クズとブスの恋愛事情。

アンジェラが無理矢理にエバンの家に押し入り、そこでミキとアンジェラの目に飛び込んでできたのは思いもよらない人物…

入って直ぐにあるキッチンルームの椅子に、アンジェラの婚約者であるクリシュナがいたからだ。


クリシュナも、突然のミキとアンジェラの登場に驚き固まっている。

それから、色々すったもんだあり

仕方がないといった感じに、エバンはミキとアンジェラを隣同士に座らせるとクリシュナと仲良くお茶の用意をして、ミキとアンジェラにお茶と茶菓子を出したのだった。

台所での二人はとても仲が良く、じゃれあいながら凄く楽しくて仕方ないといった感じでお茶の用意をしていた。

そして、当たり前のようにエバンとクリシュナは隣同士で座っていて…ミキとアンジェラは…あれ?と、思った。通常、婚約者或いは恋人が隣同士座るんじゃないのか?と。

ミキとアンジェラが、この家に通され二人隣同士に座らせられたあたりで気がつけば良かったのだが、あいにくミキとアンジェラは今の今まで恋人か夫婦かの如く当たり前に隣同士ベタベタくっ付き合うのが普通過ぎて気が付けなかった。

と、いうか…

何故に、アンジェラの恋人の家にアンジェラの婚約者がいるんだという疑問が湧くし、これはかなりの修羅場になるのではとかなりヒヤヒヤするし冷や汗が出てくる。

ポカーンとする二人をよそに


「ケーキを多めに買ってきておいて良かったよ。
今日、大事な話があるし大切な家族を紹介したいって言ったのに、エバンのご家族と会うから緊張して来てみれば“家族は用事ができて今回は来れないから、また今度紹介する。”なんて。家族の方が来られない事情があるのは仕方ないけど、来られないなら事前に教えてほしかったな。アンジェラとミキ君が来てくれなかったら、ケーキ三昧で胃もたれする所だったよ。」

と、少し講義するクリシュナに

「ハハ!そう怒んなって、いくら怒ったって可愛いだけだから。“クシュ”は、マジで可愛いよ。」

なんて、エバンは自分の指とクリシュナの指を絡めて手遊びしながら豪快にケーキを食べていた。
その横で、クリシュナはさほど甘さのないシフォンケーキを食べていて口元に生クリームが付いてるのを見つけると

…パク!

なんと、クリシュナの口元に付いていた生クリームをエバンは舐めとり、それに気がついたクリシュナは乙女のように真っ赤になり、舐めとられた口元を毛深い手で押さえると声にならない声で何かを必死に訴えかけていた。

「あはは!可愛すぎね?大型犬のわんこみてー。」

と、椅子と椅子がくっ付いていて、二人はピットリと体を寄せ合うようにくっ付いていて

まるで、初々しいカップルのように見えた。


…え?

なに、これ…?


「…二人は、どういった関係なの?」

と、あまりの衝撃に、思わずミキが二人にそんな質問をすると


「簡単に言えば“親友”です。ですが、色々ありましてお互いに似た境遇だったので意気投合して、色々と相談しているうちにとても他人とは思えないソウルメイトとでも言うのか…とても特別な存在になっていったんです。」

なんて、自分達がいかに特別な存在の親友かという事を目をキラキラさせながらクリシュナは話してきた。

「…いや、でもなぁ〜。親友にしても、二人のスキンシップはちょっとどころか度が過ぎる気がするんだけどさぁ〜。」

と、二人を見ていてクリシュナの婚約者でエバンの恋人のアンジェラが目の前にいるというのにと、なんだかとても気分悪く感じた。

その前に、アンジェラとクリシュナ、エバンの関係がバレると修羅場に化すのは確実なので、何とかそれは回避したい所ではあるが…

いくら、同性だからといって口に付いた生クリームを舐めとるとか、椅子と椅子をくっ付けて体を寄せ合ってイチャイチャ……考えたくもないがイチャイチャしてる姿はいかがなものかと思う。

