はなくこのまま放置する事とする。」
…え!?
何?どういう事?
救済とか放置とか…本当に意味が分からない!
と、真白はパニックになっていた。
「大樹は……とんでもない悪事をして許されない所まできてるのにさ。
俺は大樹がどんなに後悔しようと、猛省しようと地獄を見ればいいと思ってるんだけどさ〜。
ショウちゃんが、大樹くんの心次第で“本当の意味で、被害者の人達の気持ちが分かるお仕置き”したら、許してあげよ?って、言うから…宝来家の家族として…許さなきゃなんないのが悔しい。」
太郎(ミキ)は、大樹に対し強い恨みを持っているらしく
大樹への罰は、軽すぎると憎しみきった表情を浮かべ大樹を睨んでいた。
自分と太郎(ミキ)は、今日が初対面だというのに何故、こんなにも自分は彼に憎まれなければならないんだと…色々と記憶を辿っても繋がりが見えてこず
太郎(ミキ)の恋人である陽毬を虐めのターゲットにしようとしたにしても
まだ虐めてもなく未遂に終わっているというのに、ここまでも恐ろしい程の憎悪を込められ睨まれるなんて…よっぽどの事がなければ、こんな風にはならない筈だ。
下手をしたら、大樹自身が忘れているだけで大樹の悪い遊びの被害者の家族か友人…或いは本人なのかも知れない。
ここまで憎まれ恨みを持たれるなんて…
自分はどれだけ人に恨まれる様な恐ろしい遊びをしていたのかと、今さらに…背筋が…ゾッと凍り付く思いがした。
「ま、時間にすれば一瞬。大樹にしてみれば、何年の月日が流れるか大樹の悪事次第だけど。
“大樹が悪い遊びで被害に遭った人達や、その家族の体験ができる魔具(使用する前にセットがとても難しいプロ向き)”と、内容が複雑なだけに
残念だがこの魔具だけじゃ補えない部分もあるから“僕の幻術”も一緒に使って
“お仕置き開始”する。
僕はこう見えて、とても忙しい身だから大樹の有無は聞かない。心の準備もさせない。始める。」
と、シープが言った瞬間。
大樹は急な眠気襲ってきて抗う事するできず自分の意思に反して考える間もなく一瞬で眠ってしまった。
それをシープは大樹が倒れそうになる床に異空間へ通じる穴を開けそこへ大樹を落とした。
急に消えた大樹に、みんな驚くも
「大丈夫だ。僕の作った異空間に大樹を送り込んだだけだから。
この場所で大樹が眠って急に倒れたりしたら、それこそ大騒ぎになるだろ?
あと、大樹が“お仕置き”されてる間だけは、周りの人達の記憶から大樹という存在を消してあるから安心していいよ。」
なんて言うシープに、そんな事までできるのかという驚きしかなかった。夢でも見てるかの様な気持ちだ。
現実に起きてる事とは思えない。
大樹くんは大丈夫なんでヤスか!?と、心配のあまりウダツが声を出そうとした時には、いつの間にか大樹の姿があり
呆然自失状態でカタカタと全身を震わせ一点を見つめ動けなくなっていた。
「どうやら、“お仕置き”は終わったみたいだね。自分がどれだけの事をしたか、幻術ではあるけど“擬似体験”したから…大樹の様子を見る限り相当なまでに恐ろしくも酷い遊びをしてたみたいだ。」
と、戻って来た大樹の様子を見てシープは淡々と言葉を残すと
「これで僕の頼まれごとは終わったから帰るよ。」
大樹の哀れな姿を見て、フンと鼻を鳴らしシープは消えてしまった。恐らく、超高等特殊魔道ワープ(瞬間移動)でも使ったのだろう。
ここまで来れば、シープがワープを使えても何ら不思議ではない。
「…アイツ!俺を置いて行きやがったな!!一緒に来たんだから、帰りもワープで送ってくれたってよくね?」
と、豪乱はプンプン怒りながらミキに同意を得ようとするも、放心状態の大樹を睨み続けるばかりで豪乱の声など届いていないようだった。
そこで、豪乱は一つため息をつくと
…バシッ!
と、力いっぱいに、ミキの肩を叩いてハッと正気を取り戻したミキに言った。
「ショウ様の希望でな。大樹の屋敷に居る“大樹と同い年の使用人”を、“大樹の影”として育ててるみたいでな。
ソイツの扱いが酷いのなんのって!
なのに、その事実は大樹には伏せられて大樹はその事を一切知らないまま、ぬくぬくと育ってやんの。
だから、“その事実も教える為”に、大樹の影の生い立ちも“擬似体験”させてあげてってさ。」
そう言ってきた豪乱に、目が飛び出るかと思うくらいにミキは目を大きく見開き
「……え?それじゃあ、今の大樹は悪い遊びの被害者や家族達の他に、大樹の影の擬似体験までさせてたの?」
驚いた風に豪乱に訊ねると
「…いんや?その他に“あの方”の希望もあって、大樹や白鳥嬢がウダツに対して行ってた最低な行為も擬似体験させた。」
自業自得とはいえ、これはやり過ぎなんじゃないのか?
