クズとブスの恋愛事情。

アンジェラが大泣きした事で、エバンとクリシュナが慌ててシャワールームから部屋に戻ってきて

ミキから、事の顛末を聞いて二人は困ったように考え込んでいた。そこに、エバンは


「俺達もアンジェラに謝らなきゃな。
今回の事は、アンジェラへの復讐なんて考えての行動で俺は反省はしても後悔は微塵たりともしてない。
謝らなきゃなんねーってのは、アンジェラに別れ話すると面倒だと思って自然消滅にしようって面倒事から逃げてた事。
もう知ってると思うけど、俺は本気で一生を添い遂げたいって思うくらい好きな奴ができた。
そして、そいつと恋人だ。だから、アンジェラとしっかり別れてなかったから浮気してたって事になるな。そこは、深く反省してるし謝る。」

と、泣きじゃくっているアンジェラに深々と頭を下げた。それを見て慌てたようにクリシュナも

「お互い、家の事情で無理矢理に婚約者同士にされたとはいえ、アンジェラ以外の人と恋人になるなんて非常識だし不誠実だよね。本当に、ごめんなさい。
そして、こうなってしまった以上、僕は家から縁を切られる覚悟で正直に家族に話すよ。
アンジェラの望む通り、絶対に婚約破棄できるように両親を説得する。約束するよ。」

と、婚約破棄の約束をして、エバン同様に深々と頭を下げて何度も何度も謝った。

すると


「…あんたら、二人して男同士気持ち悪いのよ!そんなキモい奴らとは絶対関わり合いたくないわ!!
顔も見たくない!まさか、エバンがホモだなんて知らなかった!ホモと付き合ってたなんて…私の体が穢れたわ…気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪いっっっ!!!!!二度と顔も見たくないわ!
それと、ホモブスシュナと婚約破棄できるなんてラッキーだわ!」

なんて悪態をついて、ボロアパートから出て行ってしまった。

残るミキは

「…今まで、あなた方…特にクリシュナさんを長い間、苦しめ続けてきて本当に申し訳ありませんでした。」

と、二人に謝罪し土下座までしてきた。

そんなミキに、エバンは当然の事だしまだまだ足りないと不満気であったが、クリシュナは慌てて頭を上げて下さい!なんて、ミキを気遣い懸命に慰めてくれた。

本当に、とても温かで心優しい人だった。


「…こんな時に、こんな話をするのは非常識だし場違いかと思いますが…エバンさん、あなたは“苦学生”ではありませんよね?一体、何者なんですか?」

真面目な顔をして、エバンに聞いてくるミキにエバンは少し驚いた表情をしてから


「え?マジで、ただの苦学生だけど?」

と、エバン普通に答え意味深な笑顔を浮かべたのだった。

…絶対、エバンには何かある!と、ミキは確信した瞬間でもあった。


「…ああ、それと。お前も大樹も母親ソックリな〜。母親ってより、遠く離れた血縁関係って事になるのか。
アイツ…雷呼(らいこ)って女なんだけど。
性に奔放っつーか恋多き女って言えばいいのか、分かんねーけどさ。
俺も若い頃は、ライコとヤリまくってた時期もあったからな。……あっ!!!」

アンジェラが居なくなった事で、気が抜けたのかミキに気軽に話しかけてうっかり自分の過去の性事情を少し漏らしてしまったエバンは、マズイと思い気まずそうにクリシュナを見ると

クリシュナは、少し悲しそうな表情を浮かべ無理に笑顔を作って話を聞いていた。


…チク…

そんなクリシュナに、大昔の事で若かりし頃の甚げの事ではあったが、恋人のクリシュナの前でこんな話をするべきでなかったとエバンは申し訳なく思った。


「……あ〜…。こんな事言っちまうと、クリシュナに逃げれるかもしんねーし。何より、お前達には信じがたい話だろうけど。
クリシュナの人となりとあまりの人の良さに、大きな隠し事したくないって罪悪感がデカくなった事と…懐かしいヤツの子孫に会ったら俺の話を聞いて欲しくなってな。…まあ、大昔の話になっちまうが…。
聞きたくなかったら、全然聞かなくていいよ。…すっげー嫌な話になるけど、クリシュナは聞いてくれるか?」

と、都合悪そうにクリシュナの顔を伺うエバンに、クリシュナは


「エバンが、何か覚悟を持って自分の過去を打ち明けてくれようとしているのに聞かないなんて事は絶対にないよ。話を聞いて、僕達の関係がどう変わるのかは聞いてみなければ分からないけど。是非、聞かせてもらえないかな?」