親友というが、親友はそんな事しないだろ!と、いうツッコミどころ満載である。


「あ!クリシュナの事、あんま知らないだろ?
俺さ。クリシュナとは、心の共でありソウルメイトって特別な親友の枠を超えた親友だと思ってっから。
多分、クリシュナの事で知らない事がないと思うから、クリシュナの事については俺に何でも聞いてくれ、な?
あまりに、プライバシーにぶっ込んだ事は教えらんねー事もあるけどな?」

と、クリシュナと腕を組み、エバンはクリシュナの肩に頭を乗っけて楽しさ全開といった感じにミキとアンジェラにいってきた。

どんなに強い友情で結ばれた親友でも、そんな恋人みたいな事しないよ!

見ていて、とても不愉快だし最低最悪の気分だ。

しかも、相手は自分の好きな人と…いい人ではあるが見た目が好みじゃないので結婚なんてしたくない婚約者。

なのに…

まるで、誰も自分たちの間に割って入れないくらい深い絆で結ばれた二人といった感じで、少しも太刀打ちできそうになかった。

そんな自分達の関係を見せつけるかのようにエバンは、ドヤ顔してクリシュナにベタベタしている。

…ズキ…

目の前が、真っ暗に染まるほどアンジェラの心はバリバリと音を立ててヒビが入っていく感覚がした。

…心が痛すぎて、大量の血が噴き出してるんじゃないかという程アンジェラの心には、大きな刃が大きく深く突き刺さった。


だが、この光景は


…ゾッとするほど、ミキもアンジェラもよく知る光景で……二人は、これ以上エバンとクリシュナに何も言えなかった。

自分達では何も感じなかったし当たり前の感覚に思えていた事が、第三者の目から見たら常識もモラルもない人目を憚らずただただイチャ付き、自分達はこんなにもラブラブなんだとワザとらしく見せつけているバカップルにしか見えない。

腹立だしいし、イライラするし、ただただ気持ち悪いし、羨ましがると思ってるなら勘違いも甚だしい恥ずかしい奴らにしか見えない。

だけど、あくまで自分達は大親友だと言い張り、不快が過ぎると注意もしたが勘違いしないで?ただの親友同士で深い意味なんてないからさ。

なんて、親友とか特別な大親友など言われると非常識だし、いい加減度が過ぎるのよ!いい加減にして!!なんて、言えず。ただただ色んな嫌な感情をグッと心の中に押し込み我慢して、彼らに合わせるしかなかった。


本当は、あまりの非常識さにムカつき過ぎて、怒りを爆発させ暴れまくってたくさんの罵声を浴びせて彼らの異常行動をやめさせたかったのだが…

なにせ、これに似た…もしかしたらこれ以上の事をミキとアンジェラは、さも当然のように体の関係を持つ少し前からずっとずっと行っている行動なので何も言えるはずがない。

ただ、周りの目からは自分達はこんな風に映り、こんな嫌な気持ちになっていたんだという事だけは身を持って知った。

しかも、相手が自分の恋人と婚約者だ。アンジェラは、今までの自分とミキを見てるようで羞恥のあまり、これから自分達を知る他の人達に会いたくなくなってしまった。


そして、就寝時間になり小さなワンルームだったので、みんなで雑魚寝する事となったのだが。

並び順もおかしい。

アンジェラが女性という事もあってドア近くの端に布団を配置されるのは分かるが、問題はその隣がミキだったのだ。

そして、ミキと少し隙間を開けて、エバン、クリシュナの配置である。しかも、布団が一式足りないという事で男同士のエバンとクリシュナが一緒の布団で寝る事となった。

そして、みんなが本格的に眠りに付いた頃。

エバンとクリシュナの布団からゴソゴソと音がしたかと思うと、何かを口に含んだ時に思わず声が漏れる音がしたと思ったら…何やら水音と小さく布団の擦れる音が聞こえてきて

「……ん、んん〜…???」

何か自分に違和感を感じ、不思議がりだんだん刺激が強く感じた所でクリシュナはパチっと目が覚め、自分が違和感を感じる部分を確かめる為に恐る恐る自分の布団を捲ってみると

