あの電話でのヒマリへのミキの暴言事件から、一週間後。

ミキは無事、ヒマリの留学先の某高校に編入に合格する事ができた。


試験を受ける前の話になるが

まず、その前にカイラの力添えがあり、ミキの心ない暴言により深く傷ついたヒマリに実際に会い、謝罪させてもらえる事を許された。

そこで…まあ、色々あった訳だが。
謝罪に現れたミキを親の仇でも見たかのようなフジとか、ヒマリに嘘偽りなく誠心誠意謝っていたミキだが

やはり、所々ヒマリやフジの感に触る事を言ってしまって

ますますフジを怒らせるとか、ミキが謝罪している筈なのに何故か敵意剥き出しになっていくフジとか…

フジがキレる度に、ミキは脳裏にカイラの姿が浮かびその言葉を思い出し

慌てて、謝罪し直し

終いには、床に頭をぶつける勢いで土下座して必死に謝罪し続けた結果。

ちょっと微妙な雰囲気ではあったが

ようやくヒマリは仕方ないと許し、フジは不服であったがヒマリが許したから自分は何も言うことはないと許した。

…それでも、やっぱり二人はミキの事を警戒してはいたし、許せないけど許せるように心掛けようという雰囲気があった。

正直、謝って許してもらえたら

“ハイ、いつも通り仲直り〜。”

なんて軽く考えていたミキの心は、思ってた事とは全く違う二人の反応に戸惑いショックを受けていた。

前とは違う二人との距離と壁を感じ、孤独を感じるも、陽毬に謝りに行く前日カイラにも言われた事を思い出していた。



それだけの事をミキはしたのだと。


許されるとは思ってはいけない。一度ついた傷は複雑なのだと。

時間で和らぐ事はあっても、何かがキッカケでそれを思い出しその時の傷が酷く痛み苦しむものだと。

それも、心の何処かに引っ掛かりほぼ忘れた状態から、少し思い出し不快になったり強く思い出し酷い状態になったりと波もあるのだと。


だから、完全に癒える傷なんてないのだと。元に戻る事はないのだと。



その事を心の隅っこでもいいから、覚えておいた方がいいと諭された。


そんな話をされても、いまいちピンとこなかったミキであったが

実際にヒマリに謝罪して現実を目の当たりにして、何となくカイラに言われた言葉の意味が理解できたように思った。


…ズキン…


こうして、ヒマリとフジに許してもらえたミキは晴れて留学試験に臨み見事に合格したのだった。

正直、今まで国内トップレベルの学校で常に学業と実技もトップでい続けなければならなかったミキにとっては、ヒマリの留学先の高校は小学校低学年レベルかな?と思うほど、試験内容が楽勝過ぎた。

今まで血反吐を吐くほど努力せざるを得なかった家庭環境を恨んでいたが、ここで……どこで自分の努力が報われるか分からないもんだなぁと感慨深い気持ちでいた。

…ある意味感謝するべきだろうが、宝来家の家族になる前まで。
鷹司家にいた頃までは、ミキの成績が少し悪かったり主人であるタイジュが隠れて悪さする度に、家主をはじめ指導係達に酷い虐待を受けていたので複雑な気持ちでいた。

そこでも、ミキは…あの家や悪魔の様な人間達から逃げて、もう関わる事はない。救われたんだ。と、頭では理解していてもいても

どうしても過去のトラウマが、自分にまとわりついて離れない。その過去が変わる事はない。

自分が受けた心の傷の大きさや深さによって、過去は過去だと割り切ろうとしても割り切れないのだと知った。

だって、本来のミキは些細な事なら気にしないし割り切れる楽観主義者だから。

そんなミキですら、ずっとこれからも付き合っていかなければいけない忘れたい傷を負ったのだ。それくらいに、酷い家庭環境であった。


そんな過去を思い出し、ようやくミキはカイラの言いたい事が心からよく分かった。


そこに気がついたら、自分の軽はずみな言葉や心にも思ってない言葉でヒマリを深く傷付けたのだと分かり


後悔先に立たず。


できるなら、ヒマリの心を傷付ける前に戻りたい。……いや、アンジェラに出会う前からやり直して、ヒマリしか知らない真っさらな体でいたかった。


…なんで、こうなっちゃったんだろう?