クリシュナは、今自分が感じた嘘偽りない言葉で真っ直ぐにエバンを見てきた。


「…俺も、聞いていいなら聞きたいかも。」

ミキが、そう答えた事により二人に向かいエバンはうなづいた。


「まず、俺は異世界者であり名前も姿形も違う。
そして、俺とミキの先祖に当たるライコは、異世界に存在する“雷を司る国”のNo.2の実力者だった。
そこの国で“雷帝”を怒らせた俺とライコは“罪人”として、二度と元の世界に戻れないようにと“異世界”に永久追放された。」

と、打ち明けられたが、異世界だの罪人だの言われてもイマイチピンとこないクリシュナに対しミキはさほど驚いてはいなかった。

「まあ、二人の反応はそんなもんだろうな。クリシュナは、今は分からなくても後でクリシュナが理解できるまでじっくり話そうな。」

二人の立場的に妥当な反応が返ってきて苦笑いしつつ、エバンは話を続けた。


「まず、ライコは俺よりもずっと先に生まれていて…500年くらいは年が離れてるかな?あまりに若過ぎたり国の始まり頃から居る古株は別として。
“不老不死の俺達”は、成人してからは年齢なんて何の問題もないし関係なかった。」

そこで、ミキとクリシュナはビックリして目を見開いていた。クリシュナなんか、ちょっとお口がパカーンと開いている。


「国の頂点であり…ああ、これは言っちゃダメなヤツだわ。喋っていい事とダメな事あって規制かかってる話は喋れないから勘弁な?
まあ、雷の頂点であり絶対的覇者である“雷帝”は、厳格で曲がった事が大嫌いな気高き孤高の女帝。加えて、知性もあり、雷帝が本気を出せば国を一瞬で滅ぼせるだけの圧倒的な強さもあった。
現に、その当時雷の国の超問題児で手につけられなかった国の実力者No.2のライコとでさえ次元が違う力を持っている。」

そこまで聞いて、雷帝って女なのか。…って、国の実力No.2がライコかよ!と、いう驚きと

超問題児が、何しでかして異世界追放されちゃったわけ!?

ミキとクリシュナは、色々気になる話ばかりで食い入るようにエバンの話を聞いていた。


「簡単に言えば、ライコは実力もさながら容姿も良かった。加えて、チャラくて性に奔放。エッチが好きで好きで堪らない女だ。もちろん、容姿がいいもんだから自分好みの男を見つけては食い散らかして。
子供ができれば、自分の腹の筋力で潰したり電流攻撃をして殺して多くの命を奪っていった。
“どうせ、腹の中いる肉片だから気にしなーい!”
なんて、何の罪悪感もなく笑って小さな遺体を食べたり、そこら辺に捨てたり、魔獣や妖魔の餌に与えたりして笑ってたな。」

なんて、ライコの話を聞いてミキとクリシュナは、なんて恐ろしい女なんだと…ゾッとして身震いしてしまった。

クリシュナなんて、生まれてくる前に殺された赤ちゃんの事を思い、胸が苦しくて悲しくて赤ちゃんの事を考え思えば思うほど涙が溢れでてきた。


「その当時、自分で言うのもなんだけど。
アイドルさながらに女子達が騒ぎ立てるくらいの超イケメンって言われてたし俺のファンクラブまであったくらい人気あったんだぜ?
そして、成長と共に実力もメキメキつけていって気が付けば、雷帝直属の側近にまで登り詰めていた。
力や能力ではライコに及ばなかったが、何せライコは学力的にも地頭さえ悪かったからな。おかげで、俺は実質国の実力者No.2になれたって感じか。」


…え?何となく、そうかな〜って思ってたけど自分が想像してたより、エバン…凄すぎね?

と、ミキはエバンの凄さに、ちょっと引いてしまった。


「自分の直感のみでの戦闘スタイルで頭脳戦に弱かったライコは、よく周りからは宝の持ち腐れって笑われていた。…ああ、言い忘れてたが雷の国は闘い好きが多くて、しょっ中何らかの武術大会が開かれてたんだぜ?
ライコもエッチと同じくらいバトル好きだったみたいだな。」

雷の国の人達は、よっぽど血の気が多いらしい。


「…だけど、ライコの我が子を殺す噂は雷帝の耳に入った。ライコとエッチするのはいいが、ライコの腹に命が宿る度に赤ん坊を殺すライコをよく思わない奴らも多かったから、ライコのその手の話はあっという間に国中の噂となり雷帝の耳ににも入った。
そこで、雷帝は直接聞かなければ分からない事もあると、部下を通して別の部屋からライコの言動を見ていたようだ。そこで見聞きしたのは、雷帝も絶句するほどのあまりに身勝手でとんでもない発言ばかりだった。

“自分さえ良ければ、他はどうなったっていいじゃーん。今自分がが楽しければよくない?楽しまなきゃ損だよ?”