「…え、エバンッ!な、なにやってるの!?」

と、ヒソヒソだが驚きの声を上げるクリシュナの声が聞こえた。

「……ん?気持ちいくない?
あはは、そんな慌てなくて大丈夫だよ。あの二人の紅茶には眠り薬入ってるからさ。多分、朝までぐっすり目が覚めないよ?」

「いつの間にそんな事したの?いや、それも、そうだけど……アッ…!!」

クリシュナが、色々とごちゃごちゃ言ってきそうだったので、エバンは…じゅっ!と、音を立てて刺激を強く与え、クリシュナが余計な事を言わないように刺激を与え続けそれから解放されたクリシュナは、ハアハア…を息を乱し快楽で頭がぽ〜っとしてさっきまで熟睡していた事も重なり動けずいた。

…ちゅっ!

「…これからが本番なのに、今からそんなんで大丈夫?」

と、愛おしそうにエバンは、クリシュナの濃い髭で剃っても剃っても青く残りちょっとチクチクするホッペにキスをしてから

最初吸い付く様なキスをしてだんだんと深い大人なキスに変わっていくと同時に、愛のある優しくも丁寧な何やらが始まり

「…本当に、クリシュナは優しいよな。…知ってたんだろ?アンジェラには俺という恋人が居た事も、ミキってアンジェラの付き合いの長いセフレがいた事も。」

エバンは優しく丁寧に丁寧に、クリシュナの体の隅から隅までくまなく愛しながらそんな話をしてきた。

「お前は、いつも何でも自分ばっかで抱え込んじまってさ。こんな風に快楽でバカになんねーと、周りに迷惑が掛かるって、自分の本当の気持ちをひた隠しにして何も教えてくんねーからな。…なあ?教えて?」

今まで、真っさらだったクリシュナの体はいつの頃からかエバンによって、快楽に弱い体に作り変えられたようだ。

エバンに愛され快楽のあまり、顔も体も真紅に染めて涙を滲ませているクリシュナ。
与えられるクリシュナに合わせて絶妙な強弱で刺激してくるエバンのテクニックに

隣で寝ているアンジェラとミキを気にして勝手に出てくる声を両手で塞ぎ、少しでも音が聞こえないように必死に頑張ってるクリシュナが可愛くて

いつものように意地悪したくなるが、今回はいくら眠り薬を飲ませているとはいえ、いつ目を覚ますか分からないので念には念をでそのままクリシュナには声を押し殺すのを渋々であるが黙認した。

「……最初の頃はアンジェラを信じてた。
…ずっと、ずっと…。だけど、アンジェラと大樹様そっくりな大樹様の使用人との噂もあって、よく僕に面白半分で二人の関係を話してくる人達は多くて困ってたけど。…人に会う度に、その話ばかり持ち掛けられるからね。
…けど、二人がただの親友では無くてセフレだという事は……小学生の頃から知ってた。」

「…え?そんな時から、あの二人エッチしてたのかよ!アンジェラと恋人になって、アンジェラのあまりの手の早さにビックリしたけど。それ聞いたら、どうりで……って、納得しちまうな。」

と、会話をしながら、エバンはエバンとしか性経験のないクリシュナの体を翻弄しながら会話を続ける。

「いつも、笑顔を絶やさず僕の話を聞いてくれていたアンジェラに僕はとても好感を持っていたし、アンジェラもそうだと幼い頃の僕は大きく勘違いしてた。
大好きなアンジェラの為にアンジェラの誕生日にビックリサプライズしようと考えたんだ。だけど、アンジェラが何が欲しいのか検討も付かなくて…。
その理由は幾つかあって、親の同伴でうちにお茶会する以外アンジェラと会う機会もなかったし、デートに誘っても彼女は忙しいらしく会う事もなかった。それに、彼女は自分の話をしたがらなかったからね。」