どこから、自分は間違えてしまったのだろう?

と、ミキは今までにないくらいに落ち込み自分を責めていた。


色々とごちゃごちゃ考えながらも海外の学校へ留学する為、ミキは寮に引っ越す為の荷造りをしていた。

こうやってバタバタ忙しなく動いていた方が、嫌な事をあまり考える事も薄れるので余計に掃除に力が入ったおかげで元々綺麗にしてた部屋が更に部屋中ピカピカになった。

ミキが海外へ出発するのは二週間後。

中途で入学が決まったミキの入る寮が修繕などでまだ入れる状態ではなく、早くても二週間後から入寮できる事。
急遽、寮に入りたいという生徒ができた為、ミキを受け入れる寮の方も慌ただしく忙しくしている事だろう。


そして、学校は一ヶ月後からという事で

一刻も早く陽毬の元へ行きたいミキは、入寮できる初日つもりは今から二週間後には寮に住むつもりだ。

今から二週間後か…

と、ついこの間家族になったばかりのライガとカイラとの日々を思い出し、ここに住んでまだ日が浅いというのに懐かしい気持ちになりしんみりしていた。

家族になったばかりだというのに、自分が赤ん坊の頃からずっとここに居たような不思議な感覚にも驚く。

それくらい、二人の惜しみない家族としての愛情をたっぷりとミキに与え、それが至極当然当たり前だとミキを受け入れ優しく包み込んでくれたからかもしれない。

大好きな家族の元を去るのはとても寂しく、色んな思い出が蘇ってきては陽毬の事を考え落ち込み過去の家族だった人達やアンジェラの事も思い出し…消し去りたいと頭を抱え

それをぐるぐると頭の中でループして複雑な気持ちになっていた。

そんな時、ふと思い出したのがショウの事だった。


ショウは突然突拍子もなくいきなり予知する事がある事は知っていた。

だが、その内容や喋る内容の重大さによって、ショウは体調を崩す事を初めて知った。

ショウの体調不良を起こした原因が自分に関わる予知の一部を教えてくれたからだと思えば、ショウの体調不良は見ていられないくらいとても苦しそうで、それを看病する家族達もとても心が辛そうだった。

できれば、もうあんなショウの姿は見たくない。

…だって、ショウのパパであるライガがとても憔悴しきって苦しむから。
それに今は、ショウのパパであるライガの弟であるミキにとっては大切な“姪っ子”だ。

ライガが大切にしている家族は自分にとっても大切と思えるから。


そんなショウが、最近ようやく完全回復した。そこで、ミキはライガとカイラの3人でショウのお見舞いへ行くと、ショウのパパ、ママ達。(育ての親)