“えー?何で、自分以外のヤツの事なんて考えなきゃなんないの?みんな、馬鹿なのー?”

“それに、アタシじゃなくても、アタシみたいな考えのヤツいっぱいいんじゃん。なのに、何でアタシばっか悪者にすんの?わけ、わかんなーい!”

“…は?お腹の子供?要らないし、邪魔なだけじゃん!
もし、間違って生まれてもそこら辺にポイ捨てするよー。そしたら、どっかの動物が食べて綺麗にしてくれんじゃなーい?”

そんな感じの事ばかり言っていて、自分以外の命も何とも思わないような奴だった。

だが、尋問中にライコの腹に命が宿っている事に気が付いた雷帝は、自分が見つけたからには守らねばならないと感じたらしくライコにその子供を産むよう命じた。

何より、そのお腹の中の赤ん坊からは溢れんばかりの力を感じこんな力ははじめて目にすると冷静沈着な雷帝が驚く程だったという。

そしたら、驚く事にライコはとんでもない恐ろしい事を口にした。

“中に入ってんの分かってんだけどさー。いくら腹の筋肉で押し潰そうとしても、電流攻撃してもピンピンしてるしさー。コイツ、殺してさっさと腹の中から出そうって思って色々やってんのに死なねーどころか毎日ドンドン成長してんだよねー。

それに、自分の命が掛かってる時くらいしか病院で赤ちゃん殺せないじゃーん。面倒くさいから、その制度やめてさー。赤ちゃんできたら、病院でどんどん殺しちゃう制度つくろーよー。

そしたら、みんないっぱいエッチできて、気持ちいいし楽しいじゃーん。

子供できるからって子宮取るとか怖くて無理だしぃ〜。

ね?いー考えじゃない?”


なんて、無邪気に喋るライコに雷帝は、こんな悍ましい話を何の悪そびれる事もなく当たり前の様に話してくるなんて…こんな頭のおかしな奴が世の中には存在するのか?

と、酷い衝撃を受けたようだ。

“おそらく、精神に異常をきたしてるのであろう可能性も含めて、お腹の子供が産まれてくるまで彼女を仮死状態にしてお腹の子供に必要な最大限を尽くして子供を出産させろ。”

“出産した子供は、私の個人的な命令で強制的に産ませた子供だ。責任を持って私の子供として育てよう。”

雷帝の決断により、ライコが産んだ子供は雷帝の子供になる事が決定した。


そして、多くの罪なき幼い命を奪った“大罪人”として

【異世界へ追放のち、記憶をそのままに胎児としてまさに堕胎する母親の腹にライコの魂と肉片を宿らせる。

そこで、ライコが過去自分のお腹の子供達を殺してきたように堕胎される子供の恐怖と絶望、痛みを体験して過去の自分の行いを心の底から反省し産まれて来るはずだった子供への罪悪感を感じる事ができて

はじめて、その世に生まれる事を許す。

だが、二度と元の世界には戻ってきてはならない。】


と、ライコが目を覚めた時には、どこの誰か分からない人間の腹の中にいたって事になるな。


ちなみにだが、雷帝が自分の子供として育てた子供は容姿はライコそっくりな男の子で性格もチャラかったが、芯と根っこはしっかりしていてみんなに好かれるような明るく元気な子に育っていった。

知性もさながら、力や能力は母親であるライコを軽々とポーンと追い抜いてしまって

おかげで、俺はNo.2からNo.3に転落したけど。

その子…何の因果かな?関係ない、ただの偶然かと思うんだけど、“ミキ”って、名前なんだよ。


そして、ミキ皇子が成人した時

雷帝は“自分は、唯一自分が主と認めた方がいらっしゃる。その方は、まだまだ幼く早く雷帝の座を誰かに譲りたかったが、それに値する人物は居なかった。
だが、ミキ。私は親の依怗や過信など抜きで、次の雷帝はお前しか居ないと確信している。”

と、色々とすったも揉んだあったが、雷帝の気持ちを受け入れて雷帝の息子であるミキが後を継いだ。


だが、やはり偉大なる雷帝はあなたしか居ない。
雷帝を名乗るにはオレには恐れ多い。だから、オレは“雷王”を名乗る。

そう決まった。

いつ、雷帝が戻ってきてもいいように雷帝の座は空白にしておくという話でも決着がついた。そこの部分では、雷帝はとても不服そうだったが、大切に育てた我が子の強い希望に妥協したらしい。」


と、まで話を聞いたが

…あれ?