…それ、あからさまにアンジェラに避けられてただけだろ

それにも気がつかないで、健気にアンジェラに尽そうって努力してたんだな

あまりに、しつこいと嫌われるだろうし


と、クリシュナのアンジェラとの話は聞けば聞くほどエバンにとってクリシュナが不憫に思えるものばかりだ。

夏休みのアンジェラ達の合宿での出来事をキッカケに、クリシュナがアンジェラの婚約者だという事も初めて知った。

そもそも、アンジェラに家の事情だろうが婚約者がいるなんて話は聞いてなくて

フリーだとアンジェラ自ら主張していたので、そこまで言わなくていいのにとアンジェラのそこがまた可愛く思えてそれを信じた。

一般的に告白してる時点で恋人が居ない確定なのだから。告白されたら、その人がフリーだと思って当たり前である。

だが、桔梗という全身魔法衣に身を隠し顔も見せなかったクソ生意気なガキが、真実を見せてやるとアンジェラとミキの粗方の説明をしてきたが

エバン一筋だと言い続け、何かちょっとした事でもくっ付きたがる甘えん坊のアンジェラ。

アンジェラを信じて疑わなかったエバンは、とても信じられずいたが桔梗というクソガキは強制的にエバンをその場へ連れて行き、そこでアンジェラの本性を見てしまった。そこで様々な事実が発覚した訳で…


ショックもショック!大ショックで胸にポカリと穴が空きそうな時に、アンジェラの婚約者という男の存在。

そして、恋人の俺と婚約者へのアンジェラの態度があまりに違い過ぎて、自分よりもあまりに酷い真実を知ってしまったであろうアンジェラの婚約者があまりに不憫過ぎて

桔梗の勝手な都合で、それぞれ自分達の家へと強制送還された後もアンジェラへの怒りと裏切られ続けていた事への悲しみで辛くて苦しくてどうにかなってしまいそうだ。誰かに、この気持ちを話して相談したい!
そうでもしなきゃ、頭がおかしくなってアンジェラに復讐でもしてしまいそうだ。

と、苦しい、辛いともがいていた時、エバンの脳裏にアンジェラの婚約者だというクリシュナの顔が思い浮かんだ。

それからのエバンの行動は早かった。

色々な情報を元に、クリシュナを探し出しアンジェラの事で話がしたいと話を持ち掛け

そこで、お互いにアンジェラへの気持ちを話しているうちに意気投合。それから、ちょくちょく会い。それが、少しの時間さえあれば会いに行く程仲良くなっていった。

その内…急速にお互いの距離が縮まり、周りには“友達”と紹介して普通の仲のいい友達を装い

急にアンジェラがエバンの家に押しかけてきたと思ったら、まさかの大親友兼セフレのミキもも一緒という…最悪な展開であったが…

仕返しなんてしてはいけないのは分かっていても、二人揃った顔を見らたら二人の“あの時の光景”脳裏に浮かびカッとなり、チリチリと胸が焼けそうになりそこから一気にメラメラと火がついたのだ。

…そう。エバンは今までの彼らにとても復讐心が湧いてしまい、クリシュナは乗り気ではなかったようだがエバンはこれは丁度いい機会だと思ったのだ。

アンジェラは、自分の事がよく見えてなく調子乗りまくりで周りを卑下して嘲笑いもしてた。

そのまんまとはいかないだろうが

アンジェラ達がしてきた行動を再現して、それを体験してもらおうとエバンは敢えて、DQN過ぎる非常識にも程がある行動をしたのだった。

…まあ、恋人同士である自分達が二人きりの時そのままを実行しているだけだが。


一つは、今までの復讐。

もう一つは、エバン達のこの行動はアンジェラ達の行動であり、アンジェラ達に常識人、一般的な感覚が残っているのなら

実際にそれを見てどう感じるのか知ってほしく、自分達の行いを振り返り少しは周りの人達や恋人の気持ちを考えてほしいという強い願いも込められていた。



「…そして、例え政略的な婚約者であり出会いがどんな形であれ、お互い好き合ってる者同士。
いきなり、サプライズで現れてプレゼント渡されたらきっとアンジェラはビックリするし喜ぶに違いないってドキドキ、ソワソワしながらアンジェラの家に事前に電話でその趣旨を伝えてね。