完全に精神崩壊しなきゃいいけどな…今の状態を見ても相当ヤバそうだな。
など、豪乱はぶつぶつ言っていたが
「どんな屈強な心の持ち主だろうと、ここまでされちゃ精神崩壊して精神異常者になる可能性も危惧してる。
だから、この後直ぐに強制的に大樹は、世界一との呼び声高い心療内科でありカウンセラーの先生の所へ強制的に送られる予定だ。」
そう説明した後
「そこで過去の自分と向き合って、前を向いて生きてもらいたいもんだな。」
と、豪乱は苦笑いして見せた。
「…って、事で俺はそろそろ帰るけど、み…太郎はどうする?」
豪乱が、ミキに声を掛けると
「せっかく、社交界に行くオレとひーちゃんの為に張り切って両親が用意してくれた王族服とかひーちゃんのドレスとか無駄にしたくないじゃん?
だから、残り時間名一杯に陽毬と社交界を楽しんでから帰るよ。」
なんて、陽毬の顔に自分の顔をピッタリ合わせてピースして元気いっぱいの笑顔を見せた。
「…チェッ!ラブラブな恋人がいて羨ましいな、クソ!俺も可愛い彼女がほしいぜ!なんで、俺には彼女ができないんだぁ〜〜〜っっっ!!!?」
豪乱は、少し発狂気味にそう訴えると
「…あ〜、豪乱君の場合はさぁ。豪乱君、美人に激弱で惚れっぽいわりに、冷静に相手の粗も直ぐに見つけちゃうからねぇ〜。
そこは、人を見る目があるなって思うけど。あまりにも理想が高過ぎるんだよねぇ〜。
それに、超がつく美人にしか目が向かないじゃん。それ以外の女の子達は圏外みたいな?」
なんて、キャラキャラ笑いながら指摘してくるミキの様子に
豪乱はミキもどうなるかと思ったが、どうにか気持ちに整理がついたみたいだ。
つきものが落ちて、スッキリした顔してるな。大樹には悪いが、ショウ様が
“大樹くんの影さんの擬似体験もさせて?それが終わったら、ミキくんにその事をしっかり伝えてね?絶対の絶対だよ?忘れちゃたら、怒っちゃうんだからね!”
なんて強く念を押して言ってきたから、何で鷹司家の大樹の影の話が出るんだ?って、思ってたが…
理由は知らないけど、それがミキの心を蝕んでいたとしたら
恐らく、ショウ様はミキの心を救う為に敢えて頼んできたんだろうな。
そう考えながら、豪乱はハッと何かを思い出し
「いっけね!言い忘れてたわ。
実は俺達のこの会話は、周りに聞こえない仕組みになってる。
シープの幻術で、周りには年の近いみんなで年齢相応の下らない話で盛り上がって楽しくお喋りしてるようにしか見えてない。」
と、ネタバラシされた所で、みんな心の底から良かったと安堵した。
「…よ、良かった…」
真白は、一気に流れてくる安心感から緊張の糸が切れ、腰が抜け床にペタリと座り込んでしまった。
豪乱は安心しきった真白を見て、少し溜め息混じりに
「…ま、だけど。この通り、ここに居るみんなの記憶に残るけどな?
だから、ここに居るみんなとは、これから関係性が大きく変わるだろうな。」
と、釘を刺した所で、真白はハッと気が付き私達は大丈夫よね?と、思わず大樹を見上げた。
だが、大樹は真白に構ってられる程の余裕は無く、思い詰めたように下を俯き何かをブツブツと言い続け涙を流していた。
…あの一瞬のうちに大樹は何をされたのだろう?恐ろしくて聞けない。
もし、今自分が大樹に声を掛ければ、自分も大樹の二の舞になると考えたからだ。
次に助けを求めたのは大地で
大地を見上げると、ウダツと二人で心配そうに大樹に寄り添い何か声を掛けていた。
ウダツは、大地と一緒に必死になって大樹に声を掛けているので当てにならなそうだ。…こんな大事な時に役に立たない道具だと、真白はウダツに対し小さく舌打ちをした。
その様子に、心が読める魔具を装備している豪乱はまたもや真白にドン引きだ。気を取り直し
「…あと、自分達を覗き見ていた
“ド派手でケバケバだけど、とんでもない美人”な?
あの令嬢…桔梗や風雷も言ってたけど、相当なまでに強いな。
…まさか、シープの幻術の中を覗けるなんて桔梗や風雷以外見た事がないぞ?
一体、何者なんだ?」
と、ミキや陽毬に聞くも、この中では豪乱とミキくらいしかそのド派手なケバケバ美人の存在に気がつかずいた。
ミキは「…ナハハ…。まさかのタイミングで来ちゃうんだねぇ〜。
でも、やっぱ認めたくないけど強いよねぇ〜。ムカつくけど凄いんだよなぁ〜。なぁ〜んか、嫌だなぁ〜。」
自分達の一部始終を見て何故かここから走り去って行った少女の後ろ姿を見て、ミキは苦笑いしていた。