ライコと雷帝、産みの親はライコだが育ての親が雷帝の息子ミキの話は聞いたが…

聞きたい話でもあったが

肝心要のエバンの話がないじゃないか。一番、聞きたいのはそれなんだけど…

なんて、思うミキとクリシュナだ。そんな二人の様子に気がつき苦笑いしながら


「いやぁ〜、説明って難しいな。俺の話もおり混ぜて話そうって思ってたけど、上手く説明できなくてな。
…まあ、俺のその当時…
大昔もクリシュナに知られたくないくらい最低最悪だから、話す事に少し怖気付いちまったってのが本音だな。」

そう言って、クリシュナと短い相談のやり取りをして

「無理に話そうとしなくても大丈夫だよ。僕が見てるのは今の君で僕は今の君が好きなんだ。」

なんて、クリシュナの“無理はしないで?”そのままの君がいいんだ。”と、いう気持ちが嬉しくて、エバンは覚悟を決めて自分の大昔の話を話し始めた。


「人間でいうと、俺が12才か15才あたりになるのか?もっと前だっけかな?定かではないけど成人より結構前だったと思う。
その時にライコと出会って、ライコに気に入られて意気投合してそのままノリでエッチした。
色々と気の合うライコとは、親友でありお互いに都合のいいセフレでもあった。いつもよく一緒に居たのがライコだったし、ライコには色んな悪い事を教えてもらったある意味先生でもあったな。」


ライコが先生というあたり、もう嫌な予感しかしない。


「エッチした相手が妊娠したら俺の能力を使って、相手の腹の中の赤ん坊に直接電気ショックを与えて殺して抜き出して電気で跡形も無く焼いて証拠隠滅してたよ。
これも、ライコの提案でライコはこういう悪知恵はよく働いてたと思う。悪知恵というより、面白そうなアイディアで楽しんでたと言った方が正解だな。
自分が、面白い、楽しい、嬉しい、気持ち良ければ何でも良かった人だったからな。」

…ここで、ミキとクリシュナはだいたいの想像がついてしまった。


「とにかく、俺はライコ同様に調子に乗りまくっていた。自分の容姿や才能などに溺れ、何でそんな簡単な事もできないのかって周りを見下してたし、みんながチヤホヤして俺を持ち上げてくれるから王様にでもなった気分で過ごしてきた。
自分が言えば、みんな何でも言う事聞いてくれたしどんな我が儘も通った。何でも自分の思うがままだった。
それが、間違いだったんだな。
自分と雷帝、ライコ以外はみんなドブカス以下の下僕だと思ってたとか、今考えればとんでもねー話だよな。」

自分の過去を振り返り、頭を抱え込んでしまったエバンの手をクリシュナは毛深い手でギュッと握ると


「その時の事を思い出して、こんなにも後悔して深く反省できてるだけでも凄い事だよ。
僕を含めてだいたいの人達は過去の過ちに蓋をして、見ないフリ無かった事にしたくて知らないフリしてそこから逃げてばかりなのに。それを、しっかりと受け止めようとするエバンは凄いよ!」

エバンを褒めてきた。まさか、褒められるとは思ってなかったエバンはビックリしたし、ミキもどうしてここで褒める言葉が見つかるのかと感心していた。

「それがドンドンとエスカレートしていってさ。ついに、“男版ライコ”なんて言われるようにもなって。
もちろん、俺もライコ同様に雷帝の耳に入ってライコ同様の処分が下された。
だが、少し違ったのが

“お前は大罪人である前に、幼い頃からライコに洗脳されたいわば被害者でもある。その前にお前は国の為にこの職に就いてから今の今まで大きく貢献してきた。頼もしくも信頼できる側近だった。

だからという訳ではないが、次期雷帝となる我が息子の成長を見守り私の雷帝の辞任式と新たな時代の幕開けとなる新時代の雷帝の就任式に参加してほしいのだ。

私の都合ではあるが、それを終えてからお前の執行を行う。”

と、いう雷帝なりの心遣いだった。その時は泣いたな。嬉しさと申し訳なさで大泣きだよ。

何が申し訳ないって、自分が何を悪い事をしたのか分かってない事にだ。

それについて、雷帝含め周りの奴らも必死になって説明してくれてな。

様々な良し悪しの分別をつけさせようって努力してもらっても、その時の俺には本当に何も理解できなかったし、みんなどうしてそんなに必死になってまでも人の事を考えるのかって不思議で堪らなかったんだ。

みんなが一生懸命になって俺に教えてくれようとしている事が何一つ理解できなくて、それが本当に申し訳なくて自分は頭のおかしい奴なのかってかなり悩んだ。」


「…エバンッ…!」

エバンの話を聞いて、思わずエバンを抱き締めてくれたクリシュナの体温が心地いい。クリシュナに触れられた部分から温もりと優しさが伝わってきて自分はなんて幸せなんだろうと少しずつ噛み締めるエバンだ。