アンジェラが、外に出てくるのを植木の隙間に身を隠して今か今かと待っていたんだ。
そして、僕の近くまで来たら飛び出してサプライズ!って、思っていたらアンジェラは周りをキョロキョロと確認すると誰も行きそうにない屋敷の裏に急足で向かっていった。

不審に思った僕は、どうしたんだろうと何も疑う事もできずコッソリとアンジェラの後を着いていったんだ。
そしたら、ビックリ!本当に腰が抜ける程驚いたんだけど。

アンジェラの隣に、とんでもなく広い敷地のあるお城のような立派な豪邸があるんだけど。そこは、鷹司家といってとてもとても身分の高い家柄なんだ。

そこの大きな囲いを軽々と飛び越えてきた、もの凄くイケメンな少年が現れてね。二人は、そこで恋人のようにとても仲良くしていて、お互いの家の不満や悩みを相談し合ってたんだ。

そこまでは、良かった。

だけど、小学生6年になってた僕は、二人の距離感があまりに近い事に不信感と不快感を持った。その不安はまさに的中して自分が想像していた事よりも、遥かにとんでもない光景が目の前で起きたんだ。

当時小学5年生のアンジェラと僕かアンジェラと同い年美少年が、クスクス笑いながら最初は戯れつくように

それが段々と本格的なエッチに変わってきて…僕は信じられないというあまりの衝撃とショックでその場で腰を抜かして身動きできなくなってしまったんだ。

そして、二人はたくさんたくさん愛し合って、それからアンジェラは僕の悪口を言い始めたんだ。

“なーんか、“ブスシュナ”って見た目で近寄りたくないのよ。同じ空間にいて同じ空気吸ってるだけでも嫌なのに、あのキモ男!私がおとなしくしてるからって調子乗って色々話しかけてくるのよ!最悪ったらないわ。

奴の唾が飛んでそうで、その前に奴の息がかかってると思ったらお菓子なんて食べれないしお茶さえ口もつけられないわ。

あんなのが、将来私の夫になるなんて最低最悪よ!
嫌よ!あんなブサイクと結婚するなんて!!

でも、あのブスシュナの家に入れたら、不貞の子って家での虐めから解放されるだけマシなんだろうけど…。”


そんな話が聞こえてきて、二人は同じ境遇で分かり合えてお互いを慰め合える無二の恋人なんだと確信したよ。」


と、泣きながら話すクリシュナをエバンは、悲痛な面持ちでギュッと抱き締め

「…辛いのに、今までよく耐えて頑張ったな。今は、俺がいるから。この先ずっと俺が、お前を支えていくから大丈夫だ。」

力強くクリシュナを守ると固く誓った。


「…けど、不思議なんだよな。社交界でも

“アンジェラ達の仲は誰がどう見たって怪しい”
“実際に、二人がヤッてる所見た事ある”

って、奴らも結構いたんだろ?

なのに、なんで当の本人たちはその噂とか知らねーの?アンジェラはどうか分かんねーけど、アンジェラの大親友兼セフレのミキって奴は侮れなさそうだぜ?洞察力もそうだけど、勘の鋭さもかなりあるように感じたんだけど?」

なんて、エバンが寝ているであろうミキをジッと見ると、直ぐに視線を愛しのクリシュナに向けフニャフニャ状態のクリシュナに質問をした。

「…それは、アンジェラとミキ君の耳に入らないように、二人の噂がある事が知られないように僕が口止めしたから。」

口止め?

どうして、クリシュナが?

何の為に?