桔梗に全然似てない両親と兄弟達が、ショウの部屋に既にお見舞いに集まっていて、みんな歓喜でテンションが高くなっていてワチャワチャ騒がしくなっていた。

その中に桔梗の

「ショウが元気になったばかりだってのにウッセーんだよ!帰れーーーーー!!!」

なんて、怒号が飛ぶも

みんな、それをスルーするどころかあの桔梗を兄弟達は

「素直じゃないなぁ〜。ふふ!」

「コイツ、恥ずかしがりだからな!俺達は、お前がすっげー可愛い奴だって分かるけどよぉ〜。周りは、お前の外面しかわかんね〜んだから気をつけろよぉ〜?」

なんて笑い飛ばし頭を撫でくり回して、揶揄いつつも労っていたり。それを物凄い形相で怒り暴言を吐きまくる桔梗。

「出ました!桔梗の照れ隠し!!他の人には分からないだろうけど、俺達兄弟には通用しないから。ただただ可愛いだけだから。アハハッ!!」

それを桔梗の両親はそれを少しの間見守った後、兄弟達にうざ絡みされている桔梗に救いの手を差し伸べるため

「こーら、お前たち。あんまり桔梗を揶揄うんじゃない。…まったく。
桔梗と年が離れてるせいか、すぐ桔梗を揶揄って遊ぶ。…困ったもんだ。…ハア。」

と、父親は呆れた風に息子達を否めているが、その言葉とは裏腹に表情と雰囲気はとても温かく穏やかで優しい。

どうやら、桔梗は5人兄弟の末っ子で一人だけ兄弟達とは随分年が離れているようだ。

そんなやり取りを見ていて、ミキが最近知ったばかりの家族の温かさを感じホッコリしていた。

その内、ライガからミキとカイラの紹介があり、そこでまたミキとカイラも含め賑やかになり

とても、心温まる楽しいひとときとなっった。

だが、正直本物のショウの肉親の両親は来ないのかという疑問も感じていた。


そんなミキの様子を見て、桔梗は少し…考えていた。いや、最初はミキの事なんて全く興味も何も無かったが

ショウの友達絡みでミキの経緯を詳しく知る事となり

思い出したくもない忌々しいだけの葬り去りたい自分の過去世と、ミキの過去世から今現在至るまでが結構自分と重なる部分が多過ぎて

とても胸に引っ掛かるものがあり、とてもモヤモヤしている。

現世でのミキの生い立ち、ミキの過去世や罪人としての刑罰、拷問等…

それを知ってから、自分とは全く違うといくら否定しても自分とダブるものを感じ嫌でも自分の過去世を思い出しては

毎日のように悪夢に魘され、ショウと一緒に居れば過去世で今現在とは関係なくとも、あまりの罪悪感から精神が崩壊してしまいそうに苦しく辛い。

ショウから少しでも離れれば、汚すぎる汚物な自分を酷い拷問の末消し去りたくなる。

だけど、自分が居なくなればショウは自分以外の誰かの特別になってしまう。それだけは、何があっても絶対に嫌だ!その気持ちだけで、それは踏みとどまっている。

それほどミキの事は他人事に思えず、日に日に桔梗は自分の過去世を強く思い出し心は病みどうしようもないやり場のない気持ちを抱えていた。

…いっその事、宇宙を破滅させてショウと自分の二人だけの世界を作ろうかとも考えてしまったり…

そんな事を考えていた時だった。


…むきゅっ

と、桔梗の手は柔らかな手に握られ、思わずそちらの方を見ると


「桔梗、大丈夫だよ。桔梗とミキ君は違う。だけど、今のミキ君を知ったら…もう、違うのに桔梗の心が辛いよ、助けてって苦しんでる。」

何よりも狂しい程愛しく大切な存在が、今にも泣きそうな顔で桔梗を見ていた。
その姿を見て桔梗もつられて泣きそうになるのをキュッと我慢したのだが

「…ショウ…ッッッ!!?」

桔梗の複雑に絡み合いこんらがってる気持ちに気づき、自分の事のように心配してくれるショウの気持ちに込み上げるものがあり

大勢がいる事すら忘れ、思い切りショウを抱きしめ


「……苦しいよ、ショウ…ショウッ!」

と、縋るように泣いた。


「…うん、大丈夫。桔梗、あのね…」


そんな桔梗にショウは小さな声で何かを囁いたのだが

…ここに居る殆どの人達は、この世界のトップばかり。ショウが桔梗だけに聞こえるように耳打ちした内容もミキとカイラ以外のみんなには筒抜けであった。


そのとんでもない内容に、みんな驚愕の表情を隠しきれずいた。


そんな奇妙な雰囲気に、ミキとカイラは…え?いきなり、みんなどうしたの?と、困惑するばかりだった。