と、そこにいるみんなが疑問に思った。


「…だって、そうじゃないか。自分達の父親が悪いのに、不義の子として家族やメイド、使用人達にまで虐められているアンジェラ。

不義の子だから世間に公表できないと帝王のいとこに当たる王族の血を引きながらも、使用人として扱われ成長すると大樹様専属の使用人にされた。同じ兄弟だっていうのに…酷い扱いじゃないか。

しかも、大樹を守る存在として強くなってもらわなければならないという理由で無理矢理に軍の学校に入れられて、その合間に大樹様の面倒を見たり尻拭いまでさせられる…こんな酷い話ってある?」

クリシュナは、自分の事でもないのにずっとずっとクリシュナを裏切り続け馬鹿にしてきた二人を思い泣いていた。

「それにアンジェラは家の事情で、気持ち悪くて大嫌いな僕なんかと無理矢理に婚約させられて将来結婚しなければならないって可哀想過ぎるじゃないか。
しかも、お互いを知り尽くして一心同体のような大切なミキ君って恋人もいるのに。

それもあって、少しでもアンジェラの助けになれたらって、アンジェラに会う度に
“もし、好きな人ができたら相談して?その時、アンジェラにとって何かいい方法を一緒に考えよう”
とは、言ってたけど。

一切、アンジェラは僕に相談する事はなくて、いつも通り人形のようにニコニコと一緒にいるだけだった。

家の事情が事情だし、アンジェラの立場を考えると身動きが取れないのだろうと僕なりにアンジェラの事を考えた結果ね。

アンジェラとミキ君の噂をしている子達に

“アンジェラとミキ君は愛し合っているけど、お互いの家の事情でアンジェラは政略的な道具に使われて僕と婚約しなければならなくて、可哀想にも愛する二人は引き剥がされたんだ。

少しでも、二人が可哀想だと同情する気持ちがあるなら、愛する二人の言動に目を瞑って今まで通り二人と仲良くしてあげてくれないかな?
そして、これ以上二人の噂も流さないでほしい。お願いします。”

って、説得して頭を下げてきたからかな?
たったこれだけしかできなかった僕だけど、少しでも二人が居やすい空間を作る手伝いができてたなら嬉しいよ。」


と、アンジェラとミキが学校での立場が悪くなる事を少しでも阻止できて、二人の居場所があるという事にとても喜んでいた。

「……嘘だろ……。クリシュナと知り合うようになって、クリシュナはいい奴だって思ってたけど…お前っ…!…人の事ばっかじゃなくて、もっと自分の事を考えろよ!いいよ、もう!
お前は、自分の事だけ考えろよ!もっと、自分を大切にしろよ!なんで、あんなクズカス達の為にお前が犠牲にならなきゃなんねーんだよ!」

エバンは、クリシュナを思い泣いている事を誤魔化すかのように、激しくも優しくクリシュナと一つになりクリシュナを存分に翻弄してクリシュナの奥底に最後の一滴までも愛を注ぎ込むと

「…ハアハア。次、バトンタッチ、な?」

そう言って、クリシュナを誘いクリシュナは一生懸命に腰を振っていた。必死になって自分を求めるクリシュナが可愛くて愛おしくて温かく幸せな気持ちが込み上げてくる。

「…それで、家の事情はどうにかするにしてもかなり難しい話だろ?どうするつもりなんだ?」

エバンは、何度もクリシュナにキスをしながらそんな話を問いかけてみると


「…最悪、アンジェラと結婚はするよ。だけど、ここまで毛嫌いされてるし…僕には君がいる。

だから、僕とアンジェラの間には子供はできないし、化学と医療の力を使って人工授精という手もあるけど。

それこそ、アンジェラの嫌っている僕の遺伝子の入った子供なんて見たくもないだろうし、考えたくはないけど子供を毛嫌いして八つ当たりして虐待をする可能性が高いって感じてる。

だから、人目もあるだろうからお忍びという形にはなってしまうけど、今までのように僕はアンジェラとミキ君の関係に気が付かない、知らないフリを続けていたら

きっと、二人の間には子供ができるだろうから。アンジェラの妊娠が分かったら、即座に人工授精の話を持ち掛けて人工授精させるフリをしようと思っているよ。

そして生まれてきた子は、アンジェラとミキ君二人の子どもだからアンジェラは大切に育ててくれるはずだよ。

もちろん、アンジェラが嫌がらなかったら僕も育児に参加したいな。生まれてくる子には罪はないし、子供はみんな平等に大切にされるべき存在だし未来を担う宝でもあるんだからって考えてるよ。」


と、いうクリシュナの考えを聞いて、エバンは何処までもお人好しっていうのか…バカ過ぎるってのか…と、呆れつつも、そこも放っておけないんだよなぁなんて愛おしさが増してくるばかりで

結局、二人は朝方まで深く愛し合い続けていた。

そして、二人仲良くシャワーを浴びに行き、そのシャワールームからも何回戦目かのゴングが鳴ったので暫くは部屋に戻って来ないであろう。

薄い壁の向こうから、愛の言葉が止めどなく響きとても複雑な気持ちでアンジェラとミキは布団から起き上がった。


「……クリシュナは、随分昔から私達の関係全部知ってたのね。私達の境遇の事まで……」

と、両立膝した膝の上に肘を立て、そこに顔を乗せ不機嫌に声を出した。

「…それもそうだけどさぁ〜。アンジェラの彼氏何者?
出された紅茶から、何かかしらの薬を盛らられたって事が分かってアンジェラにもそれを飲む事を止めたんだけど。俺達が、アンジェラの彼氏は紅茶飲んでない事に気がついてた。
なのに、俺達が寝てない事に気が付きつつ、“眠り薬を飲ませたから朝までぐっすり”なんて、アンジェラの婚約者に言い聞かせつつ、俺達に寝てるフリしろって圧掛けてきたからね。とんでもない曲者だよ?」

ミキは、アンジェラの彼氏は絶対只者じゃない。何者かという事が気になっていたようだが。

アンジェラは、昨日から今に掛けてもとても複雑で居た堪れない気持ちでいる。

同性で、いくら親友だと特別な存在だからと言った所で、…あんな恋人みたいに…しかも人目も憚らずイチャイチャして

少しでも、自分の親友に気がありそうな子に

“コイツの事なら、頭のてっぺんから足のつま先までも何でも知ってるからさ。コイツに関して分からない事あったら、気兼ねなくいくらでも聞いて?”

なんて、自分はミキの事ならなんでも知ってるけど、あんたなんかにミキの何が分かるのよといった気持ちは…今考えてみるとミキを取られるかもしれないという焦りと嫉妬から出た牽制だった。

まさに、エバンがアンジェラのその再現のような事をした時……。

…いや、どこから突っ込めばいいのか分からないが、そもそもエバンはアンジェラと別れていないのだから浮気になるのだろうが。

それはアンジェラだって同じで、エバンと付き合いながらミキと体の関係を持っていた。
嫌味で、大親友兼セフレと言われても仕方ない話だ。

さっきまでの話を聞いて、今までの自分を振り返りみている今、とてもじゃないがエバンの事を責め立てるなんてできなかった。

何より、自分が見下し適当に存外に扱っていた婚約者のクリシュナのアンジェラへの気持ちと、アンジェラだけでなくミキの為に二人の居場所が無くならないように、人知れずずっとずっと頑張り守り続けていたという事実に罪悪感と後悔ばかりだし…

クリシュナの容姿がガッカリ過ぎて、クリシュナの事を知ろうともしなかったので

まさか、こんなにアンジェラの事を考えてアンジェラの為に行動していた事はもちろん知らなかったし、人のために一生懸命になり、人を思い涙できる思いやりの塊のような優しい人だなんて全然知らなかった。…知ろうともしなかった。

それどころか、アンジェラはミキはもちろんのことアンジェラの友達にもクリシュナの事を“ブスシュナ”と言っては外見を嘲笑い

クリシュナと結婚したくないがあまり、よく知りもしない性格なども最低最悪だと悪い評判を流していたのである。

…しかし…それもそうと

同性愛者ではないノーマルのアンジェラには、エバンとクリシュナの愛の営みに衝撃を受けていた。
男同士でもできるという話はうっすら聞いた事もあったが、実際に目には…してないが会話と音を聞いてずっと心臓が止まるかという程に凄かった。

何より、二人の甘い甘い愛の囁きや言葉も心臓に悪すぎた。

よく、同性同士のエッチは男役、女役があるとは聞いていたが……本当だったと驚いたし

どうやら二人は、男役、女役の両方をしているみたいだった。だが、割合として9割がたエバンが女役であった事に、頭上から隕石が落ちてきたかのような衝撃があり、

自分の彼氏が……これから元彼になるのだろうが、彼が…女役で、女の子みたいに善がって声を上げていた事に酷くショックを受け、そんなオカマとエッチしてた自分が気色悪く思えた。

そんな様子のアンジェラを見て、アンジェラが考えてる事が手に取るように分かってしまったミキは一瞬アンジェラに向かって冷たい視線を送っていた。


「なーんか、アンジェラの婚約者に実際に会ってみたら、めちゃくちゃ良い人じゃん!
アンジェラから、聞いた話と全然違うんだけど?」

ミキがおっちゃらけたように、アンジェラに聞くと


「…だ、だって!仕方ないじゃない!!
あいつ、ブサイクなんだもん!」

と、アンジェラはプンプン怒りながら答えてきた。その答えに


「…え?アンジェラって視力悪いっけ?
俺にはアンジェラの婚約者、全然ブサイクに見えないし、普通の容姿してない?」

ミキは、アンジェラから聞いてた話と全然違うと首を傾げていた。

その事にアンジェラは、何も言えなくなって下を俯いた。


「…いくらアンジェラの事信用してるからって、自分の目で確かめないでアンジェラの話ばかり鵜呑みにしてた俺も同罪だけどさ。
……あんな、いい男どこ探したって見つかんないよ?
そんないい男を欺いて騙して、裏で彼を嘲笑いつつ悪評立てて彼の立場を悪くして…アンジェラは一体彼に何の恨みがあったの?
彼氏もさ、結局騙して裏切り続けてたんだよね?それは、アンジェラだけじゃなくて、俺も…」


いつになく塩らしくなったミキは


「……俺、やっぱ、陽毬ちゃんの事好き。本気で好きなんだ。最初は大樹への復讐の為の材料か駒としか考えてなかったんだけど。彼女と接するうちに、彼女の彼女だけが持つ魅力に惹かれたし。そんなの抜きにしたって好きでたまらない。
…そんな大好きで堪らない彼女に、軽蔑の目で見られちゃった。汚いって思われちゃった。」

と、虚な目をして泣いていた。


…ズキッ…!

あまりの痛々しさにアンジェラは、心が締め付けられるくらいに痛み、いつものようにミキを抱きしめようとした時

驚く事にミキは、アンジェラを手で制して


「…こういうのやめよ?ダメだよ、こんなの。
そうしなきゃ、自分が一番に大切な存在を傷付ける事になるし…自分の本当に大切なもの…未来も含めて全部失っちゃうよねー。」

そう言ってきたのだ。それにカッとしたアンジェラは


「今さら、何よ!これからも私達の関係は変わる事なんてないわ。ミキの事を一番に分かってあげられるのは私よ?ミキだって、そうでしょ?
今の関係が良くないって言うなら、周りが思ってる通り恋人になればいいのよ!そうよ!だから、恋人になろ?
そしたら、周りを気にしないで今まで通りの私達でいられるわ。」

とても、いい提案だとばかりにアンジェラはキラキラと目を輝かせて、そう言ってきた。だが


「アンジェラの事は、親友兼セフレって都合のいい存在だと思ってるけど、恋愛対象として好きになれない。
…ごめんね?どうあがいても、アンジェラに恋するとか無理。…だって、俺が好きなのは、ひーちゃんだけだから。それは、これからも変わらない。」

ミキは、アンジェラの提案を全力で否定してきたのだった。


「アンジェラの事は親友だと思ってるけど、もう人に勘違いされるような行動はしない。もちろん、エッチもしない。」

なんて、通常であれば、ごくごく常識であり当たり前の事を言ったミキに対して


「…酷いッ!最低よ!この悪魔!人でなし!!」

と、アンジェラは怒りのあまりミキに罵声を浴びせ枕を投げつけてきた。

声を上がながら大泣きするアンジェラに、それでもミキはいつもみたいに温かく手を差し伸べてくる事はなくひたすらに困った表情を浮かべ苦笑いするだけだった。